映像で振り返る 天皇ご一家のこの1年~“令和初”国際親善、国民との触れ合い、愛子さまのお出かけ…【皇室 a Moment】
ひとつの瞬間から皇室の実像に迫る「皇室 a Moment」。今年は、即位後初の国際親善や地方行事への“リアル”出席など、両陛下やご一家のお出かけが多くありました。日本テレビ客員解説員の井上茂男さんと、「ご一家のこの1年」を振り返ります。
■振り返る天皇ご一家のこの1年
はい。両陛下やご一家の、今年の印象に残った場面を選んでみました。今年は、即位から5年目で、両陛下にとってご結婚から30年、そして、即位後初めての国際親善訪問があり、コロナ禍でオンラインだった地方行事がリアルの出席に戻った年でした。そして皇后さまが還暦、60歳を迎えられた年でもありました。
――直接足を運ばれますと、やはり出先の人との交流も増えますし、和やかになりますね。
そうですね。多くの人が喜ばれたんだと思います。
――きょうは井上さんと共に、天皇皇后両陛下、天皇ご一家の、この1年を振り返ります。それぞれの場面を解説いただきますが、まず5月のこの場面ですね。
ご結婚30年を記念した展覧会です。ご成婚の6月9日に先立って5月に東京のデパートで行われ、両陛下は愛子さまと一緒にお出かけになりました。
こちらはご成婚のパレードで乗られたオープンカーですが、両陛下は6月9日、「今日で結婚30年を迎えると思うと、感慨もひとしおです。30年前、雨の降る中で執り行われた結婚の儀や午後の朝見の儀、多くの方から温かい祝福を頂いたパレードなどを懐かしく思い出します」と「ご感想」を出されました。率直な思いだろうと受け止めました。
歩み展には、「結婚の儀」で両陛下がお召しになった装束や、婚約会見の時の雅子さまの黄色い洋服も展示されました。展示を見て、愛子さまは陛下にプロポーズの「再現」をせまり、天皇陛下が苦笑いをされるシーンもあったそうです。皇后さまは「あっという間でした」と話されていたということです。
30年前の記者会見も、パレードも、私は読売の記者として取材していましたが、当時、“皇室への新しい風”を感じたことを昨日のことのように思い出します。ご成婚の日は前夜からの雨でしたが、パレードの直前に雨がさーっと上がって、出発の直前にオープンカーの使用が決まりました。
――私、パレードの出発の実況のために宮殿・南車寄の前にいたんですが、本当に直前にさーっと雲間から穏やかな日差しが降り注いで、隣の記者と共に思わず空を見上げたのを思い出しました。
思わず「おーっ」と声が上がるような晴れ方でした。
■インドネシア訪問 日本ではない“密着取材”も
――そして6月にはインドネシアへ。
令和5年のハイライトは、やはり6月のインドネシアご訪問だと思います。こちらはジョコ大統領夫妻と臨んだ記念植樹の場面です。即位後初めての国際親善訪問で、皇后さまにとっては実に21年ぶりの親善訪問でした。
大統領夫人が宮殿内を案内する場面では、日本国内ではまず設定されない“密着取材”が許されました。インドネシアの伝統工芸品を見て回られたのですが、この場面に象徴されるように、皇后さまの明るい笑顔を見ることができました。
――打ち解けた雰囲気で声を立てて笑っていらっしゃいましたね。
素敵な笑顔です。
――華やかに、和やかになりましたね。
また訪問中、先の大戦後もインドネシアに残り、現地の人たちと独立戦争を戦った残留日本兵の遺族にも会い、日本語や技術を学ぶ若い人たちと交流されました。滞在の最後に、陛下は、旅の感想をカメラの前で、自分の言葉で、語られています。
天皇陛下:「やはり今はインターネットでもって、いろいろ外国の情報が手に取るように分かりますけれども、やはりこの外国に実際に行ってみなければ分からないことというのは数多くあると思います。若い方々相互の交流によって両国間の親善関係がより深まることを心から願っております」
