×

子宮けいがんを防ぐためのHPVワクチン 素朴な疑問を20代女子が医師に聞いてみた

2024年6月8日 8:11
子宮けいがんを防ぐためのHPVワクチン 素朴な疑問を20代女子が医師に聞いてみた

年間およそ3000人が亡くなり、命が助かっても治療で子宮を失うこともある子宮けいがん。子宮けいがんを防ぐHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンの無料接種は、小学6年生から高校1年生相当の女性が対象で、2024年度に17歳から27歳になる女性も2025年3月末までは無料の「キャッチアップ接種」があります。

このワクチンへの疑問をキャッチアップ接種対象者の23歳の女性が、産婦人科医の稲葉可奈子さんに聞きました。

■「キャッチアップ接種」の連絡は届いたけど…

――(区から)接種についてのお便りはもらったけど、家族もこれは打たなくていいよみたいな感じで、しまったままになっています。

稲葉医師:親御さんも今、元気な娘さんに何かあったらと思うと、全員が子宮けいがんになるわけじゃないから、ワクチンは打たなくていいとおっしゃる気持ちもよくわかる。ですが、実際に副反応がどうなのかという認識がすごく大事。2013年、HPVワクチンが小6~高1相当の女性を対象に無料の定期接種になった前後に、接種した後にしびれや体の痛みなどが出たという訴えがあり、大きく報道されました。

このため国は、自治体から個別のお便りなどで接種を積極的によびかけることを差し控えましたが、国内外の研究で安全性や効果が示され、2022年4月によびかけを再開しました。日本でも、何万人という規模で、ワクチンを接種したグループと接種していないグループで、症状が起きる頻度に明らかな差があるか、検証した調査が行われました。

痛みが続く、歩けないなど24の症状がHPVワクチンによって起きたのではないかと言われていたので調べた結果、発生頻度に明らかな差がないとわかった。日本でも他の国の研究でも同じ結果でした。接種する、しないに関係なく、そういった思いがけない症状が出ることがあるということです。

■思いがけない症状とは?

思いがけない症状とは、HPVワクチンが登場する前から、思春期の子たちを診る小児科医などはご存じだったもので、機能性身体症状といいます。人間は心と体が思った以上に密接に関連している生き物で、不安やストレスを感じることなどがあると、気にしていないつもりでも、実は負荷がかかっていて、思いがけない症状として表れることがあるのです。

症状があること自体は事実なのですが、検査をしても、何も異常が出るわけではないのが「機能性身体症状」の特徴です。当時、日本中の女子中学生などがHPVワクチンを接種したわけで、その後にたまたまそういった症状が出た方がいてもおかしくない。そうなった時に、HPVワクチンが原因かもと思われたのです。

しかし、実際にはHPVワクチンを接種していない方たちにも同じような症状が出た方が同じくらいの頻度でいたということです。ワクチン接種に関係なく、あのような症状が出る可能性は誰にでもある。HPVワクチンのリスクではないと、国際的にもわかってきたのです。このワクチンは接種の時、痛いので、不安や痛みで気分が悪くなってしまうかもしれない方は、最初から横になって接種することもできます。

不安がある方は、事前に病院でご相談ください。痛みや不安がきっかけとなって、思わぬ症状が出ることもあるので(予防接種ストレス関連反応=ISRR)、心配なことは必ず接種前に病院で確認しておきましょう。

■ワクチンの効果と子宮けいがんの自覚症状

――ワクチンはどれぐらい子宮けいがんを予防できるのですか

子宮けいがんは、子宮けい部(子宮の入り口の部分)がヒトパピローマウイルス(HPV)に感染することが主な原因で、ワクチンは感染を予防する効果があります。このウイルスには8割くらいの方が一生に一度、感染すると言われていて、性交渉をしたことがあったら誰が感染しても不思議ではない。

性に奔放な人がなるというのは誤解ですし、固定のパートナーとしか性交渉しないからワクチンは必要ないとはならない。誰でも子宮けいがんになるリスクがあります。

――子宮けいがんになると、どのような症状が出ますか?

初期段階は、ほぼ何も症状がないのです。最初に気づくのが出血。自分で気づくくらい出血がある場合は、すでにがんが進行していることが多いのです。

ですので、検診も重要で、がんになる手前の状態を見つけることができます。この状態から自然に治る人もいますが、一部の人はがんになります。飲み薬などによる治療法はなく、経過観察をして、がんになりそうな段階になると、手術で子宮の入り口部分の病変だけを切り取ります。経過観察は3か月から半年ごとに産婦人科を受診して、内診台で検査を受けなければならない。

たとえ、がんにならなくても女性にとっては大きな負担で、それもないにこしたことはないのです。検診によって、がんになることを防げるとしても、がんになる前段階も含めて予防できるのはワクチンだけです。

HPVのうち、子宮けいがんの原因となるタイプは14種類ほどあり、最新のワクチン(9価ワクチン)は、子宮けいがんの原因となる7種類のウイルスと性器にできるイボの原因2種類への感染を、ほぼ100%予防できるとされています。7種類だと半分と思うかもしれないですが、リスクが高いものから順番に予防できるようになっているので、その7種類への感染を防ぐことで、子宮けいがんの約9割は予防できることになります。

――20代で接種しても効果がありますか?

正直なところ、中学生が接種するのと同じ効果かと聞かれると、残念ながら同じではない。これには2つ理由があります。

(1)ワクチンは、すでに感染しているHPVの発症を防ぐのではなく、今後の新たな感染を防ぐもので、初めての性交渉よりも前に接種しておくと効果が最大限発揮される。

(2)若い年齢で接種する方が、効果が発揮されやすい。

しかし、性交渉の経験があると打つ意味がないかというと、そんなことはなくて、もし、あるHPV型に感染しているとしても、それ以外のHPVの新たな感染を防げますので、接種の効果は十分にあります。このワクチンによって予防できる9種類すべてに、すでに感染していることはまずあり得ないので、事前に(HPVに感染しているか)検査する必要もありません。

――自治体から届いた予診票と接種券をもって病院に行けば、打てますか?

予約が必要です。もし、お手元に接種券がない場合は、住民票がある市区町村に連絡をすれば再びもらうこともできます。「キャッチアップ接種」の期間は来年3月末まで。3回接種が原則なので、9月頃までに1回目を接種する必要があります。なお、15歳未満で9価HPVワクチンの1回目を接種すると、接種回数が2回ですみます。

子宮けいがんは、20代後半から40代が一番患者さんの数が多い年代。なかなか自分事に思えないと思うのですが、実は誰がかかってもおかしくない病気。予防接種と検診でぜひ、自分を守ってほしいなと思います。