東西の神男が炎に立ち向かう!天下の奇祭「鳥羽の火祭り」に密着 愛知・西尾市
1年かけて作った“祭りのシンボル”に火をつけ、わずか30分で燃やし尽くす。天下の奇祭「鳥羽の火祭り」が今年2月11日に開催された。1200年前から伝えられ、国の重要無形民俗文化財にも指定された火祭りに密着。
祭りの中心は、町の東西を代表する“神男”
愛知県西尾市鳥羽町にて毎年2月に行われる「鳥羽の火祭り」。その年の豊作などを占う祭りとして、1200年前から伝えられ、国の重要無形民俗文化財にも指定された奇祭だ。祭りの見どころは、1年かけて作った“巨大なシンボル”を、わずか30分で燃やす場面。祭りに向けて、町の男たちが神社にて祭りの準備に取りかかった。
祭りの中心となるのは、町の東西を代表する“神男”。先頭に立ち、皆を引っ張る重要な役だ。今年の西の神男は、信用金庫に勤務する重富涼太さん。「お調子者なので、自分なりに楽しみながらやりたい」と、営業で鍛えた明るさで大役を乗り切る決意を述べた。東の神男は、中学校教諭の野口翔太さん。年齢の順で“神男”が巡ってきたことを機に参加を決めたと話し、「自信はありませんが、頑張ります」とやや控えめに祭りへの意気込みを語った。
「祭りが終わると、“神男”は大人になると思うよ」と話すのは、「鳥羽火祭り保存会」の大西俊竹さん。これまで“神男”を担ってきた男達は、祭りを成し遂げたあと“変わる”のだそう。今年の“神男”、重富さんと野口さんの“祭りあと”にも注目だ。
“ゆすり棒”の松の木を求めて山の中へ
祭りのシンボルは、「すずみ」と呼ばれる巨大な造形物。すずみを1基作るには、ススキが2トン、青竹60本など、大量の草木が必要。その準備のため、神男達は、車で2時間かけて豊田市の山中へやってきた。目的は、祭りで使用する「ゆすり棒」と呼ばれる、すずみに突き刺す松の木を調達すること。真っ直ぐで、両手で持てる太さが良いそうだ。
以前、町内で育てていた松は害虫被害で全滅。事前に山中を下見をして、チェックしておいた松を探す。しかし、悪天候で視界が悪く、チェックしておいた松がなかなか見つからない。「帰りたい・・・」という声が漏れるなか、全員で山の中を歩き、お目当ての松を探し続けていく。
ようやく、印を付けておいた松を発見。松の前で2礼、2拍手、1礼を行い、松を切る作業へ。しかし、今度は切るための使用するチェーンソーが動かない事態が。何度かエンジンをかけ続け、やっと動き出したチェーンソー。ゆっくりと慎重に松を伐採し、人力で運び出していく。すずみ等の材料探しは、1か月以上にもおよんだ。
各家庭で育てたススキを毎年奉納
年が明けると、拝殿の横にテントが設置され、倉庫の扉が開かれる。そこに次々とやってくる軽トラが積んでいたのは“すすき”。「すずみ」のほとんどを占めるススキは、1基に約2トン必要。そのため鳥羽町では、各家庭でススキを育て、2縛りずつススキを奉納する決まりがある。祭りの決まりについて、「祭りを楽しむためだからね」と笑顔で話す町民たち。みんなで祭りを楽しむため、多くの人がススキの奉納に貢献している。
深谷さんが自宅で育ているのは、すずみを飾りつけるためのススキ。他のススキと比べて、長さと穂先があることが必要だが、実は育てるのが難しいそう。
「場所を替えたり、肥料を与えたり。水はけが良いとか悪いとか、いろんな場所で育てながら、成長の良い場所を試行錯誤して探して育てています」と、ススキを育てる過程について話す深谷さん。続けて、「(すずみ作りに)大量に必要になるので少しでも足しになれば良い。自主的にやってます」と祭りへの思いを語った。
1200年間、口伝で受け継がれてきた“すずみ作り”
地図を見ながら町内を歩いていたのは、東の神男・野口さん。「顔を見てもらって、今年の神男ですと挨拶をしています。(祭りでは)すずみを作るときの縄を一軒一軒もらうのですが、(今は)その代わりとしてお金をいただいています」と、神男の役目を臨んでいた。大体200~300世帯をまわる神男の挨拶。野口さんは仕事が終わってから一軒一軒、家をまわっていく。
