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【核心】「緊急事態宣言をもう少し早く出せれば…」感染研所長が語った3年間 コロナの流行は「今後も継続」

2023年5月3日 10:00
【核心】「緊急事態宣言をもう少し早く出せれば…」感染研所長が語った3年間 コロナの流行は「今後も継続」

新型コロナウイルスの感染状況を分析する厚生労働省の専門家会議「アドバイザリーボード」。2020年、国内で初めて感染者が確認されて以来、これまで形を変えながら121回開かれ、政府への助言を行ってきた。

「非常に難しい3年間だった」と話すこれまでの対応と、今後の対策の行方を、専門家会議の座長を務めた国立感染症研究所の脇田隆字所長に聞いた。

■向き合った3年間「当初から、完全な封じ込めは難しかった」

―これまでの新型コロナウイルスのアドバイザリーボードを率直に振り返ると

脇田)約3年間で121回開催し、実際にはすごく長くて開催も多かったですけど、あっという間に過ぎたなというのが率直な感想です。ただ、非常に難しい3年間だったと感じています。

―当初は、完全に封じ込めることを目指した?

脇田)初めから、この感染症を完全に封じ込めるのは、非常に難しいだろうと、専門家の間では評価していました。封じ込めるよりも、むしろ被害をいかにして最小化できるか。最終的な目標は、新型コロナに感染して亡くなる人をできる限り減らしていこうというのが一番大きかったと思います。

―これだけ長い戦いが続くとは、想定していなかった

脇田)そうですね。これがいつまで続くのか、なかなか想定ができなかったのは事実だと思います。ただ、封じ込めは難しいということがわかっていたので、どのような形で収束するのかも、なかなか想定が難しかった。普通の生活の中で受け入れられるような感染症になっていくのに、何か月、何年かかるのか、どのような形でそのような形になるのか、なかなか見通せなかったです。

―専門家の中での意見対立や、政府と食い違った点はあったか

脇田)当然、専門家でも疫学の先生、医療の先生、途中から経済の専門家の先生も入ってきて、それぞれの立場で意見が異なるということはしょっちゅうありました。それを最大公約数としてまとめて、意見を政府の政策に取り入れて頂いて、対策に落とし込むという作業だったと思います。

脇田)専門家の意見が分かれた中で、一番印象に残っているのは「なるべく厳しく対策はするべきだ」という意見と、「そんなに厳しくやったら国民の心もついてこない。そんなに厳しくするのはよくない」という意見で分かれたことです。感染者数をなるべく減らしていくべきだというのは当然なのですが、対策が長引くかもしれないので、途中で絶対心が折れて市民がついてこられなくなる、と。「緊急事態宣言が必要だ」という意見と、「緊急事態宣言という厳しい対策が本当に必要なのか」というような意見で分かれて、結構その時点では、専門家の中でも厳しい意見のやりとりがありました。

■最初の緊急事態宣言「もう少し早く出せばよかった」

脇田)緊急事態宣言になる前のことで思い出すのは、日本の人工呼吸器の数が、そんなに多くなかったことです。当時は、ウイルス性の肺炎を起こす人が一定の割合でいましたから、人工呼吸器や、ECMOが必要な人が増えて、準備されているものより(患者が)増えていってしまうと、本当に助からない人が増えてしまうことになる。なので、人口あたりの人工呼吸器の数は、かなり念頭においていました。アメリカでは、西海岸から東海岸に人工呼吸器をたくさん送った、というようなことがありましたが、日本では幸い、そういう事態にまでは至らなかったと思います。

―ここまで、対応が難しかった点や反省点は

脇田)一つは、一番最初の緊急事態宣言をもう少し早く出せればよかったかというところです。3月初めごろに、ヨーロッパからの帰国者で感染者が増えてきたとき、専門家会議のメンバーから、検疫を強化するべきだという意見があって、厚労省へ要望書を出しました。もう少し早く検疫の強化に取り組めば、もう少し流行の拡大を抑えることができたかなと思います。

■欧米は先に収束へ… 日本は「まだ見通せない」

専門家会議は、5類移行後にこれまでよりさらに規模の大きい“第9波”がくる可能性もあるとの見解を、先日公表した。今後の、感染状況はどうなるのか。

脇田)第8波で新型コロナウイルス感染症の流行が終わるということはなくて、今後も流行が継続していきます。いまも、徐々に感染者が増加をしている。これが“第9波”になるかもしれませんが、どの程度のものになるかは、専門家の中でも議論があり「第8波よりも感染者数が多くなる可能性もある」と見解に書きました。

―流行の波は今後も繰り返し続け、新型コロナは終息しないのか

脇田)「終息」というのはなかなか難しいと思いますが、徐々に一定の罹患率に向かって「収束」していくというのは、疫学の専門家の予測としてはあるわけです。感染状況が先行しているヨーロッパ、特にイギリスでは、いま「減衰振動」といって、波を繰り返しながら徐々に小さくなる方向にむかっていっている。一定の罹患率にむかって、そこに収束していくという予測がされています。日本も、いずれそこに向かっていく可能性は高いだろうと考えていますが、それがいつ頃なのか、まだ見通せないです。日本では、やはりもう少し感染拡大していく可能性が高いということになるかと思います。

―「減衰振動」とは

脇田)減衰しながら波は繰り返しますが、波が徐々に小さくなって一定のところに収束していくということです。多くの人が感染を繰り返すことと、ワクチン接種によって免疫を獲得することで落ち着いていくということですね。

―欧米の対策と比べ、日本の対策はどうだったか

脇田)私が申し上げる立場にはないのかもしれませんが、やはり比較するのは難しいです。欧米は感染者数が多かったから、いま収束に向かってると。逆に、日本は、被害を先送りしただけじゃないのかという議論も当然あると思います。ただ、被害をなるべく抑制する中で、ワクチンや治療薬が出てきて対策もわかってきました。これまでG7の中で、日本の死者数は低く抑えられているのは事実ですが、1年目より2年目、2年目より3年目で、徐々に増えてきています。ここから先どうなるのかが、非常に重要だと思います。

■感染症は「社会の弱いところを突く」

―5類に移行し、今後どう新型コロナと向き合う

脇田)これまでと違って毎日、日々の感染者数の数字が出てくる状況ではなくなりますが、新型コロナウイルス感染症の流行はまだしばらく続きます。毎週、定点の数字が出てきますし(毎週金曜日に週一度の感染者数が発表される)、感染状況を気にしていただき、必要な感染対策をとっていただくことが重要だと思います。

―若い世代は

脇田)高齢者や基礎疾患のある人は、感染すれば重症になるし亡くなる方もいます。一方で、若い人は、普通の風邪に近いような状況になっています。これまで3年間色々なところで我慢してきて、学校や社会活動もなるべく普通に活動したいという気持ちもあるだろうし、それは当然だと思います。

ただ、感染症というのは、社会の弱いところを突いてくる。お子さんもいるしお年寄りもいる中で、この社会は成り立っているので、新型コロナの流行がまた広がると、やはりそういった弱い方が被害に遭うということも、少し念頭に置いてもらって、もし流行が大きくなったら、なるべくそれを避けるような行動をとっていただけると、いいかなと思います。

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