避難所に行けない障がい者と家族、求める場所は「家族が一緒に過ごせる場所」
多くの人々が身を寄せる避難所にて、障がいのある子どもを持つ家族が他の避難者と生活を共にすることは難しい。車中泊から福祉避難所、1.5次避難所へと、“家族が一緒に過ごせる”場所を求めて、避難所を転々とする障がい児と家族を取材した。
障がい者と家族が避難所で生活する難しさ
石川県輪島市にあるグループホーム「海と空」。一般の避難所での生活が困難であったり、配慮が必要な高齢者や障がい者の家族を受け入れる“福祉避難所”として開設されている。室内には隙間なくベッドや布団が並べられ、多くの高齢者が避難。その2階の個室に避難しているのが、岩崎香さんと息子・佑輝くんだ。佑輝くんは、知的障がいのある自閉症。地震発生後の暮らしについて、香さんは「(自宅が)いつ崩れるかわからない状態で外に出て、車で元日はずっと待機していました。1日目は車中泊。家がどうなるかわからなかったので」と振り返る。
地震を機に大きく変化した生活環境。多くの避難者が集まるなか、落ち着かない佑輝くんの様子をみて、香さんは避難所での生活は難しいと判断。地震から5日目、長女と祖母とは別れ、父親が助けを求めて訪れたのが、祐輝くんがショートステイとして利用してきた「海と空」だった。
障がい者とその家族が、他の避難者と一緒に避難所で生活することは難しい。「避難所行って、“どうにかならないの、あなたのお子さん、ちょっとうるさい”みたいなことを言われたっていうのを聞いた。あぁやっぱり言われるんだなって」と、障がい者に対する辛い話を香さんは聞いたという。
自閉症の息子・凌久ちゃんと共に避難している横田さん家族は、そんな“辛い経験”を機に市役所から「一互一笑」に避難してきた家族だ。「一互一笑」は生活介護や放課後デイサービスなどを行う、多機能型ライフサポート施設。父・圭亮さんと母・直子さんは、「泣き声とかで結構やっぱり周りから言われて。親がちゃんと注意せえみたいな。親のしつけがなってないとか怒られた」と避難所での経験を明かした。
睡眠障害を抱えながら、“1.5次避難所”へ移動
石川県輪島市では、障害者や高齢者、妊産婦などを受け入れられるよう、26の施設と協定を結んでいるが、現時点で開設できている「福祉避難所」は7か所のみ。市の担当者は、「事業所も断水などの被害を受けており、受け入れられる状態にない」と話す。
「海と空」と「一互一笑」にも避難所から通っている職員がおり、職員の人数が足りていない状況が続いていた。そんななか、障がいのある人とその家族だけがまとまって生活することができるように“1.5次避難所”の確保に奔走する女性がいた。「社会福祉法人 弘和会」事業部長・藤沢美春さんだ。“1.5次避難所”とは、生活環境の整った2次避難所へ移るまで、一時的に被災者を受け入れる避難所のこと。
震災から14日目を迎えた、1月14日。藤沢さんが確保した“1.5次避難所”に、香さんと佑輝くんも向かうことになった。環境の変化に戸惑い、睡眠障害となってしまった佑輝くん。香さん曰く「(昨日も)深夜0時ぐらいから多分5時ぐらいまで、ちょっとウロウロしていた」という。そんな佑輝くんの様子から個室を準備しようとしていた藤沢さんだったが、1.5次避難所では相部屋にせざる得ないことに。「なるべく迷惑かけない状態で利用したいなとは思っている」と心配そうに話す香さんに、「大丈夫、大丈夫!それはちょっと(相部屋の)お母さんに私の方から連絡しとく」と力強く声をかける藤沢さん。
雪が舞う輪島市の1月。香さんと佑輝くんを含む数人が、福祉避難所から1.5次避難所へと移動していった。
約90㎞先の避難所へ「家族で一緒に過ごしたい」
輪島市から1.5次避難所「国立能登青少年交流の家」のある羽咋市までは約70㎞。無事到着した香さんと佑輝くんは、2週間ぶりのお風呂に入って気分転換へ。夜も声を出して歩き回る佑輝くん。相部屋の人に迷惑をかけてしまわないかと香さんは祈るばかりだ。
翌朝、被災者家族らの食事は食堂でバイキング。しかし、食堂に佑輝くんの姿はなかった。佑輝くんの部屋を訪れると、パンと野菜ジュースで朝食をとる佑輝くんの姿が。「食堂の前でダメでした。食堂の前でUターンして、いつもの拒否が始まったので。無理やりではなくても大丈夫かなと思って」と部屋で過ごしていた理由を話す香さん。自宅から車中泊、そして福祉避難所から1.5次避難所への移動。佑輝くんにとっては、1.5次避難所はいまだ“落ち着く場所”とはほど遠い状況だった。
震災から15日目。佑輝くんのもとへやってきたのが、佑輝くんの父・徹也さん。徹也さんは羽咋市から約90㎞離れた小松市の粟津温泉宿を1.5次避難所として、祖母と小学3年の娘と一緒に避難をしている。佑輝くんと母・香さんを迎えに来たのだ。
「選択肢がやはり狭いというか、その中でいかにね、いい判断ができるかどうか。間違ってばかりですけれども、一緒に過ごせるのが一番かなと思っています」と話す徹也さん。香さんは「安心できる空間と好きなものができる空間があればいいなと思うんですけど」と家族全員が揃う避難所での暮らしに想いを寄せる。
佑輝くんの様に“こだわり“の強い知的障がい児は、環境に馴染むことができなければ、次なる安住の地を探さなくてはならない。雪が舞うなか、佑輝くんと香さんは徹也さんと共に、家族が待つ約90㎞先の1.5次避難所へと旅立っていった。