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いち早く津波に気づく 海底観測網の構築

2021年3月1日 12:03
いち早く津波に気づく 海底観測網の構築

東日本大震災から10年、当時被災地では何が起こっていたのか、今一度検証し、これからの大地震へどう備えるかを考える。津波によって多くの命が奪われた大震災。悲劇を繰り返さないため、津波の高さや到達時間を精度良く予測するプロジェクトが進んでいる。


■10年前の津波予想 「高さ3メートル」

10年前のあの日、岩手県宮古市の防災無線から流れたのは「予想される津波の高さは約3メートルです」というアナウンスだった。

予想はその後「約6メートル」に修正されたが、実際にはそれをさらに上回る高さ10メートル以上の巨大津波が押し寄せた。同じく3mの高さの津波が予想されていた陸前高田市の住民の1人は当時、「最初私が耳にしたのは3メートルということで、その時点では緊迫感が全然なかった」と語っている。


■なぜ津波を過小評価したか?

2011年3月11日の午後2時46分に発生した東日本大震災。

気象庁が発生から3分後に発表した予想される津波の高さは、岩手3m・宮城6m・福島3mだった。気象庁の担当者は当時を振り返り、初動の時点では、地震の規模を示すマグニチュードを7.9と過小に推定していたことが、津波を小さく見積もってしまった原因だと言う。東日本大震災の実際のマグニチュードは9.0。地震のエネルギー自体は当初の見積もりの30倍を超えていたことになる。


■巨大地震の場合「巨大」「高い」と表現

気象庁は、東日本大震災を教訓に考え方を変えた。巨大地震が起きた場合には震源断層の破壊は数分間に及ぶことから、第一報では正確なマグニチュードはわからないと判断し、マグニチュード8を超える巨大地震が起きたと推定される場合には、地震発生から3分後に発表する津波警報においては津波の高さを数字ではなく「巨大」や「高い」と表現することにした。

初動では津波高を過小評価するリスクを避けるために定性的な表現を採用しまずは非常事態であることを確実に伝えて、住民に避難を促すことに方針を転換したのだ。


■海底で進む「津波予測」

しかし、国は津波予測の精度向上を諦めた訳ではない。この10年で特に進んだのが、日本沿岸の海底に長大な観測網を敷設し、津波をいち早く捉えようとする国家プロジェクトである。

防災科学技術研究所は、東日本大震災の震源を含む東日本太平洋沖の海底に全長5500キロにおよぶ「S-net」と呼ばれる海底ケーブルを敷設。また海洋研究開発機構は、今後発生が懸念される「南海トラフ巨大地震」の震源域である紀伊半島沖や紀伊水道から四国沖にかけて「DONET」と呼ばれる海底津波観測網を整備した。

こうした観測網には、津波を計測する水圧計や地震計などの装置が備えられている。津波が発生した場合には、震源に近い海底に設置された複数の水圧計で津波を感知し、瞬時に解析された後に沿岸に到津する波の高さや到達時間を精度良く予測することが可能になりつつある。

この10年で気象庁は、こうした海底のデータも活用し津波の情報を発表できるようになった。近い将来、南海トラフ巨大地震の想定震源域の南西部にあたる宮崎県沖の日向灘にも「N-net」と呼ばれる新たな津波観測網が増設される予定だ。東日本大震災を教訓とした津波から命を守るプロジェクトは、震災から10年経っても動き続けている。


画像は「海底観測網DONETの敷設」(提供:JAMSTEC)

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