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デンマーク王女の涙【皇室コラム】

2020年11月25日 14:49
デンマーク王女の涙【皇室コラム】

12月1日に19歳の誕生日を迎えられる愛子さま。2006(平成18)年8月、静養先のオランダで見せた満面の笑みのわけと、高松宮妃喜久子さまがエッセーで投げかけた課題を考えます。(日本テレビ客員解説委員 井上茂男)

【コラム】「皇室その時そこにエピソードが」第2回「愛子さまの笑顔と成長」(下)


■「普通の女の子のように」王女の涙

オランダの笑顔から14年。愛子さまは大学生になられました。「立皇嗣の礼」で代替わりの儀式が終わり、安定的な皇位継承についての議論が始まります。判断によっては皇室にとどまり、「宮家」を創設されるかもしれない内親王です。ご本人の気持ちが伝えられたことはありませんが、ヨーロッパの王国には、13歳の時に継承者となって「泣き叫んだ」と伝えられる女王がいます。

北欧のデンマークのマルグレーテ2世女王です。先代の父、フレデリック9世国王には、スウェーデン王女のイングリッド王妃との間に3人の女の子がいましたが、女性に王位継承資格はなく、国王の1歳年下の弟、クヌード王子が継承者でした。ところが、1953(昭和28)年、国民投票を経て憲法を改正し、女性に継承資格を認め、1972(昭和47)年1月に即位しました。長い歴史を誇るデンマークで2人目という女王です。国民からとても慕われています。

なぜ憲法を改正したのでしょう。小泉内閣の有識者会議の資料(2005年)に手掛かりがあります。「王位継承資格者としては国王の弟は存在したが、国王(現女王の父君)及び王室も国民に親しまれ、非常に人気があったため、世論は、当時の国王の実子である女子が王位を継承することを支持し、憲法改正案も問題なく議会を通過した(外務省調査による)」と。つまり国王一家の人気が憲法改正を促したようです。

いきなり王位継承者となった王女の戸惑いは小さくありませんでした。外務省儀典官室や宮内庁式部職で長く国際親善にかかわった田口省吾氏は、著書『ヨーロッパの王室』(財団法人世界の動き社)で思いも寄らない話を紹介しています。「十三歳のマルグレーテ王女は、女王陛下になるのを嫌って『私は普通の女の子のように大きくなって、そして普通の結婚をして、普通に暮らしたい』と泣いて叫んだといわれています」。そのエピソードにはしみじみとしてしまいます。


■高松宮妃の問題提起

忘れられないエッセーがあります。高松宮妃喜久子さまが、愛子さまが生まれた時に『婦人公論』(中央公論新社)に寄せた「めでたさを何にたとへむ」というエッセーです。「あれましし内親王(みこ)すこやかに育ちませ待ちに待ちたる今日のよろこび」など3首の歌を添えて喜びが綴られています。その最後に、当時としては驚くべき問題提起があります。

「ただ、それにつけても、法律関係の責任者の間で慎重に検討して戴かなくてはならないのは、皇室典範の最初の條項を今後どうするかでしょう。女性の皇族が第百二十七代の天皇さまとして御即位遊ばす場合のあり得ること、それを考えておくのは、長い日本の歴史に鑑みて決して不自然なことではないと存じます」(原文のまま)。その愛子さまも間もなく19歳。あと1年で成年皇族です。この間、政府は何をしてきたのかと思ってしまいます。

11月8日に「立皇嗣の礼」が終わり、「安定的な皇位継承」と「女性宮家の創設」などの検討が始まります。政府は「古来例外なく維持されてきた」と男系継承を基本に考えているようです。戦後に皇室から離れた旧皇族の復帰を求める声も一部にあります。しかし、男系継承は行き詰まります。小泉内閣の有識者会議の資料によれば、明治以前の121代の天皇のうち、半数近い55代が「非嫡出」、つまり皇后以外の子だからです。「万世一系」と言われる男系継承は側室に支えられてきたのです。


■王女の思いを忘れずに

男系継承の伝統は理解しているつもりですが、21世紀の世の中で「男性だから就ける」「女性では就けない」という立場が広く理解を得られるでしょうか?今やヨーロッパの7つの王国で女性の王位継承を否定する国はありません。成長を取材してきた者として「愛子さまに」という思いもよぎりますが、現行の皇室典範で悠仁さまへの流れは決まっていますから、現実的ではありません。ただ、顔を思い浮かべての議論は人気に左右されやすく、「悠仁さまの後」を今のうちに設計すべきでしょう。もし内親王の結婚後の立場を変更するなら、一日も早く決めるべきです。マルグレーテ王女13歳の涙を忘れてはいけないと、成長された笑顔の愛子さまに思います。


【井上茂男(いのうえ・しげお)】
日本テレビ客員解説委員。皇室ジャーナリスト。元読売新聞編集委員。1957年生まれ。読売新聞社で宮内庁担当として天皇皇后両陛下のご結婚を取材。警視庁キャップ、社会部デスクなどを経て、編集委員として雅子さまの病気や愛子さまの成長を取材した。著書に『番記者が見た新天皇の素顔』(中公新書ラクレ)。

※冒頭の動画は「オランダ静養中、満面の笑みを見せられた4歳の愛子さま」(2006年8月18日オランダ・王室馬車庫)

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