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【小児の急性肝炎】感染研が症例の分析結果を報告「増加の兆候ない」専門家の解説は?

2022年6月3日 23:31
【小児の急性肝炎】感染研が症例の分析結果を報告「増加の兆候ない」専門家の解説は?

原因不明の子どもの急性肝炎の疑いがあるとして報告された患者について、国立感染症研究所は、年齢の中央値は5歳で、「国内で小児の急性肝炎、アデノウイルス感染症が増加している兆候はない」などとする分析結果を報告しました。

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■感染研が国内症例を分析「増加の兆候なし」

国立感染症研究所は、原因不明の急性肝炎による入院だとして、先月26日までに報告された16歳以下の症例31人を分析しました。

男性が19人、女性が12人、年齢は生後2か月から15歳までで、中央値は5歳だということです。発症日は今年2月から5月で、31人のうち18人はすでに退院し、肝移植した人はいないということです。

31例は広い地域から報告されており、現時点では明らかな集積は見られていないとしました。

また、症状の報告があった27例のうち、18例(67%)で37.5度以上の発熱、13例(48%)で腹痛や下痢、嘔吐(おうと)などの消化器症状、黄疸(おうだん)が6例(22%)などとなっています。

新型コロナウイルスのワクチン接種歴は報告のあった26人のうち5人、新型コロナ検査で陽性だったのは、31人中4人でした。アデノウイルス検査の陽性は2人で、1型と2型が1例ずつでした。

国立感染症研究所は、原因について「アデノウイルス感染症が疑われているものの、感染症以外の原因も含めて引き続き調査を進めている」と述べました。

また「国内で小児の急性肝炎、アデノウイルス感染症が増加している兆候はない」などと分析しています。

■専門家が解説「日本は欧米と違う状況」

日本での子どもの原因不明の急性肝炎の動向を調査してきた日本小児肝臓研究会代表の虫明聡太郎医師は、例年、日本では原因不明の急性肝炎が年間20例前後発生しているとして「今のところ、例年と違う状況が生まれているということはない」と指摘しました。

イギリスでは、検査した170例のうち7割弱でアデノウイルスが陽性となり、最も関連が疑われる病原体とされていますが、中でも、多く確認されている「41型」は、日本では確認されていません。

日本で検出された「1型」と「2型」との違いについては、「アデノウイルスは血清型が50種類あり、41型は、ロタウイルス、ノロウイルスと並ぶ、胃腸炎を引き起こすウイルス」で、感染性腸炎を引き起こすウイルスだとする一方、1型と2型は、「喉が痛くなったり、発熱する」急性呼吸器感染症のウイルスだと違いを説明しました。

■解説:新たな肝炎ウイルス?オミクロン株の影響は?

虫明医師に、原因不明の小児急性肝炎について聞きました。(取材した5月17日時点の情報です)

――原因不明であるものの、アデノウイルス感染により急性肝炎となるメカニズムとは?

アデノウイルス肝炎というのは極めてまれです。アデノウイルスが、肝細胞に何か悪さするということは、作用機序として考えられていません。

――アデノウイルスやそれ以外のウイルスが起因して急性肝炎になることはある?

例えば、肝組織からアデノウイルスやインフルエンザウイルスが検出されたということは、私の知る限り、ありません。感染が起こったときの免疫反応が、適切にウイルスと戦えないまま、細胞に障害が出る。他にも、脳症や、神経。その一つとして肝臓がターゲットになれば、悪くなる現象が誘発されるという機序の方が考えやすいです。

――ウイルスが肝臓に悪さをするよりは、免疫系の影響によることが考えられる?

例えばB型肝炎、C型、E型などは、ウイルスの性質として、肝細胞に感染するとわかっています。

――つまり、患者がB型やC型などの(肝臓を)攻撃するウイルスについて陰性の場合、(ウイルス自体の攻撃ではなく)別の要因が?

そういうことです。

――オミクロン株が関係している、またはアデノウイルスとオミクロン株に両方に感染したことによる要因、という仮説もあるがどうか

ここからは全く何のエビデンスもないので、私見ですが、コロナウイルスが、オミクロン株であろうと何であろうと、B型肝炎やC型肝炎のように肝細胞に直接入って悪さするということは、理論的に考えてありえないのじゃないかと思います。

新型コロナウイルス陽性の子どもで(原因不明の肝炎が増加しているといった)ウイルス学的な現象を結論づけるのは早計だと、現段階では思います。これまである知識で考えると、特定のウイルスが悪さしているといま考えるのは、本流の考え方ではないと思います。

――新型コロナの感染対策によって、幼い頃にアデノウイルスに感染しなかったことによる影響、という仮説については?小さいお子さんがマスクしたり、どこでもアルコール消毒したり、経験したことのない非常に衛生的な環境で子どもが育ち、小さい風邪のウイルスや集団が保有しているウイルス量が極めて少ない環境の中で、お母さんからお腹の中でもらった免疫が切れた1歳、2歳あたりを成長してきているわけです。(本来なら)熱のある子と遊んだり、鼻水ふいたりして成長してきているが、それがない状態、感染症に極めてナイーブな状態で、子どもたちが過ごして成長しているということは、ちょっと心配ではあります。

■大人にはうつらない?初期症状はわかる?

――大人ではなく、子どもで原因不明の急性肝炎が起きているのは、成長過程のことに起因する可能性あるのか?

もし子どもに特異的なことが始まっているとすれば、感染あるいは衛生環境との関係は、これから検証していく必要があると思います。

――保護者など大人にうつる可能性はある?

急性肝炎が(大人や家族に)うつるということはないです。看病する家族が心配する必要はありません。

――できる対策は?

手洗いは、これから他の食中毒を防ぐことも含め、感染症にあわないためには、子どもたちもしっかりやってほしいと思います。

――急性肝炎だと、周囲の人が早く気づくことはできる?

初期に気づくことは、我々専門家でも難しいです。血液検査をして初めてわかります。もし、我々(医師)が、初診で所見があるとしたら、黄疸です。肌が黄色い、白目も黄色いという症状です。しかし、特定の症状から急性肝炎を疑うことは難しいので、保護者の方は、過剰に心配して(病院に)連れて行く必要はありません。

また、肝移植も含め、日本の急性肝不全の救命率は、世界的に見ても高いです。我々は、必要なケースに必要な治療をして、場合によっては肝移植も適用できるように、小児科や外科医、移植外科医などと緊密に連携していきます。