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安倍元首相銃撃から1か月 ローンウルフ型犯罪に日本は【深層NEWS】

2022年8月18日 23:11
安倍元首相銃撃から1か月 ローンウルフ型犯罪に日本は【深層NEWS】
2022年8月11日「深層NEWS」より

安倍元首相が銃撃され死亡する事件から1か月が経ちました。山上徹也容疑者は自身や家族が陥った境遇に対して一方的に怒りを募らせ理不尽な凶行に至りました。近年日本でも増加する組織的な背景のない「ローンウルフ(一匹狼)型」犯罪に日本社会はどう対応すべきか。8月11日放送のBS日テレ「深層NEWS」では、警視庁警視総監や内閣危機管理監など務めた米村敏朗さん、安倍政権時代に内閣官房「日本のテロ対策の在り方について」委員会委員も務めた日本大学危機管理学部教授の福田充さんをゲストに、「ローンウルフ」が生まれる社会背景や察知するきっかけとは何かを議論しました。

■「ローンウルフ」が生まれる背景

右松健太キャスター
「組織的なテロの一員に加わらずに単独もしくは極めて少数で行うテロを『一匹狼』に例えて、『ローンウルフ型』と呼びます。例えば、2013年のアメリカで発生したボストンマラソンでの爆発事件や、17年のイギリス・ロンドンで男が車を暴走させ警察官らを殺傷した事件などがローンウルフ型によるテロ行為とされています」

「日本でもこれまで不特定多数を巻き込む凶悪事件が発生してきました。ローンウルフ的な犯罪が発生する背景をどう見ていますか?」

福田充日本大学危機管理学部教授
「貧困であったり、仕事がうまくいかなかったり、そういう人はたんさんいますが、なぜこういう人たちだけ犯罪を起こすかというと、異常な形の『過激化』と言えます。テロリズムで言えば世界的に見ると、思想性があって、宗教や政治的な理由で『過激化』するということがよく指摘されます」

「昨今の日本の大量殺傷事件を見ると、死にたいのだけれども誰かを巻き込んで、皆を殺してしまおうという『拡大自殺』という言葉がありました。私は『自暴自棄犯罪』と名付けましたが、思想性が弱く、むしろ自分自身の生活が立ち行かなくなったり、仕事がうまくいかなかったり、家庭環境が良くなかったりという社会的孤立につながる、政治性の薄い『自暴自棄性』というのが日本の無差別殺傷のローンウルフ型の犯罪の特徴と考えています」

右松キャスター
「仮に人を殺害しようという強い意志を持っていたとしても、捕まってしまうかもしれないことや、その後の刑罰の苦しさなどというものが本来ならば抑止効果として働くものだと思います。ただ、これらの事件に見えるのが、見せ場を作り、捕まってもいいというような破滅的な衝動のようなものも垣間見えます。日本のローンウルフ型犯罪の傾向をどうみていますか?」

米村敏朗元警視総監
「ローンウルフ型テロリストというのは非常に理解が難しいと個人的に思います。ただ社会の中での孤立感が本人の自虐意識をどんどん拡大させ、そこから来る恨みがその対象に向けられる。社会的な問題があると感じています。ただローンウルフ型テロリストという用語法というのはいささか気にはなっています」

右松キャスター
「どういう点でしょうか?」

米村氏
「『テロとの戦い』という用語法がいささか相手の過激派やテロ集団に大義を与えるようなところがあって、リクルートを容易にしてるのではないかというような議論がありました。『テロリズム』というのが必ずしも用語上の定まった定義がない中で、感覚的に言えばやはり(ローンウルフ型は)テロだという感じがしますが、実態は単独犯で、しかも無差別殺傷で、非常に理解し難い動機に基づいて行われている。思想的背景などがないということから考えれば、ある意味では刑事事件ではないかと思います」

飯塚恵子読売新聞編集委員
「ローンウルフ型テロが多発しているアメリカでは事例研究が進んでいます。心理学・精神学の『サイコロジー・トゥデイ』という有名な専門誌があるのですが、ここに載った論文で、日本を含む15 か国88件の事例研究をした。そうすると、やはり非常に高い率でメンタルヘルス面の問題が見つかったと。結果的にはメンタル面の病気、職場でのトラブル、いじめ、高いストレス、親族との関係悪化、社会へ不適合、こういったものが1つ、ないしは全部当てはまっているという例が非常に多いと」

「この論文の指摘はアメリカに限らず、地域社会、家族、カウンセラーみなが問題を抱える人を察知することが重要で、相談に乗る。それがテロを未然に防ぐ非常に有益な方法であり、必要だと言っています」

