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【NNNドキュメント】「失敗、していい」“りんご飴専門店” 難聴の人が働く場所 NNNセレクション

2023年9月2日 13:25
【NNNドキュメント】「失敗、していい」“りんご飴専門店” 難聴の人が働く場所 NNNセレクション
福岡市のりんご飴(あめ)専門店「あっぷりてぃ」。店内に音声認識ソフト、注文は指さし。働くのは補聴器をつけた難聴の人たち。店の仕組みや運営は、みんなで考えました。見た目では分かりにくい“難聴”から、多様性を認める社会の新たな可能性を探ります。

    ◇

難聴の男性
「失敗するのは怖いです」

難聴の人たちの悩み、知っていますか?

難聴の少年
「後ろの音が聞こえなくてね、飛び出ていたら車にひかれてしまうところだった」

難聴のことを、もっと知ってほしい。難聴の人たちが働く、りんご飴専門店『あっぷりてぃ』がオープンしました。

難聴の男性
「ただ今、りんご飴は作ったばかりで冷えておりませんので(冷えた状態での)提供は難しいです」


「わかりました。じゃあ、プレーンをふたつ」

あっぷりてぃ代表・梶本真佑さん
「健聴者の方も難聴者に寄り添う、難聴者の方も健聴者に寄り添うっていう。お互いさまがないと理解って増えていかないと思うんで。働く場所とか経験する場所っていうのは作りたいなって、常々思っていたんですよ」

『あっぷりてぃ』代表の梶本さんは健聴者ですが、 妻の由美子さんと長女の楓夏さんは生まれつきの難聴です。

楓夏さん(手話で)
「父はりんご飴を作るのがすごい」

梶本さん
「りんご飴を作るのがすごいって」

記者
「りんご飴で働いているお父さんは好き?」

梶本さん(手話で楓夏さんに)
「りんご飴で働いているお父さんは好き?」

楓夏さん
「(首を横に振る)」

難聴の人が働きやすい環境をつくること。それは、娘の未来にもつながると考えています。

梶本さん
「いいことをしているから売れなくていいってことは、絶対なくて。ちゃんと利益をあげる企業体制にしたいんです」

スタッフの1人 田中奏汰さん
「『どうして私は聴覚障害者なんだろう』って思ったことはありました」

一般企業に就職したものの、コミュニケーションの壁にぶつかり退職。 1年間、家にこもりがちでした。そんな奏汰さんに声をかけた、代表の梶本さん。“あっぷりてぃの看板商品に”と考えていたりんご飴と、奏汰さんの姿が重なりました。

梶本さん
「飴は1回ちょっと塗り方を失敗しても、もう1回、塗ればちゃんときれいにできあがる」

この日はオープンに向け、地元の酒屋で、実際にりんご飴を販売しました。

田中さん
「プレーンがひとつ、バターミルクがひとつでよろしいですか?」


「はい、そうです」

注文はメニュー表を指でさしてもらいます。 順調に接客をこなすスタッフたち。ところが、閉店間際に問題が起きました。

スタッフ
「他のバターとプレーンは」

梶本さん
「合っている?」

スタッフ
「はい。余る数は合っています」

梶本さん
「ああ、そうか。だから、渡していない方がいるかもしれない」

スタッフ
「私が間違えてしまったかも」

田中さん(手話で)
「大丈夫。落ち込まないで切り替えよう」

その後、渡し忘れたお客さんにも無事にりんご飴を届け、 接客の練習は終了しました。

梶本さん
「今日ミスしてよかったね。ちょっとミスしたときに暗くなったでしょ。それは仕方ない」

そして迎えたオープンの日。

梶本さん
「スタートして10年後にどうなっているかって分からないけど、新しい普通をつくっていかないと僕たちのやっている意味はないと思います。ガタガタな道なのかもしれないですけれど、僕は難聴の理解の促進と、先の未来をつくっていきたいと思っています」

指差し注文や音声認識ソフトで接客をこなしていく田中さん。りんご飴は1個、500円から。

子ども
「おいしい」


「手話のことが分からない人間でも、聴覚障害のある人とコミュニケーションとか意思疎通がとれるシステムを、ちゃんと考えてくれているのもいいかなと思います」

行列は途切れません。 お客さんのなかには難聴の子もいました。


「視覚的に色々工夫がされているので、(難聴の子どもにも)とても買い物しやすくて練習になってとてもいいと思います」

200個用意したりんご飴は完売しました。

田中さん
「あっぷりてぃで私たちが働いている姿を見て、聴覚障害者でもこんな仕事ができるんだと思ってもらえたらいいな」

梶本さん
「一番のコンセプトは、“何度でも失敗していい”です」

失敗しても、失敗しても、大丈夫。

※2023年7月9日放送 NNNドキュメント’23『りんご飴に願いを~難聴って、なんなん?~』をダイジェスト版にしました。