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上皇后さま“名場面” 優しさとユーモアにあふれ…【皇室 a Moment】

2023年11月18日 12:48
上皇后さま“名場面” 優しさとユーモアにあふれ…【皇室 a Moment】

ひとつの瞬間から知られざる皇室の実像に迫る「皇室 a Moment」。今回は、上皇后さまの“名場面”を日本テレビ客員解説員の井上茂男さんと共にスポットを当てます。そこには優しさとユーモアがあふれていました。

――上皇后さまのお誕生日にちなんで、いろいろな場面を集めてみました。楽しそうな雰囲気が伝わりますね。

海外でのご様子や、子どもたちとのふれあい、珍しいお餅つきに、ご夫妻でのダンスと、いずれも上皇后さまの印象深いシーンです。今回は、10月20日に89歳となられた上皇后さまの“名場面”の数々を振り返ります。

■海外での“ほほえみ”と“ふれあい”

まずは、海外ご訪問の印象に残るシーンから、ご紹介します。

最初は1983(昭和58)年、アフリカ・タンザニアの自然保護区での名場面です。サファリを楽しんでいる際にゾウを見つけると、ご夫妻は一緒に写真に納まろうとされました。

上皇さま)「ゾウと一緒に。みー(上皇后美智子さま)、できるかな?ここに立ってみたらダメ?」
上皇后さま)「じゃあ一緒に入ってくださらない?誰かに撮ってもらいましょう」
上皇さま)「これ入りますか?ゾウは」
男性)「ゾウがいないと…」
上皇后さま)「ゾウが入らないと。ちいちゃくなりましょうか」
男性)「2頭入りました」
上皇さま)「2頭入りました」
上皇后さま)「ああ、よかった」

続いては、1991(平成3)年、インドネシアのボロブドゥール寺院での一場面です。仏塔の中に、触ると幸せになるという言い伝えのある仏像がありました。ご夫妻は手を伸ばし、触ろうとしましたが……。

上皇后さま)「触れました?」
上皇さま)「触れない」

この後、一緒に上皇さまも触ることができました。

こちらは1994(平成6)年、スペイン・マヨルカ島での一場面です。国王夫妻と馬車でパルマ市内をご視察中に、花嫁が登場するというハプニングもありました。

2000(平成12)年、オランダの児童養護施設での一場面では、眠ってしまい、上皇后さまに会いそびれたと思った女の子が泣き出しました。上皇后さまは、その子を優しくあやされました。

こちらは2005(平成17)年、ノルウェー王宮での歓迎式典です。突然降ってきた雹(ひょう)に、上皇后さまはとっさに懐妊中のノルウェーの皇太子妃を気遣われました。

――腰に手をそっと当てて気遣われていますね。

2009(平成21)年、カナダの小児病院では、上皇后さまが入院している子供たちのために「ゆりかごの歌」という子守歌を歌われるサプライズがありました。

上皇后さま)「ゆりかごのうたを カナリヤがうたうよ ねんねこ ねんねこ ねんねこよ」「Sleep well tonight.」

――どの国でも、上皇后さまも上皇さまも人にも動物に対してもすごく自然で、いろんなことがあっても、優しく気遣っていらっしゃるということが伝わってきましたね。

オランダで女の子をあやされた場面がありましたが、当時はまだ先の大戦が色濃く影を落としていまして、デモや抗議が行われました。この時の写真はオランダの新聞が大きく伝え、当時のオランダの首相に、「よそよそしさや恨みから人々の気持ちを親愛の情に転換させた」と語らせた場面です。

トロントでの子守歌は、「何か、読み聞かせ」をというリクエストがあり、いいお話が見つからないので、歌でということになりました。館内放送で病室にも届けられました。最初は緊張されて声が震えていましたけれど、その後、すんだ丸い声になって、現場で取材していてじーんとしたことを思い出します。

