国立科学博物館のクラファンが7億円達成 標本資料の保存の意義とは
■博物館を取り巻く環境と課題
国立科学博物館は地球、生命や科学技術の歴史と現在を研究するため、動植物の標本や恐竜の化石、鉱物の資料などあわせて500万点以上を保管する、国立で唯一の総合科学博物館。上野にある博物館が有名だが、実は所蔵する標本や資料の約99%は茨城県つくば市にある、研究センターに保管されている。
恐竜の化石やほ乳類、昆虫や植物の標本など、フロアによって保管している資料は様々で、ほ乳類の剥製標本や骨が保管されているフロアには、絶滅したほ乳類の剥製や、現在ではワシントン条約で取引が禁止されている物など貴重なコレクションがそろう。
しかし、年々増える収蔵品に対し保管スペースが不足したり、人材不足のため登録作業が進まなかったりと、整理途中の標本や資料が廊下や通路にあふれかえってしまっている現状があるという。
動物研究部で研究主幹を務める川田伸一郎さんは、国立科学博物館の研究員として、日々、資料である骨の洗浄や、標本資料などをアーカイブ化するための登録作業を行っているという。
川田伸一郎さん
「骨のエリアは棚が全て埋まってしまっていて、新しい資料を受け入れるのが厳しい量になっている。しかし、あるうちに集めておかないと、後で集めることが難しいため、収集をやめるわけにはいかない。そのため、今はスペースの使い方を工夫しつつ、それでも入りきらないものは、廊下などに置いている状況」
国立科学博物館は不足している保管スペースを補うため約27億円をかけて新たな収蔵庫を建設中だというが、国からの補助金が年々減少し、運営体制はぎりぎり。また、コロナ禍により入館料収入の減少や、光熱費の高騰を受けて、新収蔵庫の建設費や研究費、資料保管費などが不足する事態に陥っているという。
資金不足のために、研究活動などの縮小や停止が余儀なくされ、万全の状態で資料の保存が出来ない状況を打破するため、国立科学博物館は大規模なクラウドファンディングの実施に乗り出した。
目標金額を1億円として、8月7日に開始したクラウドファンディングは、研究員らによるバックヤードツアーなど国立科学博物館ならではの返礼品も話題を呼び、開始当日に目標金額を集めることに成功。その後も、予想以上の反響と注目を集め、2週間あまりで7億円を突破した。
国立科学博物館の篠田謙一館長は「これだけ早く目標金額を達成できたことに驚いているとともに、多くの国民の皆様にご支援いただけたことに感謝しております」とコメント。集まった資金は今後、新たな収蔵庫の建設費や研究資金などに充てるほか、一部の資金を他の科学系の博物館の標本・資料の入手や整理に関わる作業の援助などに活用したいとしている。
生物標本などは、その生物が「いつ、どこに、どのような」状態で生息していたか示す資料。収蔵庫があふれる程の標本や資料を博物館が集め保存する意義について川田さんはこう話す。
「これから先、絶滅してしまう動物も出てくる中で、標本などの資料が残っていないと、それがどのような生き物だったのか理解することが難しく、また、実体験として見て学ぶことができない。今ある自然に存在する動物や植物、鉱物などをできるだけ未来のために保管し、研究や何か起きた時のために備えておくことが博物館の役割」
国立科学博物館は資金的な支援だけでなく、博物館としての取り組みに賛同する人々との出会いにも期待したいとして、ことし11月5日までクラウドファンディングを実施する予定。一部の返礼品は完売しているものの、研究員による動画配信や記事発信など国立科学博物館の活動などを積極的に発信していきたいとしている。