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傷なめあう兄弟ではなく若手花形が目指す道

2021年4月23日 18:54

【市來玲奈の歌舞伎・花笑み 第8回 中村福之助】

■「1回リセットできて、考え方も変わったなと」

――新型コロナウイルスの感染が広まり約1年、どのように過ごされていますか

「僕は楽しみにしていた公演が中止になってしまって結構落ち込んでいたんですけど、父に『これだけ休んで1回舞台と距離を置けるというのは逆にないから、ポジティブに』と言われました。よく先輩に言われるのが、“若い時の癖は直らないよ”って。癖みたいなものができてしまった部分はあったので1回リセットできて、考え方も変わったなという期間でした」

――新しく始めたことは

「普段だと毎日舞台があるので夜更かしができないんですが、コロナ禍でやることがないなと兄と話していて、ゲーム(フォートナイト)を始めてハマってしまいました。でも寝られなくなってしまうのでやらないようにしています。弟は料理始めたんですけど、僕はフォートナイトしかなくて……、母親にもよそでフォートナイト始めたって話しないで!って言われました(笑)」

――兄弟みなさん仲良いんですね

「兄と僕はタイプが似ていて、弟はインドア。親子4人同時襲名があって、父にも『みんなが大変だとぶつかるから、お前がうまく間に入れよ』と言われて。僕は争いごとを好まないタイプなんですけど、兄と弟は思うことをバンバン言うので、ケンカにならないように僕が入っていますね。母には、兄とケンカをすると、歌舞伎の先輩で目上の人なんだから口答えは気をつけなさい、弟とケンカすると大人げないと言われます」

――お父さんの存在について

「出はじめて襲名だったのでスポットライトがあたることしか経験していない。下積みというものを経験せず、いきなり真ん中に座らされた。襲名が終わった時に、父が『“襲名マジック”がある。終わったら(出演回数が減り気持ちが)落ちるけどそれが現実だから』と早めに教えてくれました。それで自分(の心)が折れずにいられ、今では市川猿之助の兄さんや坂東玉三郎のおじさまに声をかけていただくようになって、父の大きさを改めて感じましたね」

■お客さんに変化を感じてもらうため「毎日違うようにと意識」

――犬を飼っていらっしゃいますよね

「18歳に襲名があって、一区切りついたのが20歳だったんですけど、成人祝いで母が何でもいいよって言うから、小さい時から欲しかったワンちゃんを買ってもらったんです。早く帰りたくなっちゃうんですよね。僕ラーメンが好きで、(名前は)ラーメンの“めんま”。チャーシューか悩んだんですけど、食べたくなりすぎちゃうかなって(笑)。母親は反対してたんですけど、結局“めんま”にしてなじんでます」

――歌舞伎の道に進もうと思ったのはいつ頃ですか

「僕だけ中学、高校と学校を優先していて、歌舞伎役者になろうと決意したわけでもなく……。『歌舞伎の家に生まれていなかったら歌舞伎なんてやっていない』とよく父に言っていました。中・高で客観的に兄と弟を見られたことで、御曹司(代々続く歌舞伎家庭)という特権を持っている僕が捨ててしまうのはどうなのかな、お弟子さんたちがついてきてくれるような人になりたいと思ったことがきっかけかなと思います」

――今回の演目『桜姫東文章』について

「僕も生まれる前の話なんですけど、坂東玉三郎のおじさまと、片岡仁左衛門のおじさまの桜姫はすごかったという話だけは父から聞いていました。だから出させていただくということに対して頑張らなきゃと思っていたんですけど、それよりもお客様のワクワク感が僕たちにも伝わってきていて。この空気感にいられる(同じ舞台に立てる)若手は僕だけじゃん!という嬉しさもあります」

――実際に演じていて、いかがですか

「大変ですね。玉三郎のおじさまに教えていただいているんですが、 “若い時の癖は直らないよ” という癖の話は玉三郎のおじさまに言われたことで。『どうしてもあなたたち3兄弟は、お父さんのようにという気持ちが強いから、もっとお父さんをなしにして考えてみなさい』という話をしてくださって。(本番の)舞台で色々試すというのは僕の中で良くないことなのかなと思っていたのですが、そういう変化さえもお客さんは、若手なんだし成長したな、今日違うんじゃないかなと、色々と感想を持ってくれることが大事だからと……。毎日違うようにと意識しています」

――千穐楽(せんしゅうらく)に向けての意気込みをお願いします

「初日はできないな、わからないなという部分が多かったんですけど、ちゃんとした方向を向いていればちょっとずつでも進んでいくんだなということが分かってきた気がします。僕自身も千穐楽までどこまでいけるか、5月に役が変わったときにどう臨機応変に対応して稽古通りできるかということ、また6月に玉三郎さんとご一緒したときに上手くできるか、この3か月はそのあたりを意識してやっていこうかなと思っています」

――同世代に歌舞伎を広めていくには

「よく敷居が高いってみんな言うんですけれど、高いんですよ。僕が歌舞伎の家じゃなくて、休みの日に友達と歌舞伎行く?ってなるわけがないんですよ。何かきっかけがないと難しいと思う。知られていないかもしれないですけど、20代の俳優が歌舞伎界多くて、結構、同世代出てる。(若手俳優が出演する)花形歌舞伎というのもあって、はじめは見やすい演目を見つけるというのはすごく大事かなって思いますね」

――最後に、歌舞伎俳優として目指す道を教えてください

「父のような歌舞伎役者になりたいというのは思っている、うちは3兄弟いるので、傷をなめあうような兄弟ではなく、お互いに切磋琢磨して登っていけるよう、そのためにも兄に離されずについていって、いつかは3人で劇場を開けられるような役者になりたいなと思っています」

◇◇◇

物事をよく客観的に見ることがあるという福之助さん。「普通のセリフをしゃべってるだけなのに歌舞伎だなと思わせてくれる、江戸のにおいを出せる役者は素晴らしいな、そうなりたいなと思います」と真っ直ぐな目で話されていました。自分の長所は平和主義で、兄弟にもお弟子さんたちにもプライドゼロで、分からないものは分からない!と聞くことだそうです。ご自身の中で可能性が広がっていくことが楽しいと語る福之助さんの今後に注目です!

次回は中村米吉さんにお話を伺います。

【中村福之助(なかむら・ふくのすけ)】
2000年9月、初代中村宗生を名乗り初舞台。2016年10月、三代目中村福之助を襲名する。

【市來玲奈の歌舞伎・花笑み】
「花笑み」は、花が咲く、蕾(つぼみ)がほころぶこと。また、花が咲いたような笑顔や微笑みを表す言葉です。歌舞伎の華やかな魅力にとりつかれた市來玲奈アナウンサーが、役者のインタビューや舞台裏の取材で迫るWEBオリジナル企画です。

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