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不登校者30万人の現実、“第3の居場所” フリースクールで学ぶ「社会を生き抜く力」とは?

2023年11月16日 10:08
不登校者30万人の現実、“第3の居場所” フリースクールで学ぶ「社会を生き抜く力」とは?

“自分らしく”いることが自信になり、その居場所をつくることが成長に繋がる。さまざまな理由で“不登校”を選んだ子供たちが集う「フリースクール」。自由な校風で過ごす時間には、彼らが大人になったときに“一番欲しい力”を学べる仕組みが取り入れられていた。

社会で必要な力を学ぶ、小中学校でも家でもない“第3の居場所”

愛知県岡崎市にあるフリースクール「大地の学校・ロータス」。さまざまな理由で“義務教育に馴染めなかった子供たち”が、小学2年から高校2年まで40人通っている。文科省によると、不登校の小中学生は年々増加。昨年度の小中学生は、過去最多の29万9000人超となった。

“自分がその日、やりたいことをやる”ことが、ロータスの方針。決まった時間割もなく、壁に設置された「やりたい!掲示板」には子供たちが“やりたい!”と思いついた様々なアイディアが掲示されている。「海で魚を釣る」、「シュノーケリング」など掲示された“やりたいこと”は様々。その一つ一つに対して、子供たち自らが出来る方法を考え、行動し、仲間と一緒に実現していく。“やりたいことを自分自身の力で実現する”こと、それがロータスの授業なのだ。

ロータスの好きなところについて尋ねると、「自分がやりたいことをやれること」、「(授業内容が)学校みたいに決められていない部分が、一番いい」など楽しそうな表情で語る子供たち。ザリガニ釣りをしたい子は用水路へザリガニを探しに出かけ、野菜作りがしたい子は種まきから収穫までを体験する。

子供たちの主体性を最優先した校風について、「大地の学校・ロータス」代表・今井真央さんは「自分で考えて、自分で行動するというのが一番の理念。今後、社会はどんどん変わっていくが、“考える力”は子どもたちの将来に必ず必要になってくる。自分自身の経験を通しても、そう感じる」と語る。最近では、フリースクールの学びを学校の出席として扱うケースも増えている。考える力を学ぶ場所、そして小中学校でも家でもない“第3の居場所”として、ロータスは子供たちの社会に存在しているのだ。

日本の学校スタイルに馴染めず、フリースクールを選択

不登校を選ぶ理由は、子供たちによってさまざまだ。「このTシャツ、アメリカで買ってきたの!」と元気よく話しかけてきた、小学4年生の稲吉瑞樹くん。とても活発な性格で、両親の仕事の都合で幼少期からアメリカで生活。帰国後、日本の小学校の環境に馴染むことができず、不登校となった。

馴染めなかった理由について、瑞樹くんは「何が嫌って起立って言って、休めって言って、イスに座っていいのかなと思って座ったら、みんな立ったままだった」と話す。日本のスタイルが合わず、自分に合う居場所を探した結果、ロータスにたどり着いたという。

ある晴れた日、瑞樹くんと今井さんが一緒に向かったのは、近所の知り合いの竹林。「やりたい!掲示板」に瑞樹くんが掲示した、“流しそうめんがしたい”という目標を実現するためだ。やりたいことは自分の力で実現させることがロータスの方針。今井さんが見守るなか、汗拭き用のタオルを首にかけた瑞樹くんが、ノコギリで大きな竹を切っていく。

作業は必要なときだけ、大人がサポート。伐採した竹を縦にカットしていく力仕事に差しかかると、竹がカット出来ず苦戦する瑞樹くんのもとに自然と仲間たちが集合。瑞樹くんが力を入れやすいよう、竹が動かないように支えるなど仲間同士で助け合う姿も見られた。

切り口を綺麗に整え、中の節も丁寧に取り除き、ついに流しそうめん台が完成!手作りの台で、おいしそうに流しそうめんを頬張る瑞樹くんと仲間たち。「めっちゃおいしい!(流しそうめんの)企画は大成功!」と満面の笑みを浮かべる瑞樹くん。そんな瑞樹くんの姿に、今井さんも流しそうめんを食べながら、嬉しさを滲ませていた。

瑞樹くんの母・有雅里さんは、ロータスの校風について、「まずは見守り、必要な時だけ助けてくれる。この子(瑞樹くん)には、きっとこういうスタイルの方が合っているのだと思う」と話す。続けて「“自分らしさ”を実現できる場が、自信に繋がっていると思う」と、ロータスの校風と瑞樹くんの相性の良さについてふれた。