これは、記者たちが囲んで話を聞く“ぶら下がり取材”です。陛下は皇太子時代の後半から外国訪問の時に“ぶら下がり”で旅の印象を語られてきました。天皇になってもそのスタイルを踏襲されたんだと思いました。
――真面目で飾らない陛下のお人柄がにじみ出ていて、私、このいわゆる「ぶら下がり取材」が好きです。
やはりご自分の言葉は伝わってくるものがあります。
■戻った地方へのお出かけ 国民との触れ合い
――そして9月の北海道での一枚……
北海道の海づくり大会の1シーンです。今年は、“四大行幸啓”といわれる定例の地方へのお出かけが、すべて“リアル”に戻った年でした。いずれも1泊2日の“短縮バージョン”ですが、コロナ後の大きな変化でした。
まず、6月に岩手県で行われた「全国植樹祭」です。両陛下は、植樹祭に先駆け、東日本大震災で大きな被害を受けた陸前高田市と大船渡市を訪問されました。
陸前高田市の高田松原復興祈念公園の「海を望む場」では、両陛下は花を手向け、海に向かって深く頭を下げられました。両陛下が東日本大震災の被災地に足を運ばれたのは即位後初めてのことでした。
9月には「豊かな海づくり大会」で北海道厚岸町を訪問されました。先ほどのシーンです。放流行事では北海道の名産で知られるカレイのマツカワの稚魚などを放流されました。
10月にはかごしま国体の総合開会式に出席されました。2020年の開催予定がコロナ禍で延期され、「特別大会」として行われました。
天皇陛下:「『コロナ禍からの再生と飛躍』を象徴する大会として、皆さんの心に残る、実り多い大会となることを期待し、総合開会式に寄せる言葉といたします」
――国内のさまざまな所に足を運ばれて、何か“令和の両陛下”がようやく始動したといいますか、「動き始めたのだな、時代が」という感じもしてきますね。
そうですね。“令和皇室”のご活動がいよいよ本格化してきた始まりの年かなという印象です。
■4年半ぶりの園遊会 ユーミン、ひふみんとも会話
今年は4年半ぶりに園遊会も開かれました。令和になって初めての園遊会でした。途中から激しい雨になりましたが、両陛下は卓球の伊藤美誠選手や、車椅子テニスの元選手の国枝慎吾さんら五輪・パラリンピックのメダリストらと話をされました。
皇后さま:「ずいぶん小さいときからすごくたくさん(練習を)?」
伊藤選手:「そうです。2歳くらいからお母さんと一緒に練習して」
天皇陛下:「厳しかったですか?」
伊藤選手: 「とても言えないような内容なんですけどね」
また、11月の秋の園遊会は晴天に恵まれ、将棋の加藤一二三さんやシンガーソングライターの松任谷由実さんらと話をされました。
皇后さま :「50周年のツアーをなさって」
松任谷さん:「はい。今その締めくくりのツアーの最中です」
天皇陛下 :「『翳りゆく部屋』『卒業写真』とかも」
松任谷さん:「ありがとうございます。雅子さまも、リフレッシュの時にぜひ聞いていただけると光栄です」
陛下は「翳りゆく部屋」や「卒業写真」の曲名を挙げられましたが、これらは松任谷さんの荒井由実時代の名曲ですね。1970年代、ちょうど陛下が高校生のころで、お好きだったんだろうと思います。
――陛下の青春ですね。
■愛子さまとのお出かけ プライベートショットの公表も
――そして最後はこちらの写真です。
今年は、両陛下と愛子さま3人でのお出かけもずいぶんとありました。
中でも印象に残っているのは、日本赤十字社の本社で行われた関東大震災の企画展へのお出かけです。慰霊碑に白いユリの花束を供えて慰霊されたシーンです。愛子さまがこうして慰霊をされるシーンを見るのは初めてのことでした。
9月には、秋篠宮家の佳子さまが総裁を務める日本工芸会の「日本伝統工芸展」へ。愛子さまは佳子さまに「よろしくお願いします」と挨拶されていました。