「眞吾さんのとこの孫か、風邪引かないようにね」、「怪我しないようにね」と、野口さんに声をかける町の人々。町の人は、神男に会うのを楽しみにしているのだ。今日は50軒ほど挨拶にまわったという野口さん。「(町の人に)声かけられると励みになります。みなさんのおかげです」と、町に人々へ感謝の思いを滲ませた。
町民が奉納した大量のススキや他の草木が集まり、いよいよ“すずみ作り”が始まった。すずみ作りには、町の男200人以上が集結。すずみ作りの様子について、町の人々は「出来上がるところが一番感動する」「鳥羽の人たちがひとつになる瞬間、泣けてくる」と話す。
「上を通して、下に出す。こっちから順番」、「ゆっくりでいいよ、落ち着いて」などお互いに声を掛け合いながら進む「すずみ作り」。燃やすため、釘などを一切使わず、自然の物でつなぎ合わせる「すずみ」。作り方は1200年もの間、“口伝え”のみで先輩から後輩へ語り継がれ、マニュアルはないという。
すずみの中には、占いで使う「神木」という栃の木を忍ばせ、根元には“十二縄”と呼ばれる縄を巻き付ける。1基2トンある、すずみは200人全員が力を合わせて設置。1年間かけて作り上げた「すずみ」がついに完成した。
翌日、この「すずみ」が「鳥羽の火祭り」でわずか30分間で燃やし尽くされる。
ついに本番!炎からススキを掻き出す
ついに本番を迎えた「鳥羽の火祭り」。本番当日の朝、神男は身を清めるために、氷水でみぞぎを行う。さらに午後、神男と男達が“ふんどし姿”で向かった先は三河湾。全員で海に入り、寒さに耐えながら再びみそぎが行われた。寒さによる体の震えがとまらない東の神男・野口さん。周りの男達が体をさすり、野口さんを寒さから助けていく。
そして、夜は灼熱の火祭り。「鳥羽の火祭り」では、東と西地区の燃えたすずみから“神木”と“十二縄”を取り出し拝殿へ奉納し、早く奉納できた方が今年は豊作になるといわれている。火祭りを見るため、境内には町の人口の3倍以上にあたる、約7000人が集結。神男・野口さんが勤務する学校の教え子たちも駆けつけた。「大役を務める先生の活躍を見たかった」と野口さんの活躍に期待を寄せる教え子たち。
すずみに点火されると、ついに祭りが開始!男たちは火から身を守るため、頭巾をかぶり、火に向かっていく。力ずくで外側の竹をくずしにかかる男たち。続いて、太鼓の合図と共に神男が持つ「ゆすり棒」が登場し、すずみを突いて壊していく。
「先生、頑張れ!」と野口さんの教え子たちなど観客達の大きな応援の声に包まれる境内。燃えさかる炎のなか、男たちは火だるまになりながらススキを掻き出していく。
点火から約10分後、ゆすり棒で刺したすずみが崩れ落ち、神木が姿を現した。神男は神木を引っ張り出す役目。男たちからは「神男!神男!」と神男を呼ぶ声が激しく飛び交う。
神木を引き出すため呼ばれた野口さんだが、頭巾の結び目が固くなかなかほどけない。なんとか結び目がほどき、神木をひっぱり出すことに成功。果たして、先に奉納するのは、東と西、どちらなのか・・・!
成し遂げた神男の役目「感謝の気持ちでいっぱい」
最初に拝殿にやってきたのは、西の神男・重富さんたち。今年は、西地区が豊作という結果を手にした。「野口先生!野口先生!」と教え子たちの声に応援されながら、続いて到着した東の神男・野口さん。
次点で奉納した東地区は、例年並みの作物の出来という結果となった。野口さんの“神男”としての姿について、教え子たちは「いつも様子と違って、かっこいいと思いました」と嬉しそうに話した。
無事、“神男”という大役を成し遂げた野口さんは、「本当にたくさんの人達に支えてもらい、教えてもらって、今この一年の役割を全うできたと思います。感謝の気持ちでいっぱいです」と、周りの人々への感謝と気持ちと達成感をかみしめた。
今年も大きな盛り上がりをみせた「鳥羽の火祭り」。来年に向けて、各家庭ではススキの植栽が始まっている。