しかし、“自分らしさ”を求める一方で、勉強が後回しになってしまう不安も抱えている。「私も(勉強しなさいと)色々言ったりしているんですけど、本人が困らないと勉強をやらない。どこまで待っていいのか…、その見極めが苦しいところ」と、自由の許容範囲について考えていた。

子供たちが生きていく“居場所”をつくってくれた

フリースクールの存在が、家族団らんの雰囲気に明るさをもたらすこともある。「ロータスが子供たちが生きていく場所を作ってくれるのが分かる」と話すのは、3人の子供を育てる細井恵巳子さん。恵巳子さんのお子さんは、小学6年生の長女・咲希さん、小学2年生の二女・咲恵さん、小学4年生の長男・瑛太くんの3人きょうだい。1年前から3人全員が、ロータスに通っている。咲希さんと瑛太くんは人付き合いが苦手、咲恵さんはアトピーがひどく休みがちのまま不登校になったという。

幼い頃から集団行動に馴染めず、小学1年生の頃から不登校になった長女・咲希さん。カウンセラーの先生に発達の検査を勧められ、検査の結果、「自閉症スペクトラム」と診断された。“このまま家にいて、この先、子供たちが生きていける場所があるのだろうか…”そんな心配を抱えるなか、見つけたのが「大地の学校・ロータス」だった。ロータスに通うようになってから、子供たちにも笑顔が増え、家庭の雰囲気も明るくなったという。

“やりたいことは自分の力で実現” フリーマーケット出店に挑戦

咲希さんには今年の夏、“やってみたいこと”があった。それはフリーマーケットへの出店だ。販売する商品は、咲希さん手作りのミニチュアのメロンパンやケーキなどお菓子の小物。手先が器用な咲希さん、慣れた紙粘土で土台を作り、慣れた手つきでヘラなどで繊細な模様をつけていく。

出店のキッカケを作ったのは、ロータス代表・今井さん。出店に経緯について、「例えばモノ作りが好きな子だったら、モノを作って終わりだと思うんですけど、そこからさらに一歩踏み込んだら、“これって売れるんじゃないの?”と。売る方法を探してたら、知り合いが“マーケットをやるけどどう?”と誘ってくれて。子ども達に出店の話をしたら、“やろう!”という話になった」と話す。

咲希さんのほか、瑞樹くんも手作りメッセージカードを作って出品することに。マルシェ出店の準備は、ロータスの方針「やりたいことは自分の力で実現させる」に沿って、子供たちが中心となって進行。咲希さんをはじめ、子供たちにとって新たな挑戦が始まった。

“やりたい!”を実現した経験が自信に繋がる

フリーマーケット当日、ロータスのブースは子供たちのアイディアで溢れていた。咲希さんが出品したのは、お菓子やりんご飴などカラフルなミニチュア小物。さらに、姉弟3人で集めた様々な“キラキラ小物”を器いっぱいに詰め、金魚すくいのように遊んでもらう「キラキラすくい」も用意した。


人とのコミュニケーションが苦手な咲希さん。ブースに立つ表情には、どこか緊張が滲む。そんななか、イベントの司会者が咲希さんにマイクを手渡し、出店内容の告知を依頼。マイクを受け取った咲希さんは、「今ここで、「大地の学校 ロータス」というフリースクールで、フリーマーケットをやっているので是非来てください」とはっきりとした口調でブースをアピール。少し照れた笑顔を浮かべながら、マイクを司会者に戻した。

咲希さんの堂々と話す姿に驚いたのは、今井さんと母・恵巳子さん。今井さんは、「急にパッとマイクを向けられても、普通にロータスの紹介ができていた。本当にたくましい」と咲希さんの様子に笑みを浮かべた。恵巳子さんは「マイクを渡されて喋ると思わなくて、本当にびっくりしちゃって、この一年であの子(咲希さん)が一番成長した。ありがたい、本当にありがたい」と娘の成長を喜んだ。

その後も、「どうぞ、ありがとうございます!」と元気よく、お客さんに商品を手渡していく咲希さん。「もう1800円も売れた!1800円だったら、3人で分けたら600円!600円だよ!」と、商品が売れた喜びをきょうだいと分かち合った。

強い心や力を育てるために、楽しい空間や時間をつくることは必要だ。やりたいことに全力で取り組んだ延長線上に、社会で自立する力や方法を身に付ける術があることを「大地の学校・ロータス」は教えてくれる。

社会人が“働き方”を選べる時代になったように、子供たちも自分に合った“学び方”を探すことができる時代になった。

そんな今だからこそ、子どもの個性に合わせ、一人一人が成長できる「居場所」を整備すること。そして、“やりたい!”を実現した経験を自信に繋げられる「場所」をつくることが、子供たちの元気な心と明るい将来を築いていくのだろう。

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