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ジュリー氏謝罪から1年~男性の性被害への理解どう変わった?~

2024年5月18日 7:00
ジュリー氏謝罪から1年~男性の性被害への理解どう変わった?~
安西真実さん(40代・男性)は、子どもの頃に同級生や先輩からいじめや性暴力被害を受けた。性被害の当事者として20代から20年以上にわたり、「被害の実態」や「人生との向き合い方」、「トラウマや治療」などについて講演活動を行ったり、SNSで発信したりしている。

安西さんを初めて取材したのは、当時のジャニーズ事務所がジャニー喜多川元社長による性加害を認め、謝罪したあとの去年8月。安西さんは性被害によって人生が変わってしまったという切実な思いとともに、「男性が性被害を訴えることの難しさ」を語った。そして、「ジャニーズ事務所の問題をきっかけに、男性の性被害はあちこちであると理解してもらいたい」と訴えていた。

あれから約9か月――男性の性被害に対する社会の理解にどのような変化が生じているのか、安西さんに再び話を聞いた。

■これまでの苦悩「男性の性被害なんて聞いたことがない」

「男子の場合は特に『被害を受けた』というその一言を発信することがものすごく怖くて、(言っても)否定をされる可能性が高いんですね」

去年、被害にあったと声をあげることの難しさをこのように話していた安西さん。

これまで20年以上、男性の性被害について伝える活動をしてきたが、当初は全く理解されずにからかわれたり、「同性愛なんじゃないのか」と心ない言葉をかけられたりすることもあったという。

被害を受けた苦しさやトラウマから受診した心療内科や精神科でも、「男性の性被害なんて聞いたことがない」と信じてもらえないことがあり、「女性ならともかく男性なんだし」と笑って済まされてしまい深く傷ついた経験もある。

■1年間で感じる変化「疑われず、信じてもらえる」

しかし、去年のジャニーズ性加害問題以降は、自身の活動の中で性被害を話した際の周囲の反応に変化を感じているという。

「最近は話しても、すんなり聞いてもらえる。まず疑いから入るのではなく、そういうこと(男性の性被害)があるんだという前提から聞いてもらえるというのはすごく大きい」「当事者としては、声をあげたときに疑われたり、ちゃちゃを入れられるのはすごく嫌。きちんと信じてもらえる、これはすごく助かる」

さらに、世間が性被害について注目するようになり、「自分も性被害を受けて苦しい」「こんな嫌なこともある」と声をあげやすくなったのではないかと安西さんは話す。

■「声をあげていいんだ」立ち上がる性被害当事者

安西さんは、これまでも性被害が社会で大きく取り上げられる機会は何度かあったとした上で、去年のジャニーズ問題をきっかけに性被害を受けた当事者が立ち上がる、声をあげるケースが増えたのではないかという。

「男性の性被害が注目されることから、それこそ女性の方とか性別問わず、LGBTQの当事者の方も含めて、みんなが声をあげるようになったとすごく感じます」「やっぱり自分も声をあげていいんだって強くみんなが思ったんだと思います」

男性の性暴力についてはこれまで、社会全体の誤解や思い込みから、被害にあっても「被害の深刻さを認識しにくい・相談を躊躇する」などの問題が指摘されてきた。

そうした指摘を受け、内閣府では去年9月~12月、「相談・被害申告をしやすくするための強化策」の一つとして、男性や、男児と保護者のための性暴力被害の相談窓口を開設した。その結果、「今まで被害を忘れるしかないと思い話してこなかった」「過去の被害がフラッシュバックしている」「子どもや若者の頃に被害にあって、その後の人間関係などに支障をきたしている」など、被害から長期間を経ての相談も多かったという。

安西さんが、自身が受けたいじめが、実は性被害なのだと気がついたのは21歳の時。性被害を受けた当事者の中には、安西さんのように被害を受けていた当時は自身に起きていたことが“性被害”なのだと認識できていなかったケースもあるという。

このため、時間が経過した性被害についても声をあげることができる相談窓口の体制強化が重要となる。また、性被害を身近な人から打ち明けられた時に、疑ったり、否定したりせず話を聞くことも大切だ。

■ジャニーズ事務所の問題だけで終わりじゃない 男性性被害「これからも考えていく土台に」

性加害をめぐる社会の変化について安西さんはこう話す。「ジャニーズ問題がきっかけで、この1年間、大きく変わったと思うのが、性犯罪被害、性暴力被害について、自分たちの問題なんだというふうに社会全体が思うようになったと感じます」「信じてくれないとか、そういう二次被害の問題はあるにしても、全体としては、すごく声があげやすくなったし、社会がより性被害者について理解をしようとするようになった。法律を変えようとか、そういった動きがもう進んでいて、その歩みというのは多少、ジャニーズ性加害問題の報道が下火になっても止まらないのかなって今、感じてます」

これまでの経験から、再び男性の性被害者が理解されづらい社会に戻ってしまうのではないかとの不安もあるという安西さん。しかし、日本版DBSの創設や、男性性被害の支援団体が増えていることなど、社会を変えていこうとする動きは強く感じるとして、性被害について今後も「ゆっくり考えていこうという土台ができたのでは」とこの1年を振り返った。

■これからも伝え続けたい「性暴力はダメ」

安西さんは、性被害について「全ての人にとって他人事ではない」と話す。「性暴力っていうのは日常に潜んでいるすごく卑劣な、すごく悲惨な、そして被害を一度受けてしまうとすごく一生引きずる可能性がある深刻な問題」。だからこそ、「話すことで少しでも社会の意識を変えることができる」と続ける自らの活動では、“性被害を受けたあとのつらい思いや生きづらさ”といったネガティブな感情も正直に伝えている。

「被害を受けたあと、折り合いをつけて、幸せをつかめるというそんな簡単な話じゃないよって。逆につらいまま生きるっていうこともあるから、だからこそ、性暴力被害ってのは絶対ダメなんですよっていうふうに、そういうふうにつなげて話をしていきたいなってすごく思ってます」

■性被害がない社会へ

「今多分、ジャニーズ問題もそうだし、ほかの性被害当事者も一生懸命声をあげて戦っている」

安西さんが、男性の性被害への社会の理解が進んだと実感した1年。

しかし、塾講師が生徒の性的な姿を盗撮したり、教員や保育士、指導者などが教え子に対してわいせつな行為をしたとして逮捕されたりするなど、立場を悪用した性被害が相次いでいる実態もある。

安西さんの願いは――

「『被害者を支援しましょう』とか、『被害者を理解しましょう』という話も重要だけれど、そもそも、性犯罪被害・性暴力被害がないという社会になってほしい」