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【解説】“本好きたちを憎んでいた” 芥川賞受賞「ハンチバック」…著者の市川さんが作品で訴えたことは

2023年7月20日 20:22
【解説】“本好きたちを憎んでいた” 芥川賞受賞「ハンチバック」…著者の市川さんが作品で訴えたことは

19日、芥川賞の受賞作品が「ハンチバック」に決まりました。重度の障がいがある女性が主人公で、鋭くユーモアあふれる言葉で生活が描かれています。作者の市川沙央さんが、記者会見で語った言葉が印象的でした。

芥川賞受賞 「ハンチバック」作者 市川沙央さん
「私は強く訴えたいことがあって、去年の夏、初めて純文学を書きました。それがハンチバックです。なので、こうして芥川賞の会見の場にお導きいただいたことは非常にうれしく、“我に天祐あり”と感じています」

電動車いすに乗り登壇した市川さんは、デビュー作の受賞に“我に天祐あり”、つまり天の助けがあったと喜びを語りました。

◇3月に卒業したばかり
◇難病の「当事者として」

以上の2点について詳しくお伝えします。

■3月に早稲田大学を卒業 在学生からも喜びの声

市川さんがどんな人か見ていきます。

市川沙央さんは1979年生まれの43歳。筋力などが低下する筋疾患の「先天性ミオパチー」という難病を患っていて、人工呼吸器、電動車いすを利用しています。市川さんは、早稲田大学人間科学部の通信課程を今年の3月に卒業したばかりです。

19日、早稲田大学の学生からも喜びの声が聞かれました。

早稲田大学3年生
「同じ大学でそんなすごい賞をもらっている人がいるのを尊敬します」

早稲田大学3年生
「もともと本が大好きなので、書店で探して読んでみたいなと思う」

大学周辺の書店では、入り口の一番目立つところに置かれていて、早々に買って帰る学生の姿もありました。

■障がいがある主人公の女性を“ユーモア”を交えて描く

この作品、市川さんの人柄が現れています。この作品は市川さんと同じ病気の女性を主人公としています。ユーモア交じりに描かれていて、このユーモアこそが市川さんの持ち味です。

19日の会見でも、ユーモアあふれるやりとりがありました。

芥川賞受賞 「ハンチバック」作者 市川沙央さん
「この場所はニコニコ(動画)で最近、予習していました。だから、こういう感じかと感慨深いです」

――笑わせるのは好きですか

芥川賞受賞 「ハンチバック」作者 市川沙央さん
「全然そういうことはないです。まじめにやっています」

■著書を通して訴える「読書バリアフリー」

市川さんがこの作品を通じて訴えたいことは何なのか。

障がいのある当事者が描いた作品と強調されることについて、市川さんは「実は、私はOKを出していて、なぜかというと、これまであまり当事者の作家がいなかったこと、芥川賞も重度障がい者が受賞した作品もあまりなかった。どうして2023年にもなって初めてなのか、みんなに考えてもらいたい」と述べています。当事者だからこそ、伝えられることがあるということを強調されていました。

そして、市川さんが作品を通じて1番伝えたかったことは、「読書バリアフリー」です。これは、どのような立場の人も読書をしやすくしたいということです。

たとえば、作品の中には「本を両手で押さえて没頭する読書は、ほかのどんな行為よりも背骨に負荷をかける」という表現があります。さらに「私は紙の本を憎んでいた。目が見えること、本が持てること、ページがめくれること、読書姿勢が保(たも)てること、書店へ自由に買いに行けること」「その特権性に気づかない『本好き』たちの無知な傲慢(ごうまん)さを憎んでいた」と表現しています。

市川さん自身の経験から、障がいがある人の読書のしづらさを描き、健常者中心の暮らしへの鋭い指摘もしています。

ちなみに市川さんが執筆活動で愛用しているのは「iPadミニ」です。薄さや軽さなど、自分に合ったものを見つけるのが大変だったそうで、「今の機種が無くならなければいい」とも話していました。

「読書バリアフリー」についてはこんな動きもあります。障がいのある方を含め、すべての人が読書できる社会を目指した法律ですが、この「読書バリアフリー法」という法律が2019年に成立しています。

この中で、目が見えない人には点字の本が知られていますが、それ以外にもやさしい言葉づかいで書いた理解を助ける本や文字が大きく書かれたものなども広がっています。

さらに、音楽をダウンロードするようなやり方で、手軽に本を音声でどこでも聴けるサービスを展開する民間の会社もあります。

環境を整える動きは始まっている一方で、市川さんは「読みたい本を読めないのは権利の侵害だと思うので、環境の整備を進めてほしい」とさらなる進化を訴えています。

障がいのある方が、今よりもっと生きやすくなるために社会がアップデートされていくことが大切です。そのためにできることを、一人一人が行動する社会に変わっていかなければならないと思います。

(2023年7月20日午後4時半ごろ放送 news every.「知りたいッ!」より)
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