■列車爆破事件を未然に防いだ警視庁公安部

右松キャスター
「地域社会全体で犯罪者を生まない、ローンウルフを育てないということがまずは重要だということですね。日本では"無差別殺傷"を狙った犯罪を、未然に防いだ事例というのがありました」

郡司恭子アナウンサー
「2007年6月、インターネットで購入した薬品を調合し、爆発物の成分およそ100グラムを製造したとして当時38歳の無職の男が警視庁公安部に逮捕されました」

郡司恭子アナウンサー
「男は、その年の4月に都内の薬局で爆発物の製造に必要な固形燃料などの在庫の有無を尋ねたことを不審に思った薬局が警視庁に通報したのがきっかけで公安部の逮捕につながりました。逮捕後、男は『朝のラッシュ時に西武新宿線の電車内で爆発させ、職に就いている人を巻き添えにしようと思った』と供述しています。米村さん、多くの人が被害に遭わず未然に防げた一番の要因はなんでしょうか?」

米村氏
「間違いなく薬局からの通報です。薬局から『これはおかしいんじゃないですか』という通報があって、要するに警察が注目するきっかけです。どこにそのきっかけが生まれるかという点で、民間の方からの情報提供というのは非常に重要です」

「私が警視総監の時に、元自衛官が消火器やドラム缶に火薬を詰め皇居に発射した事件があった。(爆薬の原料である化学肥料を)九州の園芸店からネットで買い込んでいた。園芸店の方は『おかしい』と思ったらしい。『農業をやっているわけでもないのに、なんでこんなに要るんだろう』と思ったけれども、それがキャッチできなかった。爆弾そのものは信管が不良で爆発しなかったけれど、莫大な量だった。インテリジェンスというとレベルが高い話のように聞こえますが、市民からの情報をどうやってキャッチしていくかは非常に重要なテーマだと思います」

右松キャスター
「以前、警視庁記者時代に取材をした公安部幹部は『日本型テロ対策』といって、例えば花火店やガソリンスタンド、薬局などの事業者に『何か不審な事案や、この人がこのような買い物をするはずがないなど、何かおかしいと思ったらすぐに通報してください』というソフトなやりとりと連携が重要だと話していました。ただ、地域との協力は前提として、それをすり抜け事件が起きてしまうとするならば、ITやAIを駆使してもう少し精度を高く見ていくというこういったことも必要になってくるのでしょうか?」

福田氏
「実際、警察や公安はTwitterやFacebookといったSNS監視というのは実行しています。事件を起こしそうな書き込みを行っている人というのは無数にいて、その人たちが必ずしも皆、犯罪を起こすわけではありません。例えば『これから学校に爆弾を仕掛ける』という場合は威力業務妨害容疑で逮捕できるが、そうではない抽象的な書き込みというのはたくさんあります。『いつ誰がどこで何を』という5W1Hのインテリジェンスを見つけることは非常に難しい問題だと思います」

■「リスクのない監視社会」と「リスクのある自由な社会」のバランスとは

福田氏
「SNSの監視は実効性ありますが、過度にやりすぎると危機管理のために通信傍受をしたり、監視カメラを増やす必要が増してきたりと、やりすぎると自由や人権、プライバシーと衝突してしまう。『安全安心の価値』と『自由人権の価値』をどうバランスを取って危機管理やテロ対策を行っていくかということを国民、市民みなで議論して、『どこで線引きしましょう』ということを考えるのがリスクコミュニケーションであり、そういうことをやっていかないとあるべき姿は決められないだろうと思います」

右松キャスター
「今回の安倍元首相の銃撃事件によって私たちはどこに線を引くべきなのか問われていると思います。リスクは少ないけれど監視社会になのか、リスクは一定程度仕方ないとしながらも自由な社会を得ていくのかという両極の価値に対して、日本はどこに立つのかということが、10年前、5年前、(安倍元首相への銃撃事件後の)今日など変化しているのではないかと私は思っています。どこかで『監視社会になっても安全がほしい』というムードになったら、それは民主主義の敗北につながるかもしれない。米村さんはどう考えていますか?」

米村氏
「私は、あまり監視社会は良くないと思っています。キリがない。警察の活動というのは、警察法第2条で『個人の生命、身体及び財産の保護』『公共の安全と秩序の維持に当ること』この目的にかなう活動をやるべきである。そのためにオープンソース情報というのは、かなり広く見ていく必要があると思います。それから、ネットで銃の作り方などの情報を手に入れることができる。国が規制するというよりもプロバイダー側がよく考えていただいた方が良いのではないかと。ただ、問題は日本の中で制限してもグローバルな情報は入ってきますが、少しでも社会の中でそういう要素を外すというのは必要なことではないかと思います」

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