【解説】「こどもまんなか」…当事者は“半信半疑”? 発足1か月
こども政策の司令塔として4月に発足したこども家庭庁。何度も提言された少子化対策は今度こそ実現できるのか。こどもまんなか社会は本当に実現できるのか。そのためにもこどもの意見を聴く取り組みが始まったが、こどもに見える形で政策に反映できるかが問われている。(社会部 西出直哉)
こども家庭庁は、4月28日にオンラインイベントを行った。こども・若者1万人から意見を聴いて、政策に反映しようと「こども若者★いけんぷらす」という取り組みを始め、その参加者「ぷらすメンバー」向けに改めてこども家庭庁の役割などの説明を行った。
先月発足したこども家庭庁は、「こどもまんなか」社会の実現を掲げている。
「こどもまんなか」社会とは常にこどもの利益を第一に考え、こどもに関する取り組みを脇の方や、後回しではなくまんなかに据える社会を意味する。すべてのこどもを対象として、誰ひとり取り残すことなく、必要な支援をする。そのための重要な考え方は、「こどもの参加」や「大人がこどもの意見を聴く」ことである。
■こども基本法
こども家庭庁の発足と同時に施行された「こども基本法」は、国と自治体にこどもや若者に関する政策を決める際に当事者であるこども・若者の意見を聴くことを義務づけた。つまりこども家庭庁は、率先して、こども・若者の意見を聴く必要があり、「こども若者★いけんぷらす」といった取り組みを始めたわけである。
これまでは、保育所に関することは厚労省が担当、認定こども園は内閣府、幼稚園は文科省などと学校入学前のこどもたちが通う施設を見ても担当府省が違っていて、いわゆる縦割りによる弊害も指摘されてきた。
それがこども家庭庁に一本化され、一部、学校など教育行政の所管は文科省に残るものの、虐待、いじめ、貧困、児童手当などすべて担当。こども政策の司令塔としての役割が期待されていて、今まで司令塔不在だった就学前のこどもの育ちや放課後のこどもの居場所づくりなども主導する。
今後のこども子育て政策に関して、今注目されているのは、こども家庭庁を担当する小倉こども政策担当相が3月末に発表した、いわゆる少子化対策のたたき台を巡る議論である。
岸田首相が「次元の異なる少子化対策」を打ち出したことを受けたこのたたき台には、例えば児童手当について所得制限撤廃や、複数の子がいる場合の加算などの検討、一定期間育休給付を手取り100パーセント相当にすること、保育士の配置基準の改善、出産費用の保険適用に向けた検討、といったメニューが並ぶ。
今すぐにでも実施してもらいたいものが並んでいるが…
実は少子化対策に関するこうした政策はもう何年も前から必要だと指摘されながら必ずしも実行はされなかった。2014年の政府の審議会ですでに複数の子どもがいる世帯の負担軽減は提言されていて、2016年には男性の育休の推進、2018年の会議では出産費用の負担軽減が打ち出されている。提言されているのに、実現されないのはなぜか。一番大きな要因は予算・財源の問題だ。政府が予算を投入すると決断しないと政策は実現できない。
現在、政府は、この「たたき台」のうち、何を、いつ、実施するかそれに必要な財源をどうするのかを議論している。そして6月の『骨太の方針』の策定までに将来的な「こども・子育て予算の倍増」に向けた大枠を示すという。財源は税金か、社会保険料の一部を使うのか国債を発行するのか、歳出を削減し捻出することを求める声もあるが、児童手当の多子加算を実現するには数兆円が必要との試算もあり、何らかの負担増が必要な場合、政府は国民に丁寧に説明する必要がある。
■「こども」に関する政策は?
少子化対策ばかりに注目が集まるが、こども家庭庁が取り組む「こども政策」を見ていきたい。
「こどもファスト・トラック」は、こどもや子連れの方の優先レーン。まずは国立科学博物館など国の施設から導入を進めていて、今後は民間施設などにも広げこども、子育て世帯にやさしい社会づくりの機運醸成をしたいとしている。
今後5年を見据えた基本的な方針などを議論するこども家庭審議会には、当事者として大学生、若者、子育て中の母親など7人が委員に任命された。
こどもの自殺対策に関する関係省庁の連絡会議は、こども家庭庁を司令塔に、厚労省、文科省、警察庁などが連携。6月上旬めどに対策が取りまとめられることになった。
■こどもたちはどう受け止めているか
4月4日に行われたこども記者による小倉大臣記者会見では、小中学生のこども記者から以下のような質問が出た。
「こども家庭庁の政策は選挙のためのアピールなど一時的なものではなく、私たちが大人になるまでずっと続くものになりますか」
「こどもに決定権がなく話を聞いた大人たちが決めるのであれば、本当のこどもまんなか社会とは言えないのではないでしょうか」
このように当事者のこどもたちも期待半分、疑い半分という反応を見せている。
■こども若者★いけんぷらすへの期待
そうした中で、こどもたちにとって、「こども若者★いけんぷらす」への期待は大きいようだ。「こども若者★いけんぷらす」はメンバーを常時募集中でこども家庭庁が、具体的に意見を聴く「いけんひろば」の実施は夏ごろの予定だ。
先日のキックオフイベントに参加した福島県の中学1年生、西形花璃さんはこのように話している。
「福島で言うと、今の処理水関連(のテーマが)あるじゃないですか。将来私たちが生きていく地球なのに、大人たちにずっと任せてるわけにはいかないので」
■こどもたちに見える形で実現できるか
昨年度まとめられたこどもの意見反映に関する研究の報告書は、こども・若者が当事者になる政策や気候変動など長期的なスパンの政策には特にこども・若者の意見を聴くことが必要と指摘している。
国の各省庁には今後、こども・若者の意見を聴くことが求められるが、「こども扱い」なしでテーマを設定し意見を聴けるか、それをこどもたちに見える形で政策に実現できるかが問われる。