ムチ・輸血拒否…「エホバの証人」の実態 2世が語る“苦しみ”とは… 【報道特番】
去年7月に起きた安倍元総理銃撃事件をきっかけに、世界平和統一家庭連合、いわゆる「統一教会」をめぐる問題が大きく報じられるようになった。その中で次第に明らかになったのが、信者を親に持ったがゆえの宗教2世たちの壮絶な体験だ。「エホバの証人」の宗教2世たちも声を上げ始めた。ムチ打ち、輸血拒否…日本テレビは「エホバの証人」を直撃した。
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“統一教会”元2世信者・小川さゆりさん(仮名)
「どうか、これからも私たち被害者がいることを忘れないでほしいです」
これまで「家庭の問題」や「宗教の問題」とされ、表に出にくかった宗教2世の苦しみ。いわゆる「統一教会」をめぐる問題が大きく報じられると、宗教団体「エホバの証人」の宗教2世たちも声を上げ始めた。
エホバの証人・元2世信者
「旧統一教会の2世(信者)と張り合いたいとか、不幸自慢をしたいわけではないんです。子どもたちへの虐待と権利侵害は、今この瞬間も行われています」
そして、家族がエホバの証人の信者である夏野ななさん(仮名)は、これまでの生活を振り返り、次のように話した。
「毎日、いつ自殺をしようか、本気で悩んでいました」
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「エホバの証人」は、1870年代にアメリカで活動を始めたキリスト教系の宗教団体だ。教団のホームページによると、信者は全世界で約870万人、日本には約21万人いるという。
宗教2世たちが相次ぎ被害を訴える中、厚生労働省は、去年12月に「宗教虐待」防止のためのガイドラインを公表。翌1月には弁護団も結成され、被害者支援に向けて動き出している。その中で最も多くの相談が寄せられたのが、信者である親に幼いころからムチで打たれるなどの虐待を受けていたという訴えだという。
弁護団
「このムチの問題について、なんとしても取り上げてほしい。このまま終わらせないでほしいというのが、ほとんどの方が一貫しておっしゃることですね」
家族が熱心な信者の夏野ななさん(仮名)は、自らの体験を次のように話した。
家族がエホバの証人信者・夏野ななさん(仮名)
「もともと私は(教義を)信じたことが一回もないので、宗教に対する怒りみたいなものが当時からずっとありました」
夏野さんはまったく信仰心がなかったが、父親からは頻繁にたたかれたという。
家族がエホバの証人信者・夏野ななさん(仮名)
「集会中に居眠りをしたり、ゴソゴソしたりすると怒られて、その場でトイレ前の廊下に連れていかれてたたかれる。集会場では手だった。自宅の時だけ革ベルト。みみず腫れになって血とかも出るので、しばらくは(傷が)残る」
さらに、夏野さんには鮮明に覚えていることがあった。
家族がエホバの証人信者・夏野ななさん(仮名)
「集会の後、雑談することを“交わり”って言うんですけど、その交わりの中で、『何を使ったら一番、子どもに効率的にダメージを与えられるか』みたいな話をしていました。日常的に」
親たちは、痛みが強ければ強いほど、子どものためになると信じこんでいたという。しかしなぜ、子どもをムチで打つのか。教団のホームページには、聖書の言葉として、こんな記述があった。
「むちを控える人は子供を憎んでいる」
「子供を愛する人は懲らしめを怠らない」
この教えについて、エホバの証人をめぐる問題に取り組む田中広太郎弁護士は次のように指摘する。
エホバの証人問題に取り組む 田中広太郎弁護士
「愛しているならムチをしなければならない。しないなら子どもを愛していないという、非常に強い周りからの圧力」
日本テレビの取材に応じた元信者の女性は、先輩信者にうながされ、息子に手をあげてしまったという。
エホバの証人の元信者
「聖書にムチで懲らしめるようにと書かれてあるので。神に従わないのは神に対する感謝がないって。その時は必死で…。神に従わせなくてはいけないって」
元信者の女性はこう信じて、息子が10歳になる頃まで続けてしまったという。
──当時の自分がやったことは虐待だと思う?