11月には、東京国立博物館で開かれた「やまと絵展」を訪れ、国宝の屏風や絵巻をご覧になりました。愛子さまは現在、学習院大学文学部の日本語日本文学科の4年生で、日本の古典や伝統文化について学ばれています。
――文学、工芸、美術、音楽にも恐らくご興味が深いんでしょうね。
はい。天皇陛下と愛子さまお2人でのお出かけもありました。10月に皇居で行われた秋の雅楽演奏会です。愛子さまは今月が提出期限の卒業論文に取り組まれていましたから、秋の時期のこうしたお出かけは、いいリフレッシュにもなったのではないでしょうか。
――勉強の機会だったかもしれませんね。
12月1日、 22歳のお誕生日の日、上皇ご夫妻を訪ねる愛子さまを仙洞御所の近くで取材しましたが、爽やかな笑顔がとても印象的で、素敵な内親王になられたという印象です。これから始まる公務でどんな姿を見せられるか楽しみにしています。
――来年の春には大学をご卒業になりますね。
リアルのお出かけだけでなく、折々に両陛下から公表されたプライベートショットも印象的なものでした。
6月9日のご成婚30年の記念日にあたり、4月に滞在した御料牧場で撮影された17枚の写真が公開されました。天皇陛下撮影の写真も含まれているそうです。
こうしたプライベートショットの公表は、愛子さまの成長の様子を知ってもらおうと、天皇陛下が皇太子時代から大事にされてきたやり方で、私たちが取材できない部分を埋める上でとても貴重です。そのやり方が変わらず大事にされていて、うれしく見ました。
――動物がお好きなご一家なんですね。(感染防止の防護服姿に)きちっと装いを整えてから触れあわれているんですね。
愛子さまは新しく生まれた牛に「レインボー」という名前をつけていて、その様子もこの写真から分かります。
――御家族の何気ないショットですけれど、これが語りかけるものって大きいですね。
公式の写真とは違う何かが伝わってきますね。
また、訪問先で、天皇陛下がコミュニケーションをとるためにポケットにしのばせていたご自身撮影の写真や、「中秋の名月」の写真も公表されました。こうした写真からは陛下の“ご関心”がうかがえ、とても興味深いです。
いま宮内庁の広報の充実が言われていますが、陛下撮影の写真は、その“穴”を埋めて余りありますから、こうした陛下の内面に触れるような写真を、折々に発信してほしいなと思います。
――一枚の写真が語るものって、大きい豊かなものがありますね。
■還暦を迎えられた皇后さま
――そしてこの12月には皇后さまが還暦を迎えられましたね。
はい、今月9日、皇后さまは60歳、還暦を迎え、「これからまた新たな気持ちで一歩を踏み出し、努力を重ねながら、この先の人生を歩んでいくことができればと思っております」と感想を発表されました。医師団は、引き続き治療が続き、波があるなかで体調を整えながら活動されていることを明かしています。皇后さまには、無理せず、出来る行事をこなしていただきたいと思います。
令和6年も様々なお出かけ、交流があると思います。オンラインは遠隔地の人たちと交流できる利点もありますが、リアルのご訪問が基本ですから、地方の滞在期間を少しずつ延ばして、両陛下のやり方で触れ合いを深めてほしいと思います。
――本当にコロナ禍の前に、かなり戻ってきたなということが、とみに感じられる一年になりましたね。来年がよりよい年になりますように。「皇室日記@日テレニュース24」。きょうは日本テレビ客員解説員の井上茂男さんとともに天皇ご一家のこの一年を振り返りました。ありがとうございました。
どうもありがとうございました。
【井上茂男(いのうえ・しげお)】
日本テレビ客員解説員。皇室ジャーナリスト。元読売新聞編集委員。1957年生まれ。読売新聞社で宮内庁担当として天皇皇后両陛下のご結婚を取材。警視庁キャップ、社会部デスクなどを経て、編集委員として雅子さまの病気や愛子さまの成長を取材した。著書に『皇室ダイアリー』(中央公論新社)、『番記者が見た新天皇の素顔』(中公新書ラクレ)