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中村壱太郎&尾上右近「想い循環させたい」

2021年3月26日 17:53
中村壱太郎&尾上右近「想い循環させたい」

「みんな同志、戦友。自分たちの思いを循環させたい」――花形歌舞伎をけん引する若手、中村壱太郎・尾上右近に市來玲奈アナが聞く。

3月、京都・南座「三月花形歌舞伎」に出演された中村壱太郎さん、尾上右近さんに話を伺い、《前編》では公演や役に向けての思いなど、語っていただきました。右近さんの思いが込み上げ、壱太郎さんが冷静に突っ込むという仲の良さが垣間見える瞬間も。《後編》は普段の生活について聞きました!

【市來玲奈の歌舞伎・花笑み 第7回 中村壱太郎・尾上右近(後編)】

■「ここまであうんの呼吸が取れる人っていないなと」

壱太郎さんから見ると、右近さんはここ最近、自分がどのように見えているのかをすごく気にしているとのこと。その一つ、こだわりのファッションについては・・・

壱太郎 「これだと思ったものに対してはお金を惜しまない、その決断力と自分に合うものに対する執着心が素敵だなと思いますね。“え!?これ?”というものが、右近くんだと似合うんですよ」
右近 「嬉しいです(笑) 一緒に奇抜な格好して歩きたいですよ」

壱太郎 「僕はファッションのこだわりはないんですけれど、昨年祖父(坂田藤十郎さん)が亡くなりまして、祖父が着ていたものを着たいなと思い、直せるものは直しています。まさに、今日もコートやネクタイもそうなんですけれど、色々なものを祖父で染めていますね。そうなると、それに合うズボンにしよう!などど、変わってきていますね」

右近 「この前、夜にお会いした時にコートを着ていたんですけれど、オーバーサイズのようになっていて、こっち(自分)よりにきたのかなと(笑)」

――仲良しの二人、お互いの印象は。

壱太郎 「昨年コロナ禍、何かやらなければ歌舞伎がなくなってしまうのではないかと思い詰めてしまって、じゃあ自分で何かやってみようという時に声をかけたら、即答で「一緒にやろう!」と言ってくれたのが右近くんで。なぜ声を掛けようと思ったかというと、特に踊り(舞踊)ですよね。一緒に踊っている時に、ここまであうんの呼吸が取れる人っていないなと感じたんですよね。ということは、常日頃離れていても、連絡を少しとるだけで全て理解しあえているんではないかなと……そんな方です」

右近 「お互い役者同士で先輩後輩ですけれど、思うこと見えているものが違う部分があるのは分かっているんですけれど、そのうえで一緒にいたいんですよ。これは信頼関係というか、本当の仲の良さというか。僅かな違いも面白いなと思うし、刺激になるんですよ」

壱太郎 「そう、刺激になるということは一番あるかもしれないですね。多分目指す先のゴールは一緒だと思うんですよ。そこに行くまでの道のりは全然違うと思う。ただ、それぞれの道のりの中で挫折したり、喜んだり、その瞬間を一緒に味わったり、報告したりしたくなるんですよね」

右近 「そうなんですよね。自分は自分として貫かなければいけないことがたくさんあって、そのうちに独りぼっちみたいな感覚になるんですけれど、でもパッと見た時に、もうひとり独りぼっちの人がいる!みたいな。独りぼっち同士、同じ山目指そうぜ!という気持ちですよね」

壱太郎 「うん、わかりますね。戦っている心は僕だけだ、ってなった時に気づけばそこには、尾上右近なんですよ」

右近 「同じように自分自身で自分を守っている人がいるとすごく支えになるので、それが壱太郎さんっていう存在です、僕にとっては」

――まさに昨年コロナ禍で、2人が挑戦したのが『ART歌舞伎』でしたが、今後挑戦したいことは。

壱太郎 「どうですか」
右近 「何かまたご提案頂けるのであれば……」

壱太郎 「右近くんは色々なことに果敢に挑戦しているんですけど、意外と受け身なんですよ!(笑) もちろん色々考えていて、“コロナでやってたね”ではなくて、“コロナで始まったね”とならなければいけないと思います。まずは右近くんとは、この3月の歌舞伎を成功させて、歌舞伎の生の舞台で、「もう1回尾上右近、中村壱太郎の何かを見たい!」とお客さんに思わせるのが次の目標じゃないですかね」

右近 「ついていきます!(笑) まずはこの3月という思いは僕も同じですし、今この瞬間を楽しむけれど、それはまた何かその先につながっていくものがあると信じて、ということなので今回この舞台に懸ける思いはそこなのかなと」

――常日頃、芝居のことを考えている2人。リフレッシュ方法は。

右近 「聞きたいね~壱太郎さんの」
壱太郎 「僕はね、ないんですよ。どんなにリフレッシュしようと思っても、脳内が(お芝居のことに)いっちゃうらしく。もう無理ですね、リフレッシュは!朝絶対にお風呂につかるんですけれど、その時間だけでもと思っても、そういう時こそアイデアが浮かんできて……下手すると寝ている時の夢すら、そうなってくる」

右近 「僕はね、そこまで重症じゃないんですよね~」
壱太郎 「そんな病気みたいにしないでよ!」

右近 「僕は一つ一つ触れるものに対して敏感であることですかね。そこから歌舞伎にというのは少し時間がかかる。没入することがリフレッシュ方法なのかなと思いますね。でもやっぱり歌舞伎見るのが一番リフレッシュになっているのかな」
壱太郎 「その時点で重症だって!(笑)」

やはりお互い、どこか似ているみたいです!最後に、2人の歌舞伎役者としての目標を聞きました。

壱太郎 「歌舞伎役者として一生生きていく覚悟はありますので、その一生の中で1人でも多くの方に歌舞伎を見てもらうことが僕の使命だと思います。僕は上方歌舞伎の家に生まれているので、関西で歌舞伎の年表に残ることをやって、役者を全うしたいという思いがありますね」

右近 「(カメラはどちらですか……)」
壱太郎 「そういうのちゃんとしてるよね~わからないんだよ、どれで撮っているんだろうって……」

右近 「歌舞伎面白いんだなと思ってもらえる舞台を勤めたいし、歌舞伎をやっていない瞬間でも、僕を通じて歌舞伎面白そうだなと思ってもらえる存在になりますので、ついてきてください(カメラ目線)」
壱太郎 「そういうことか~そういう使い方か~」

◇◇◇
最後に壱太郎さんが羨ましがるほど、しっかりとカメラ目線で決めてくださった右近さん。
取材後も話が止まらないほど、本当に仲が良く、いつかは2人でコンビ名を決めたい!と考えているとのこと。壱太郎さん、右近さんがお互いにそれぞれの話に共感している姿が印象的でした。次世代の歌舞伎界を引っ張っていく“名コンビ”に注目です!

次回は中村福之助さんにお話を伺います。

【中村壱太郎(なかむら・かずたろう)】
1990年8月、四代目中村鴈治郎の長男として生まれる。1995年1月、『嫗山姥』の一子公時で初代中村壱太郎を名乗り、初舞台。2014年9月、日本舞踊吾妻流の七代目家元を襲名し、吾妻徳陽を名乗る。

【尾上右近(おのえ・うこん)】
1992年5月生まれ。曽祖父は六代目尾上菊五郎。2000年4月、岡村研佑の名で初舞台を踏み、2005年1月、二代目尾上右近を襲名。2018年2月には、七代目清元栄寿太夫を襲名。