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【首都直下地震シナリオ②】被害の実態はどのようなものになるのか、そして救助の手はどう展開していくのか? 

2022年8月10日 16:10
【首都直下地震シナリオ②】被害の実態はどのようなものになるのか、そして救助の手はどう展開していくのか? 
内閣府制作のVTRから

首都直下地震の被害想定を東京都が10年ぶりに見直し、新たにシナリオが示されました。シナリオで明らかにされた、住民の周辺で起きる被害とはどのようなものなのか、そして命を守る救援体制はどういった状況になるのでしょうか?

■建物の倒壊などの被害はどのような状況に?

震度6弱以上の揺れにより、老朽化し耐震性が低い木造建物やビル・マンションの倒壊が起き、ビルの中間階が圧縮されてつぶれる被害も発生します。特に環状七号線や八号線沿線及び23区部の東部、南部に広範に連なっている木造住宅密集地域では被害が顕著で、倒壊した建物が道路に倒れこんで道路がふさがってしまい、被害状況の確認や救出救助活動、消火活動、さらに一般の人が避難することも困難になると想定されます。

揺れによる全壊被害は「都心南部直下地震」で最大約8万1千棟(木造:約6万9千棟、非木造:約1万2千棟)となる予測です。全壊する建物の約8割は基準がゆるい旧耐震基準の建物で、こうした建物の耐震化を進めていくことが重要です。

地震から時間が経っても余震などで強い揺れが発生することによって、本震ではなんとか倒壊を免れた建物もあらたに倒壊するなど、さらなる被害拡大につながる可能性があります。超高層オフィスビル街では膨大な滞留者への救助活動や避難誘導、大量の帰宅困難者への対応が必要となりますが、対象者数が多いため混乱が生じて施設管理者だけでは避難誘導などが困難となるものとみられています。滞留者が通路や道路上の限られた空間に殺到して大混雑が発生し群集雪崩につながる危険性もあります。さらに、高層ビルでは強い揺れや停電などに伴い、最大約2万2千台のエレベーターが非常停止し、多数の閉じ込めが発生してしまいます。

首都直下地震では初期微動から本震までの猶予時間が短いため、地震時管制運転装置が装備されているエレベーターでも、揺れが襲ってくる前に最寄り階に安全に停止することができず、途中で停止してしまうため閉じ込めが多数発生することになります。高層住宅ではエレベーターの停止によって避難や、負傷者の搬送、各フロアの被害確認などが困難となる問題も指摘されています。そして、長期にエレベーターが停止することによって地上との往復が困難になってしまいます。そのため、部屋にある飲食料や携帯トイレなどの備蓄物資を使い果たした段階で、多数の人たちが避難しようと外に出てくることになります。しかし、避難所はすでにいっぱいでこれらの人たちの受け入れは極めて困難になる可能性があります。

■液状化や土砂災害による被害はどうなる?

液状化による被害については、「都心南部直下地震」では東京湾岸の埋立地や河川沿岸などを中心に、液状化によって建物が大きく傾くなど約1,500棟が全壊する予測です。多摩地域でも約50棟の全壊被害が発生します。沈下量は最大でも10cm未満と想定されていますが、特に5cm以上の沈下が発生した場合は、 住宅が傾斜して出入りが困難になります。

また、電柱の沈下や傾倒によって架線が切断され、停電や断水、ガスの供給停止が起きるなど、日常生活が困難となります。液状化が起きると、地面から水があふれ出し浸水被害が発生します。道路の沈下や隆起、マンホールの浮き上がりなども起きて交通に支障が生じ、道路の下が空洞化すると大規模な陥没が起きることもあります。液状化が起きた場所では地震から時間が経つと、噴砂により地表にたまった泥砂が乾き、強い風によって舞い上がると呼吸への影響や視界不良なども起きます。

海抜ゼロメートル地帯では河川の堤防が壊れたり沈下してしまったりした場合や水門が閉鎖できない場合、地震によって洪水が発生してしまうことになるので注意が必要です。通常の満潮時などわずかな潮位の変化でも越水が起きて浸水が広がってしまい、応急復旧活動や、生活・事業の継続が困難となる可能性も指摘されています。

さらに地震の発生後に台風が上陸するようなことになると、高潮や大雨によってさらに浸水被害が広がる可能性があります。浸水が発生した場合には広域的な避難が必要となりますが、救出・救助活動が続く中では警察などが避難誘導を行うことが困難になることも想定されます。地震の揺れに伴う急傾斜地の崩壊も大きな課題で、土砂災害警戒区域及び山腹崩壊危険地区として指定されている場所などではがけ崩れなどの土砂災害が発生します。特に多摩東部の直下で地震が起きると被害が大きくなる想定です。地震が大雨の時期に重なると、さらに被害が拡大することになります。

■深刻な火災による被害、火災旋風の発生の危険も!

