特集「キャッチ」自衛隊に初めて誕生したF2戦闘機の女性パイロット 高度1万メートルの空へ 福岡・築城基地
11月、福岡県築上町の航空自衛隊・築城基地で航空祭が開かれ、大空を舞台にした華麗なショーに、訪れたおよそ6万8000人が胸を躍らせました。
■訪れた人
「会えてよかったです。ありがとうございます。」
■2等空尉・水越美紗貴さん(27)
「ありがとうございます。今後もよろしくお願いします。」
サインや写真撮影を求められている女性がいました。水越美紗貴2等空尉(27)です。自衛隊発足からことしで70年目、初めて誕生したF2戦闘機の女性パイロットです。
■水越さん
「戦闘機はまだ女性が少ない状態で、自分がどこまでできるのか挑戦したいというところが、根底にある。」
水越さんはことし7月、築城基地に赴任しました。この日の出勤は午前8時前です。手慣れた様子でコーヒーを入れると、同僚たちが使う鉛筆を1本1本削ります。若手隊員の朝の日課です。
■水越さん
「とがっているほうが、小さいところに書きやすいので。」
■荻本研史3等空佐
「まあ、姿勢ですね。フライトに臨むってことで、身だしなみを整えるのと同じような意味でやっております。」
■水越さん
「おっしゃる通りです。」
水越さんが操るのは青い迷彩が特徴のF2戦闘機です。航空自衛隊でF2戦闘機を操縦できる女性は、水越さんただ1人です。
特殊なスーツなどおよそ14キロもの装備品に身を包み、訓練に臨みます。
■水越さん
「お願いします。」
■水越さん
「ツー、タリー(相手を見た)。」
■荻本さん
「(味方と敵)2機見えないと撃っていっちゃダメだぞ。」
■水越さん
「タリー、ツー、2機インサイト(味方も敵も見えている)。」
築城基地のパイロットが乗るF2の最高時速はマッハ2、音速の2倍の速さに達します。最大で9G、重力の9倍の負荷が全身を襲います。
およそ1時間に渡る過酷な訓練フライトを日夜繰り返し、技術を磨きます。
西日本の空を守る築城基地では、有事に備え、5分以内で戦闘機が離陸できる態勢を24時間とっています。
■訓練
「スクランブル!」
パイロットと航空機整備員が一斉に走り出します。不審な航空機に対応するために戦闘機が緊急発進する“スクランブル”への備えです。
昨年度の緊急発進は全国で778回です。領空侵犯の恐れや領空に入ってきた外国の航空機に対して、退去の警告などを行うのが主な任務です。
■第8飛行隊 隊長・赤川俊介2等空佐
「(自衛隊が)まずは精強な存在で、有事が起こらないように。24時間365日、空における不法行為があった際に対応できるように訓練している。」
水越さんは最近、基地の外にある官舎に引っ越しました。趣味の一つが料理です。去年、結婚したパイロットの涼太さんと食卓を囲みます。
■記者
「仕事終わったと思うタイミングは?」
■水越さん
「帰ってきてフライトスーツを脱いで、洗濯カゴにぶちこんだときですね。」
奈良県出身で、学生時代はバスケに熱中しました。パイロットに興味をもったきっかけは、高校生のとき友人に見せてもらったブルーインパルスの動画でした。
■水越さん
「美しさと危険さ、相反するようなものが混在している状態にひかれて、そこからパイロットになりたいと思った。」
それまで目指していた理学療法士への道ではなく、大学卒業後、航空自衛隊に入隊しました。4年にわたる過酷な訓練と試験を乗り越え、女性初となるF2パイロットの道を切り開きました。
■水越さん
「周りの人とは何か違うことをやってみたいっていうところも一つあったような気がする。女性第一号を目指そうと、F2戦闘機にした。」
■東 朋範2等空尉
「ひっかけて、まず1機でもいいからすぐ見ること。」
■荻本さん
「敵の位置プラス、こいつの隊形の話がくるから。こうだったらどっち狙うんだ?」
■水越さん
「こっち。」
この日の訓練は、戦闘機対戦闘機の空中戦です。何度も入念に打ち合わせを行い、フライトに移ります。
■荻本さん
「はい、レッツゴー。」
空は視界をさえぎる厚い雲に覆われ、周りの戦闘機を目視でとらえることができません。
■水越さん
「ツー、ブラインド(敵が見えない)。」
■東さん
「スリーオクロックレベル(3時方向にいる)。」
■水越さん
「見えない。」
過酷な環境下で求められるのは、訓練で培った技術と冷静な判断力です。
■荻本さん
「(敵が)いたいたいた、これこれこれ。」
■水越さん
「レーダーで敵のグループを捉えた。方位40、距離14マイル。高度4000フィート。」
■荻本さん
「撃て、撃て、撃て、撃て。もう1機いるぞ。」
パイロットの“戦場”は、海面ギリギリから、1万メートルを超える高さにまで及びます。瞬時の判断が「命」に直結する大空の世界では、一瞬の気の緩みも許されません。
■水越さん
「レーダーが全然映らなかった。」
信頼されるパイロットになるために、地上でフライトを再現できるシミュレーターを使い、課題と向き合います。
■水越さん
「これ何だと思いますか?」
■高校生
「ミサイル?」
■水越さん
「と思うやん、燃料タンク。」
この日、築城基地にインターンの高校生が訪れました。
■基地渉外室・御厨 浩 空曹長
「航空自衛隊でいうと必ず、自分がやりたい職種がどこかに絶対ある。」
およそ1500人の自衛隊員が働く築城基地では、30ほどある職種にそれぞれが配属され、基地の中はまるで小さな街です。
■高校生
「目は、よくないとダメですか?」
■水越さん
「矯正視力で1.0以上あれば大丈夫。私もいま、コンタクトつけているし。」
少子化が進むなか、自衛隊は隊員不足が大きな課題となっています。自衛官の定員はおよそ24万7000人ですが、昨年度の隊員数は22万7000人あまりで、定員を2万人下回っています。
人材確保は今後、ますます難しくなることが予想され、月に2度ほど行う学生向けの基地見学会などで、自衛隊の仕事を知ってもらうことに力を入れています。
■水越さん
「先輩方に追いつけ追い越せの気持ちで日々の訓練に臨むこと。知識も技量も身につけていくことが、パイロットを目指す子たちにもいい影響を与えるのではないか。」
自分が成長することで、パイロットを目指す若い世代にとっての道しるべになりたいと、「女性初」というプライドを胸に、操縦かんを握ります。