処理水で高まる反日感情…過激な抗議 一方で中国当局は“デモ容認せず”? 政府の狙いは…
東京電力・福島第一原発の処理水の放出に関連し、中国で抗議や嫌がらせ行為が相次いでいます。
●反日感情高まる…過激な抗議も
●ガス抜き? 中国の狙いは
以上のポイントを中心に詳しく解説します。
外務省は27日、中国への滞在・渡航を予定している人や滞在している人に向けて注意喚起を行いました。
●外出する際には、不必要に日本語を大きな声で話さないなど慎重な言動を心がける
●日本の大使館や総領事館、日本人学校を訪問する必要がある場合は、周囲の様子に細心の注意を払う
●抗議活動等の場に遭遇した場合には決して近づかないようにし、その様子をスマートフォン等で撮影する等の行為も行わない
日本関係機関に対して多数の抗議や嫌がらせ行為が発生していることを受けて、こうしたことに留意するように呼びかけているのです。
中国国内で何が起きているのでしょうか。
北京市内のショッピングモールにある飲食店では26日、店の前の看板に「日本からの食品 輸入していない」と書かれていました。店で使っている水産物は日本のものではないと大々的にアピールしていたのです。
科学的根拠のない抗議や嫌がらせ行為は、多数確認されています。
例えばSNSでは、化粧品など日本製品のボイコットを呼びかける、いわゆる不買運動が起きています。中国の日本人学校では、江蘇省で卵が、山東省で石が投げ込まれるといった事件が起きたほか、上海では通学中の在校生に大声で怒鳴る男が目撃されました。
そして、中国国内にとどまらず、日本国内に向けた嫌がらせ行為もあります。
東京・江戸川区の公共施設、江戸川総合文化センターでは、処理水の放出が始まった先週24日から国際電話による迷惑電話が相次いでいます。発信元のほとんどが、中国の国番号「86」から始まっているということです。
実際の音声(※日本語で)
「あなたたちはなぜ排出するのか、あなたたちはバカ」
職員は「やはり通常業務には差し障りがある感じですね」と話していました。この施設はコンサートなどイベントを行う施設であり、担当者もなぜかかってくるのか全く心当たりがないということです。
こうした抗議や嫌がらせがあるなかで、中国政府はどのように対応しているのでしょうか。
中国国内ではSNSで「処理水を心配する必要はない」といった投稿も上げられていますが、削除されています。というのも、中国政府は海洋放出に抗議を表明しています。SNSの内容も厳しく管理していて、政府の意向と異なる内容のものを削除している可能性があるのです。
中国政府は国内の世論をどのような方向に向けたいのか、その狙いや現地の様子について、NNN中国総局(北京)・富田徹総局長に聞きました。
――現地の状況は
NNN中国総局・富田徹総局長
「日本料理店の関係者や子どもがいる家庭などでは、心配な状況が続いています。一方で、街を歩いて危険な目に遭うとか、日本大使館の前で大規模な抗議デモが起きるような状況は確認されていません」
「ある警察関係者は『今回、デモは起きない』と断言していて、当局としてデモを容認していないことを示唆しました。また、嫌がらせ電話を呼びかけていた投稿も一部削除されるなど、歯止めをかけるような動きも少し出始めています」
――中国政府には何か狙いがあるのか、また今は狙い通りの状況なのか
NNN中国総局・富田徹総局長
「中国メディアが一斉に日本を批判したり、中国政府が強硬措置をとったりしたのは“人気取り”という面があると思います。中国国内では就職難や自由の制限に不満がくすぶるなかで、『国民の健康を守るためよその国と戦う』というのは一番手っ取り早い“ガス抜き”でもあるわけです。一方で、中国政府はここまで怒りの声が拡大することを予想していたのか、また狙い通りだったのかは分からないところがあります」
「例えば中国政府は、28日に公明党の山口代表を北京に迎える予定でしたが、急きょ延期しました。理由について『タイミングが悪い』と説明していますが、中国政府として、ここまでの事態を想定していなかった可能性もあります」
「ただ、当局としては、いまさら嫌がらせ電話をしている人々への取り締まりなどをすると、今度は自分たちが弱腰だと突き上げられる可能性もあるので、ある程度野放しにしている状況とみられます。ただ一方で、デモ自体を許していないのは、抗議デモが発生すると何かのきっかけで不満の矛先が中国政府自身に向く可能性があるため、そういった事態を恐れているためだと思われます」
――今後の展開は…。いま何か変化は起きているのか
NNN中国総局・富田徹総局長
「中国メディアの批判報道は(24日の放出直後の)週末がピークで、徐々に減っている印象があります。一番の理由は、福島で何も異常が起きていないからだと思います。中国メディアとしても、新たな批判の材料が見つからないというところがあると思います」
「ただ、一旦火がついてしまった市民の不信感を払拭するには時間がかかると思いますし、火をつけた方の中国当局としても中々引き下がれないところだと思います。そのため、現地の日本料理店の関係者も、『長期化は避けられないだろう。覚悟は決めている』などと話しています」
環境省は25日、福島県沖の11地点で海水を採取しトリチウム濃度などを分析し、その結果が27日に公表されました。いずれも環境基準値を大きく下回り、正確に測定できる下限値の「検出限界値」も下回っていました。つまり、人や環境への影響がないことを確認したことになります。また、東京電力が毎日行っているモニタリングでも28日、同じ結果が公表されました。
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日本国内では漁業関係者などを応援する動きもあります。
26日、私たちは豊洲市場で開催された物産展を取材しました。福島を含む東北3県の海産物などが集まりました。
東京魚市場卸協同組合 早川豊理事長
「我々みたいな魚のプロが福島のものを積極的に取り扱っている姿を見てもらって、少しでも不安が解消されればいいなと。風評被害を介入させないという立場で取り組んでいる」
客
「処理水の問題で話題になっていたので、ぜひ応援したい」
「偏見とかなしにおいしいものなので、積極的に食べていきたい」
この日はアメリカやメキシコ、ドバイなど海外のバイヤーの姿もあり、現在の日本をとりまく状況をどう受け止めるのか聞いてみました。
アメリカのバイヤー
「日本政府はしっかり管理しているということだが、(今後)どうなるかは分からない」
メキシコのバイヤー
「日本政府や関係者は状況を確認し、ダブルチェックをしています。すべて問題ないと私は確信しています」
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相次ぐ嫌がらせ行為は、もちろん許されるものではありません。しかし、一部の人の感情的な行為に応酬して対立を深めるのではなく、私たちは今こそ科学的根拠に基づいて、冷静に向き合っていく必要があるのではないでしょうか。
(2023年8月28日午後4時半ごろ放送 news every. 「知りたいッ!」より)