■ピアノに歌に…“飛び入り”参加も

上皇后さまは、ピアノも“プロ並みの腕前”ということでも知られます。続いては音楽に関する場面を振り返ります。

まずは退位された2019(令和元)年の夏の映像です。上皇后さまは群馬・草津でコンサートに出演され、サン=サーンスの「白鳥」を演奏されました。

こちらは1993(平成5)年、イタリアでの映像です。歓迎演奏会で、フルート奏者の頼みで上皇后さまが飛び入りで「アベマリア」の伴奏をされたことがありました。

――現場で初めて楽譜もご覧になって…。

次は広島の原爆養護ホームを訪ねられたときの様子です。この時は、ハンドベルの演奏に飛び入りで加わられ、「エーデルワイス」を一緒に演奏されました。

こちらは少し懐かしい場面です。1985(昭和60)年、横浜の「こどもの国」の開園20周年式典に出席された際、歌の途中でマイクを向けられるハプニングがありました。

司会)「なんでもできるよ うれしいな」
上皇后さま)「きれいな風が ふいてくる きれいな旗が ゆれている」

こちらは1993(平成5)年、チャリティー晩さん会での一場面です。ご夫妻が音楽に合わわせて、ダンスをはじめられると会場に大きな拍手が起こりました。

――素敵ですね。息のぴったり合ったダンス姿。上皇后さまのお召し物もダンスをすることを考えられて、ひらひらと、きれいですね。どれもうっとりするようなシーンでしたけれど、どの場面も上皇后さまが音楽を愛していらっしゃる、強い思いがあるというのが伝わってきました。飛び入り参加で、突然マイクを向けられて歌われるということもあるんですね。

なかなか大変だったと思います。上皇后さまのピアノ演奏はよく知られていますが、独奏ではなく、他の楽器の演奏者と心を合わせながらの伴奏に徹していらっしゃいます。草津でも、イタリアでも、演奏者と心を通わせながら弾くことを大事にされ、一緒に演奏した人たちが喜ぶ声を何度も聞きました。

ハンドベルも、演奏を通してみんなと心を通わせようとされたと思うと、見方が少し違ってきます。一緒に楽しむ、楽しんでほしい、というお気持ちからなんだろうと思います。

――また上皇后さまが上皇さまと一緒に音楽を奏でられるシーンを見たいです。

■温かく子どもを抱きしめて

続いては、上皇后さまと子供たちとの触れ合いを振り返ります。

こちらは1992(平成4)年。日本で最初の知的障害児のための施設とされる「滝乃川学園」を訪問されたときです。1人の女の子が上皇后さまに甘えると、隣にいた男の子も上皇后さまに抱きつきました。

――子どもたちが抱きついていくところに頬を寄せてくださるのがうれしいですね。

1993(平成5)年、裸足保育で知られる東京・板橋区の聖マリア保育園では、元気な子供たちとのスキンシップがありました。

――子どもは本当に無邪気ですね。

2002(平成14)年、神奈川県の児童養護施設では、1人の男の子が上皇ご夫妻に突然抱き着いて、周囲が大慌てになります。すると上皇后さまは、「触っていいのよ」と優しく語りかけられました。

――頭をなでられたり、しゃがんでお話しになるシーンは印象的ですね。

また1999(平成11)年には、子どもたちと一緒にお遊戯に加わられた場面もありました。

全員)「あぶくたった 煮えたった 煮えたかどうだか食べてみよう ムシャムシャムシャ」

全員)「頭ポンポン 肩ポンポン ぐるりと回りましょう」「ユラユラユラユラ…」

2001(平成13)年に訪れた東京・品川区の大井倉田保育園でもお遊戯に加わられ、子どもと手をとり一緒に跳びはねる場面がありました。

――お2人とも楽しそうですね。本当にほほえましいシーンばかりでした。特に上皇后さまは子供に対して自分から寄り添われたり、ほおを寄せたり、ぎゅっと抱きしめ返してあげたり。「触っていいのよ」と語りかけられるシーンもありましたが、子どもたちがウェルカムという感じがすごく伝わってきます。

その心遣い、優しさは、確かに子どもたちにも伝わるだろうと思います。こどもの日にちなんだ学校や子どもの施設などへのご訪問は、平成になって上皇ご夫妻が始められたものです。

そして、2015(平成27)年に、80代になるのを機に、当時の皇太子ご夫妻、秋篠宮ご夫妻に託されました。子どもたちと年が離れてしまった、というのが理由でした。

■人々との、さりげなく“楽しい交流”

――上皇后さまは、特別な機会だけでなく、一般の方々とのさりげない会話も印象的です。

葉山御用邸での静養中、海辺の散策の姿を思い出す方も多いと思います。今は並んだ人たちへの声かけという形になっていますが、元は海辺の高台を歩くご夫妻が、会釈をされる程度でした。

こちらは、1999(平成11)年ですが、この頃からお声かけが始まったようです。このときは、小さな子どもに「風が冷たいけど大丈夫?」と声をかけて手をふられ、子どもも手を振り返すという場面がありました。この後、次第に距離が近くなり、時間も長くなり、数々のやりとりが生まれました。

【2000(平成12)年1月】
上皇さま)「どこから来られたの?」
女性)「愛媛の松山、道後温泉の近くから参りました」
上皇后さま)「しばらくこちらに?」
女性)「はい、3日間おります」
上皇后さま)「いいお天気で」
女性)「はい、おかげさまで」

