安倍元首相銃撃から1か月 「何かが破裂したような音」手製銃で「銃声」と気づかず…
安倍元首相が奈良市で演説中に銃撃され死亡した事件から、8日で1か月です。取材を進めると、手製の銃が使われたことで、警護員が銃声だと気づかなかった可能性が明らかになりました。
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安倍元首相が銃撃された現場で、自民党奈良市支部の櫻井大輔青年局長に話を聞きました。
――実際、どこにいた?
自民党奈良市支部 櫻井大輔青年局長
「このあたりに立つ台があって、ここで安倍晋三さんが演説をされていて、僕はその後ろで最後にガンバロー三唱をする予定だったので、その順番待ちで後ろに立っていたような状態です」
櫻井さんはマイクの受け渡しのため、当時、安倍元首相の真後ろ1メートルほどの位置にいました。そして、銃撃の瞬間、櫻井さんは衝撃でよろけました。
自民党奈良市支部 櫻井大輔青年局長
「煙は出ていた。風圧は感じました」
銃の脅威を誰よりも間近で感じた中で、最も印象に残っているのは、その音だといいます。
自民党奈良市支部 櫻井大輔青年局長
「パーンって、“何かが破裂した”ような感覚でした」
――直感で銃声と思えた?
自民党奈良市支部 櫻井大輔青年局長
「思わなかったですね」
警察庁によると、安倍元首相の周辺にいた4人の警護員らも「花火やタイヤの破裂音だと思った」と同じような発言をしています。1発目の発砲で、それが銃声だと認識できた人はいませんでした。
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山上徹也容疑者が犯行に使った手製の銃について、NNNは銃の専門家に詳しい分析を依頼しました。
銃器研究家 高倉総一郎さん
「こちらは、まず上が既製品の拳銃。下が現場での手製銃の発砲音」
既製品の銃の音と、犯行に使われた手製の銃の違いを聞き比べました。音を可視化したグラフを見ても、違いは一目瞭然でした。既製品は瞬間的に大きな音がするものの、すぐに収まるため、音の形は三角形になります。一方、今回の手製の銃は、低いごう音が長時間続いています。
既製品では使われない黒色火薬を使用したことや、鉄パイプを使ったことで、筒の直径が大きかったことが影響しているといいます。
銃器研究家 高倉総一郎さん
「手製銃の方を目視していない状況で、この音を聞いた場合に銃声かと思うかといったら、思わないと思います。これまで撃った銃や弾薬、どれとも一致しない音なんですね、全く」
また、1発目が外れたことも、警護員らの判断を難しくしました。
銃器研究家 高倉総一郎さん
「誰かが被弾して、叫び声が聞こえた。こういう状況なら、攻撃なんだなとわかるが、何も当たらず、音だけが聞こえたという状況だと、判断しづらい。銃声だと思いづらい」
では、そもそも発砲される前に、山上容疑者に気づくことはできなかったのでしょうか。
当時、前方を中心に、想定よりも多い約300人の聴衆が集まっていました。初めガードレールの中には警視庁のSP1人と奈良県警の警護員2人が前方を警戒していて、ガードレールの外には後方を警戒する警護員1人が配置されていました。しかし、前方の聴衆が増え続けたため、現場の判断でこの1人もガードレールの中へ入りました。これで、全員が主に前方を警戒する配置になりました。
時折、後方を見ていた警護員もいましたが、横断歩道があるにもかかわらず、車道を歩く台車の男性などを不審に思い、目で追ってしまったため、結果として山上容疑者に気づけませんでした。
現場にいた警護員
「容疑者は視界に入っていなかった。1発目の発砲で、その存在に気づいた」
周辺にいた4人を含め、数十人いた警護員らは誰一人として、事前に山上容疑者を不審に思うことはできなかったということです。
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さらに、当日の対応以外にも取材を進めると、新たな問題点が明らかになりました。
今回の安倍元首相の銃撃事件とほぼ同じ位置で、立憲民主党の泉健太代表が事件の3か月前に演説を行いました。党の関係者によると、3日前までに警察と下見を行った際、「車や人通りが多く、後方の警備が難しい。泉代表の真後ろに警護員を立たせてほしい」と警護担当者から言われたということです。
さらに、警護担当者からは「防弾マットや鉄板などで、選挙カーの手すり部分より下を覆うことはできないか」と、銃撃された際に地面に伏せれば、身を守れるような装備を準備してほしいと言われたといいます。
一方で、今回は前日の午後に演説が決まり、下見は夕方でした。自民党関係者によると、時間がなく、演説台の位置や動線については確認したものの、危険性は指摘されなかったということです。
実は10日前にも同じ場所で、自民党の茂木幹事長が演説していたためだと関係者は話します。
自民党関係者
「場所や演説のやり方について、警察から危ないとか、こうしてほしいという要望は一切なかった。前回を踏襲する形で、よろしくと」
さらに奈良県警は、当初、事件当日に拳銃の実弾紛失をめぐる不祥事の発表を予定していて、その準備に追われていました。
当時の警備態勢について検証を進めている警察庁の担当者は「“あうんの呼吸”に依存していたのではないか。“安易な前例踏襲”で、周辺の脅威や危険の評価についての検討が行われていなかった」としています。
警察庁は今月中にも検証結果を取りまとめ、警備のあり方を見直す方針です。