関東大震災では火災による被害が甚大でした。次に起きる首都直下地震ではどうなるのでしょうか?想定では地震による揺れや建物倒壊の影響で、同時多発火災が発生するとしています。

特に木造住宅密集市街地などでは、住民などによる初期消火で多くは消火されるものの、消火しきれない火災が延焼し、鎮火まで24時間以上かかる可能性もあります。延焼が拡大する地域では指定されている避難場所へ早めに避難を開始するように呼びかけられますが、避難指示が解除されるまでに24時間~36時間ほどを要する可能性も指摘されています。地震が起きた時に強風が吹いていると延焼が激しくなって飛び火も発生し、延焼が拡がって死傷者がさらに増加する可能性があります。

さらに、多くの人が集まる場所で火災旋風が発生した場合は死傷者が大幅に増加することになります。こうして木造住宅密集地域などを中心に焼失する建物は、最大で都内の建物数の4%にあたる約12万棟に達します。多摩地域でも東部を中心に約1万棟が焼失する想定です。また、地震から数日後に停電が復帰する際、ショートなどを起こして火災が起きる通電火災が発生することがあるので注意が必要です。

高層ビルでの火災も心配されます。都内に多く立地する高層ビルでは、特に中高層階において揺れが増幅されるため、火気器具・調理中の油漏れなどによって火事が起きる可能性が指摘されています。高層階では消防隊による消火活動が困難であるため、もしスプリンクラーが故障すると初期消火を行うことができず、火災が拡大してしまいます。高層階において初期消火に失敗すると、建物内の火災が継続し膨大な人数の居住者や利用者が建物から地上に避難してきて、周辺の道路などに人があふれることになります。

東京湾沿岸部に多く立地する石油タンクなどでは、可燃性物質の漏洩などによる出火や延焼の可能性もあります。石油などが海上に流出すると、海上で火災が拡がることになります

■長周期地震動により高層マンションなどは深刻な被害も

周期が長くてゆっくりと揺れる長周期地震動による被害も大きくなる予測です。高層ビルの中高層階では滑りやすい家具やキャスター付きの事務機器などが大きく移動して人に衝突、死傷者がでる可能性があります。また、長周期地震動階級2の地域でも立っていることが困難になります。室内では間仕切り壁や天井材、スプリンクラー、空調などが剥落するなどの被害が発生します。

さらに、長周期地震動の影響はビルの外側にも及ぶ危険があります。とめてある金具などが腐食していると外壁のカーテンウォールなどが落下し、高層ビル周辺で多くの死傷者が発生する可能性があります。今回の想定では、カーテンウォールが落下したところから高層ビルの屋内にいる人が外に転落したり屋内の物が転落したりする可能性すら指摘しています。

建物への被害も起きてしまいます。長周期地震動階級が3以上となる地域では、概ね14~15階建以上の高層ビルで建物にもひび割れなどが発生する可能性があります。さらに築年数が古いなど、長周期地震動に対する十分な構造安全性を有していないビルでは、建物の構造に影響する可能性すらあるのです。免震構造の建物でも安心はできません。大きくゆっくりと揺れることで免震構造の建物でもダンパーが破損するなどの損傷が発生する可能性が指摘されました。そして建設された時期や使用されている免震装置などによっては、通常の地震動に対する効果はあっても、長周期地震動に対して十分な安全性を有しているのか現在の科学的知見では判断できないものも存在するというのです。

こうした建築物では、長周期地震動の大きさが許容量を超えたり、隣接する建物同士をつなぐエキスパンションジョイントが被害を受けたりするなどして、構造上の重大な被害が発生する可能性があるといいます。長く大きな橋では長周期地震動によって揺れがさらに大きくなり、通行車両が横転するなどの事故によって、死傷者が発生することもあるのです。

■こうした被害に救助隊はどう対応してくれるのか…

死者の多くは建物の倒壊などによるものですが、地震によってライフラインが停止すると、人工呼吸器や在宅血液透析等で在宅医療を受けている人の生命維持が困難となり、死亡する可能性があります。ブロック塀やレンガ塀などが倒れて下敷きとなり多数の死傷者も発生し、雑居ビルなどが多い繁華街や看板等が多くある商店街などでは、看板や窓ガラス、外壁パネルやコンクリート片が落下・直撃し、多数の死傷者が発生する想定です。

そして「都心南部直下地震」が起きた場合に自力での脱出が困難な人は3万5,049人にのぼる予測となっています。救助はどうなるのでしょうか?被災地域外からの緊急交通路は主要路線が通れるようになるのは1~2日ほどかかるため、地震直後の救出・救助活動は主にヘリコプターのピストン輸送などによって行われることになります。災害派遣医療チーム「DMAT」は主に陸路により移動することを想定しているため、道路の閉塞等によって都内での活動が遅れる可能性があります。

さらに被災地域の通信の途絶によって被災地の緊急ヘリポートの設定や連絡調整に時間を要する可能性が指摘されています。また、公園や学校のグラウンドに多数の避難者や帰宅困難者等が滞留しているとヘリコプターが着陸できない事態が発生するかもしれません。救助された人も、建物等の下敷きになっている状態から救出された場合、救出直後は大きな問題を抱えていなくても、挫滅症候群(クラッシュ症候群:身体の一部が長時間挟まれて圧迫されると体内で有毒な物質が発生、圧迫が解けた瞬間に血液中に溶け出して全身をまわり、死にいたることもある)により体調が悪化し、死亡する場合があるので注意が必要です。

地震から3日ほど経つと、陸路による被災地域外からの救助部隊も応援に加わり、引き続き救出救助活動が継続されることになります。救助が必要な現場が多数発生する一方で、 救出救助部隊の数は限られるため、救出救助活動が間にあわず、時間とともに生存者が減少し、死者数が膨大となる可能性も指摘されています。