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晩秋の登山 ここに注意!

2021年11月18日 11:05
晩秋の登山 ここに注意!

秋の紅葉シーズン。緊急事態宣言も明け、近郊の山々は紅葉狩り(もみじがり)の人出で賑(にぎ)わっています。今回の「NEWSイチから解説」は、この季節、特に気を付けたい登山の注意点について、山岳ガイドの山本篤(やまもとあつし)さんに聞きました。

■麓は紅葉、山は吹雪「寒暖のギャップ」に要注意

――谷川岳に登られたということですが。

今回は10月20日、21日の1泊2日の行程でした。盛りの紅葉を期待して登りましたが、1300メートルの天神平では想定外の雪模様となりました。

――この時期の登山で特に気を付けなければいけないのは、どんな点でしょう?

まず、この時期一番気を付けなければならないのは「寒暖のギャップ」です。山の天候が変わりやすいというのは、四季を通じて気を付けなければいけませんが、特にこの時期は「寒暖のギャップ」に注意してください。下界では気温が20℃を超し、日中であれば上着なしでも過ごせる陽気ですが、山の上では、相当冷え込むことがあります。

今回訪れた谷川岳のように、車やロープウエーなどで一気にある程度の標高まで行けるところは、特に注意が必要です。実際、現場について、「しまった、(防寒着などを)もう1枚持ってくれば良かった」なんてことになります。

――どのような服装や装備で臨めばいいでしょうか?

まず、下界の体感を基準にしないこと。寒暖ギャップが大きいことを念頭に「1枚多め」を心がけるようにしてください。その上で、今回はみぞれになったので、防寒着、上下とも撥水(はっすい)性のある、いわゆるカッパのような素材のモノで、首回りから熱が奪われないように襟元まできちんとチャックを上げました。頭には帽子とその上から上着のフードをかぶり、手には手袋、ザックがぬれるのを避けるため、カバーをして、ストックといういでたちで臨みました。また、今回は想像以上の雪だったので、念のため用意していたチェーンスパイクが役に立ちました。

――服装で特に気を配る点はどこでしょう?

この時期の登山では体を「ぬらさない」ということが大事です。雨やみぞれが染みて、体がぬれると一気に体温を奪われます。外からの浸水に対しては、防水性の雨具、防寒具を必ず身に着けてください。

また、「外からのぬれ」だけでなく「内からのぬれ」にも気を付けてください。山を登る場合、どうしても汗をかきます。汗でぬれた状態で風に吹かれると、一気に体温を奪われて低体温症になるおそれもあります。そうならないように、肌着など中に着るモノは、保温性に加えて速乾性のあるモノを身に着けるようにしてください。

外からも内からも「ぬれない」というのが肝心です。この時期は、特に準備不足で山に入る登山者を見かけます。わずかな準備不足から、結果的に遭難などという重大な結果を招かないよう、準備は周到にしてください。

■「秋の日はつるべ落とし」道迷いがより深刻に

――ほかに注意点はありますか?

「秋の日はつるべ落とし」という言葉にもあるように、この時期の「日の暮れの早さ」には要注意です。登山道では、しばしば道に迷いそうになることがあります。特に下山の時などは、分岐点で、標識をろくに確認せず、無意識に足跡のついている方へ進んでしまったりします。道に迷っているうちに暗くなると、事態がより深刻になるおそれがあります。

この時期ですと、樹林帯や沢状の地形にいると、晴れていても午後3時で薄暗くなってきます。午後4時をすぎて行動するのは、危険です。それまでに下山するなり、山小屋に入るなり、その日の行動を終えるようなスケジュールを立ててください。

――道に迷ってしまった場合はどうすればいいのでしょうか?

まず、確実だと思われるところまで戻る、そして、体力を温存するためにもむやみに動き回らない、さらに団体であれば、バラバラにならない、ということが大事です。また、道に迷った場合、下へおりればなんとかなるだろうと思い、下へ下へと進みがちになります。その結果、沢に迷い込んでしまうというようなこともあります。たとえ登り返しても、確実な地点まで戻るということが鉄則です。

――道に迷わないためにはどうすればよいでしょうか?

まず、「下調べ」です。いまはネットにたくさん情報はありますが、中には正確でないものもあります。基本的には、登山の専門書などで確認して、行程をイメージしてから登山に臨んでください。その上で、「無理のないスケジュール」を立てることです。先ほども話したように、いまの時期は、日暮れが早いので、スケジュールは余裕を持って立ててください。

そして、「紙の地図」を持って行く癖を付けてください。スマホをあてにして山に入る人もいますが、場所によっては電波が届かなかったり、電池が切れてしまったり、場合によっては落っことして壊してしまう、などということも考えられます。いきなり、自分のいる位置がわからなくなったりしてしまいます。必ず紙の地図を持って行くことをおすすめします。

■100%の力を出し切らない

――準備をきちんとしても、ケガなどで動けなくなってしまうこともありますよね?

登山では、ケガをしたりトラブルに陥ったりしても「セルフレスキュー」というのが原則です。もちろん、本当に「これはもうだめだ」というような事故やケガの場合は、救助の要請が必要だと思います。ただ、先ほどから周到な準備をしてくださいと言っていますが、装備やスケジュールだけではなく、体力という面からも日頃からのトレーニングも大切です。日頃から体を鍛えておくことが、事故を回避することにつながります。

――今回の谷川岳は、途中で断念したとうかがいましたが。

今回は、予想以上の雪になり、装備や天候に不安があったため1600メートルをすぎたあたりで、引き返すことにしました。どうしても「せっかく来たのだから」とか「ここまで登ったのだから」といって、「もうちょっと行ってみよう」という思いになります。しかし、それが多くの事故につながっています。特に今回は、雪山を想定していませんでしたし、ここは「無理をしない」という判断をしました。

どこで、どのようなトラブルに巻き込まれるかわかりませんから、登山では「100%の力を出し切らない」、下山するまで「余力を残しておく」という心がけが必要だと思います。

――そうですね。紅葉シーズン、登山に向かう方も多いと思いますが、十分な準備の上、くれぐれも無理をしないようにしてください。

山本 篤(やまもと あつし)
(公社)日本山岳ガイド協会認定山岳ガイドII
学生時代から登山に打ち込み、登山家としてエベレスト(8848m)、K2(8611m)ほか、8000m級の山々に登頂。読売新聞社日本スポーツ賞を3回受賞

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