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現金受け取るも…100人不起訴のワケ

2021年7月10日 12:12
現金受け取るも…100人不起訴のワケ

「不起訴の理由が理由になっていない」

河井克行被告夫妻から現金を受け取ったとされる地元議員ら100人について、全員不起訴とした東京地検特捜部の判断に対し、「身内」の検察内部からも批判の声が上がっている。

法律上は、現金を受け取り、買収された側も処罰の対象となるが、今回、一律不起訴とした背景には何があったのだろうか。

■元法相らによる大規模買収事件“買収された”100人は不起訴

2019年の参院選をめぐる大規模買収事件。すでに、河井夫妻が逮捕されてから1年以上が経過し、公職選挙法違反の罪に問われた案里元議員については執行猶予付きの有罪判決が確定し、元法相の克行被告についても実刑判決が言い渡されている(控訴中)。

一方で、現金を受け取ったとされる地元議員ら100人については、これまで刑事処分が判断されていなかったが、今月6日、東京地検特捜部は全員を不起訴処分とした。(死亡した1人を除き、99人が起訴猶予)

刑事処分の見極めに時間がかった理由について、ある検察幹部は「河井夫妻の公判中に新しい事実が見つかる危険性もあった。慎重に慎重を期して捜査をした」「判決を見た上で、しっかりと考えないといけなかった」と説明。

一方で、別の検察幹部は「100人もいるから、それぞれ特有の事情がばらばらにある。その点で難しい」と、100人について、河井夫妻との人間関係や現金の受け取り状況などを考慮しながら、捜査を進めてきたことを明かした。

捜査の過程では、受け取ったとされる金額に5万円から300万円と幅があることから、「みんな刑事処分が一緒でいいのか」との意見も出て、金額などによって刑事処分に差をつけるべきかどうかも検討されたとみられる。

■100人全員不起訴のワケ…「受動的な立場」

100人全員の不起訴が発表された当日、東京地検の山元裕史・次席検事は会見を開いた。山元次席は不起訴の理由として「100人は単に現金の提供を受けたのみで、いずれも受動的な立場。国会議員だった克行被告の強引な態度で仕方なく受け取った者などもいた」と説明。

受け取ったとされる金額に差があるにもかかわらず、一律不起訴とした点については、「現金の返還の有無や公職を辞職したかなど、それぞれの事情を考慮すると、一部の者だけを選別し起訴するのは困難」と述べた。

検察幹部も取材に対して、「過去立件されたのは、現金を受け取った側も断れるケースが多い中、今回は克行被告との関係性からして受け取りを断れないケース。議員本人が直接渡すということは余計に断れない」と、受け取り側が「受動的」だったことを強調した。

また、別の幹部は「これは先例のない、前代未聞の事件」「克行被告だけじゃなくて、その後ろに“大物”の姿が見えるからでしょう。克行被告もそれをにおわせて渡しているんだから、もらう方は余計に断れない」と話した上で、「受け取ったことを認めている人もいるが、“正直者がバカを見る”処分はできなかった」と一律不起訴と判断した背景を語った。

■「これで台無し」検察内部からも批判の声

一方、今回の処分に対して批判の声も上がった。

検察幹部の1人は「不起訴の理由が理由になっていない」「被買収は民主主義を歪める犯罪。厳格に何十年もずっと起訴してきたのがこれで台無しになってしまう」と懸念を示した上で、「検察は公正にするために仕事をしているんだから小手先で色々やってはいけない」と「身内」を強く批判した。

検察OBも「もらったこと自体が悪いのに、ひどい処分だと思う」「克行被告を逮捕して、大規模事件にするために何でもやったという感じだ」と厳しく指摘した。

また、長年、警察で選挙違反の捜査に従事してきたベテラン捜査員は、「事実上の『司法取引』があったのではと感じた」と語り、「今回のように検察が最初から着手した事件であれば、検察官が不起訴をちらつかせながら、検察側の意向に沿った供述を引き出すことも可能だ。現金を受け取った側が誰も罪に問われないのは明らかにおかしい」と話した。

■舞台は「検察審査会」へ

特捜部は100人全員を不起訴としたが、告発した市民団体はこの処分を不服として検察審査会に審査の申し立てを行う方針だ。仮に検察審査会が「起訴相当」や「不起訴不当」の議決をした場合、検察は再捜査を行うことになる。

最近では、元東京高検検事長の賭けマージャン問題や菅原一秀前経産相の公職選挙法違反事件など、一度「不起訴」となった事件に対し、検察審査会が「起訴相当」の議決を出し、再捜査の結果、特捜部が「略式起訴」に踏み切るケースも出てきた。

今回の100人の不起訴が今後どのような展開をたどるのか。最終的な結論が出るのは、まだ先になりそうだ。