「妻が見つけさせてくれたのかな」倒壊住宅から「将棋の駒」 棋王戦に提供へ
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石川県珠洲市の自宅で被災した塩井一仁さん(63)。
塩井一仁さん(63)
「この模様が、がれきとがれきの隙間から見えた。大事な駒があそこにあるなということで」
がれきの下から見つけ出したというのは、将棋の駒です。実はその駒は、2月24日に金沢市で行われる、藤井聡太八冠が初防衛を目指す棋王戦五番勝負第2局に提供する予定なのです。
日本将棋連盟石川県支部連合会の理事を務める塩井さんは高級な駒などを複数所有していて、毎年のように棋王戦に将棋盤と駒を提供してきました。
ただ、今年は提供をやめようと考えたといいます。
棋王戦に駒を提供 塩井一仁さん
「そのあたりに妻がいて、あのあたりの木に圧迫されて、あそこで亡くなったような状況」
自身は吹き抜け部分にいて助かったものの、妻の紀美子さん(64)は天井の下敷きになりました。最愛の妻を失い、塩井さんは、一度は盤や駒の提供を見送ることを決めたといいますが、その思いを変えたのも妻でした。
棋王戦に駒を提供 塩井一仁さん
「妻の遺骨を前に、妻は将棋のことをどう思っていたか考えたときに、私が土日になれば将棋のイベントで1泊2日でしょっちゅう出かけたり、あまりよく思ってなかったかなと思ったが、息子が小学6年生で市の将棋大会で優勝したら喜んでいたし、妻も将棋は大賛成かわからないけど、応援してくれていた気がするのでと思い直して、提供することにしました」
そして、倒壊した自宅に戻り、がれきの下から駒を発見したのです。
棋王戦に駒を提供 塩井一仁さん
「駒としては完璧な状態で奇跡的に残っていた。このままがれきと一緒に将棋の品物も廃棄処分されても仕方ないかなと思っていたので、妻が見つけさせてくれたのかなと」
去年と同じように棋王戦に駒を提供するのは、塩井さんの“日常”です。その“日常を取り戻す”という意味でも改めて駒の提供を決めたといいます。
そのことを遺影の妻に報告すると…
棋王戦に駒を提供 塩井一仁さん
「(遺影の)にこやかな顔はそのままだったので、喜んでくれているのかなと思いました」
それでも…
棋王戦に駒を提供 塩井一仁さん
「これから1人で仮設住宅で寝るので、1回夢にでも出てきたり、どんな形でも目の前に来てくれて、ちょっとでも話ができればいいなと思っています」