エホバの証人の元信者
「思います。本当にひどいことをした」
厚生労働省のガイドラインには、「理由のいかんにかかわらず、ムチで打つなど暴行を加えることは身体的虐待」に該当すると記されている。
教団側に取材をすると、次のような答えが返ってきた。
エホバの証人(*取材に対する回答)
「しつけとは、教え導くことです。子どもへの愛情の表れとして行われるものです。虐待したり冷淡に接したりすべきではありません。また、子どもたちを守る法律を遵守する必要があります」
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教団には他にも特徴的な教えがある。
「輸血しないで下さい」
信者はこう大きく書かれた輸血拒否のカードに署名する。過去には、輸血拒否をめぐって痛ましい出来事も起きていた。
1985年、神奈川県川崎市で10歳の男の子が交通事故で重傷を負った。搬送先の病院で緊急手術を行うことになり、輸血の準備をしていた時、駆け付けた両親が信仰を理由に輸血を拒否した。
両親が書いた『決意書』には次のように書いてあった。
「今回、私たちの息子が、たとえ死に至ることがあっても、輸血無しで、万全の治療をして下さるよう切にお願いします。輸血を受けることは、聖書にのっとって、受けることは出来ません」
そして男の子は、息を引き取った──。
田中弁護士が、輸血拒否に関して記された教団の資料を見せてくれた。
エホバの証人問題に取り組む 田中広太郎弁護士
「これはエホバの証人が用いている機関誌で、輸血を拒否して亡くなったということで、英雄のような扱い」
表紙の写真は、輸血を拒否して亡くなった子どもたち。機関誌をめくると、『少年は譲らなかった─輸血はしない!』との見出しで、自らの意思で輸血を拒否したかのように書かれていた。
去年3月に作成された教団幹部のみが見られる内部文書にも、次のように書かれている。
「輸血を強要されても、親は決して確信を弱めてはなりません」
「子どもに輸血をさせてはいけないと考えている、とはっきり告げる必要があります」
厚生労働省のガイドラインでは、治療として必要な輸血を拒否させることは、子どもへのネグレクトに該当する。
教団に見解を聞くと、次のような答えが返ってきた。
エホバの証人(*取材に対する回答)
「輸血を拒否するのは主に宗教上の理由ですが、医療上の選択は個人が行うもので、幼い子どもの場合には親が決定することです。誰も輸血を拒否するよう強制されることはありません」
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エホバの証人の信者たちが、教えを忠実に守る理由とはなんなのか。
エホバの証人問題に取り組む 田畑淳弁護士
「ごく近い将来、ハルマゲドンが起きた時には、エホバの証人以外はすべてエホバ=神に滅ぼされて、信者だけがハルマゲドンを生き残り、永遠の命を得ることができる」
教団の考える「ハルマゲドン」とは神とサタンの戦いで、すべての人は滅ぼされてしまうが、エホバの証人の信者だけは楽園で永遠の命を授かるという教えだ。教団のホームページには、街が赤く染まり、人々が逃げ惑うイラストが掲載されていた。ムチで打つ、輸血拒否。これらの教えを守るのは、ハルマゲドンを生き延びるためだというのだ。
20歳まで信仰を持っていた宗教2世の小松猛さんは、ハルマゲドンへの恐れを抱えながら教団の活動に取り組んでいたという。
──ハルマゲドンが来ると思っていた?
親がエホバの証人信者・小松猛さん
「来ると思っていました。(教団側からは)明日、終わりが来たらどうするんだと。あなたはエホバの証人の活動を第一にしてたんですかって。第一にしていないから滅ぼされたらどうするんですか、と」
厚生労働省が発表したガイドラインでは、「滅ぼされる」などの言葉で子どもを脅し、宗教活動への参加を強制するのは、心理的虐待、またはネグレクトに該当する。
小松さんは、物心ついた頃から母親に伝道活動に連れていかれた。そして、小学3、4年生になると自ら訪問先でチャイムを押して…。
「きょうは生活に役立つ聖書の話をさせていただきたくて、訪問させていただきました」
こう話をさせられていたという。小松さんは、放課後や休日のほとんどの時間をこの伝道活動に費やした。訪れた先が同級生の家だったこともある。
親がエホバの証人信者・小松猛さん
「子どもであっても、ワイシャツにネクタイをしめて七五三みたいな格好でまわりますので、それだけでも非常に奇異に映る」
熱心な信者である母親からは、訪問先では常に笑顔で相づちを打つよう言われていた。それもあってか、同級生の家を訪れた次の日は、学校に行くと、「何してたの? なんであんな格好してたの?」と、同級生にからかわれたという。
さらに、他の宗教のイベントや教団が禁じる催しには、一切、参加できなかったため、学校のクリスマス会では、小松さんは一人、図書室で過ごしていた。
親がエホバの証人信者・小松猛さん
「どんな会なのか、見てみたかったですね」
教団側を取材すると、次のような答えが返ってきた。
エホバの証人(*取材に対する回答)
「エホバの証人はハルマゲドンを引き合いに、人々を脅したりはしません。親は子どもの年齢や成熟度を考慮して、どんな資料を見せるか決める必要があります」
3月、厚生労働省は、教団幹部らへの聞き取り調査を実施。宗教による児童虐待の実態調査をさらに続けるとした。
家族がエホバの証人信者・夏野ななさん(仮名)
「厚労省のガイドラインが出された後も、エホバの証人は虐待の事実を認めず、児童虐待の問題に改善もみられない」
夏野さんたち宗教2世は、苦しむ子どもたちを支援できるよう宗教虐待についても法律に明記するよう求めている。
(4月22日放送 調査報道特番『QUESTION!みんなのギモン』より)