【2008(平成20)年2月】
上皇后さま) 「これは?」
上皇さま)「柴犬」
上皇后さま)「いつもここで散歩してらっしゃるの?」
女性)「息子がここにおりまして」
上皇さま(手袋を指さし)「ずいぶん昔から(使っている)」

【2014(平成26)年2月】
上皇さま)「なんかフキノトウが」
女性)「庭にフキノトウが」
上皇后さま)「出ました。どういうふうになさる?」
女性)「天ぷらにしました」
上皇后さま)「フキみそもおいしい」「ようやく春にね」
女性)「梅も咲いています」
上皇后さま)「梅もこちらは早い。東京まはだ」
上皇さま)「でも、皇居だいぶ咲いていましたね、早い梅はね」
上皇后さま)「こちらに来てたくさん咲いているから」

【2016(平成28)年2月】
女性)「耳が遠いもんで」
上皇后さま)「私も(補聴器)入れてるの」

【2018(平成30)年2月】
上皇后さま)「こんにちは」
女性)「皇后さまの夢見ちゃったの」
上皇后さま)「夢の中でちゃんとしてましたか?」
女性)「もう退位されたら葉山に来ないのかな、会えないのかなと」
上皇后さま)「そうでしたか」
女性)「会えなくなったらどうしよう」
上皇后さま)「葉山にはまた参りますね」

――上皇后さまのお話しの内容が、ご近所さんトークのような、それぐらいリラックスされていますね。

葉山には、上皇ご夫妻が名前を覚えられた「獅子丸」という犬もいました。犬とか、お惣菜とか、普通の会話がいいですよね。

――フキノトウ何にするの?天ぷら?あらいいわね、みたいな。本当に私たちが日頃繰り広げているような会話で。あと夢を見たという方に対して、「夢の中でちゃんとしていましたか」というあたりユーモアを感じます。

そうですね。上皇さまは、結婚50年の記者会見の時に、上皇后さまについて「面白く楽しい面を持っている」というふうにおっしゃっていましたから、そういう一面が表れているんだろうなと思って見ました。

――先ほどの会話も上皇さまがにこやかにご覧になっていましたね。

“笑い”が必ずあるんですよね。

■仲むつまじく家庭を支えて

最後に、家庭での上皇后さまのお人柄がうかがえる名場面を集めました。

こちらは2009(平成21)年、葉山の海での一場面です。上皇ご夫妻が、紀子さま、当時3歳の悠仁さまを和船に乗せ、上皇后さまと一緒に漕がれる貴重な場面です。

――このときもう、上皇さまも上皇后さまも70代を超えていらっしゃいますが、力強い漕ぎ方ですね。

また、御所では毎年ご家族でお餅つきをされていました。こちらは、割烹着の上皇后さまが餅をつかれる貴重な場面です。

――上皇后さま、割烹着お似合いですね。

そしてこちらは、2005(平成17)年、長女の紀宮さま=黒田清子さんと黒田慶樹さんの結婚披露宴の様子です。その場で取材しておりましたが、娘を送り出される母親の表情が強く印象に残っています。

そして2013(平成25)年、先ほどもご紹介したチャリティー晩さん会の、ちょうど20年後のご様子です。当時上皇さまは79歳、上皇后さまは78歳でした。

――20年たってもなお変わらない、お2人の思い合っていらっしゃるご様子。お召し物もきれいですね。前回と同じような色味が、何か思いがあるのかもしれませんね。このように上皇后さまのご様子をふりかえってみますと、本当にお2人の仲むつまじさが伝わってきます。

上皇さまが話されていますが、何でもお二人で話をしながら、歩いてこられました。お出かけ先での語らい、交流の様子から、上皇后さまのお人柄がよく伝わってきます。お元気にお過ごしいただきたいと改めて思います。

――今回、いろいろなシーンを見て、その時々、相手が子どもであっても、お年寄りであっても、王室の方であっても、常に人びとを気遣っていらっしゃる。その傍らにしっかりと上皇さまもいらっしゃるという。優しさと愛にあふれているシーンが多かったですね。

“人と接する”という、場面の積み重ねだったのではと思います。

【井上茂男(いのうえ・しげお)】
日本テレビ客員解説員。皇室ジャーナリスト。元読売新聞編集委員。1957年生まれ。読売新聞社で宮内庁担当として天皇皇后両陛下のご結婚を取材。警視庁キャップ、社会部デスクなどを経て、編集委員として雅子さまの病気や愛子さまの成長を取材した。著書に『皇室ダイアリー』(中央公論新社)、『番記者が見た新天皇の素顔』(中公新書ラクレ)。