シリーズ『こどものミライ』 病児保育の無償化から半年 現場から悲痛な声
子育てを取り巻く環境や、子どもたちの成長を見つめるシリーズ『こどものミライ』です。福岡県では4月から、病気の子供を一時的に預けられる 病児保育の利用料が無償になりました。「使いやすくなった」という声の一方、無償化から半年がたった病児保育の現場からは、ある悲痛な声が聞こえてきています。
福岡市東区の植山小児科では朝8時半から診察を行っています。診察を終え、発熱している子どもを抱えて、母親は併設されている病児保育施設に向かいます。
病児保育とは、病中や回復期の子どもを預かる専用の施設で、事業の主体は市町村ですが、運営は小児科や保育所などが行っています。
仕事を急に休めず、近所に頼る親族がいない親の代わりに、病気で保育園に預けられない子どもの看病をします。
■保育士
「お薬飲もうね。上手!」
感染症ごとに隔離された部屋に保育士が配置され、薬を飲ませたり、体温を計ったりして子どもの体調に注意を配ります。
そんな病児保育の1日の主な利用料2000円を、福岡県はことし4月から無償にしました。病児保育を利用する親に無償化について聞きました。
■親
「仕事に行かないといけないのですごく助かります。家計的にも。」
「預けやすいですよね。そのぶん、混むんでしょうけれど。」
「利用する人が増えたからか、予約が取りにくくなった。」
■植山奈実医師
「今まで利用されなかった人も来るし、無償化になったことで使いやすくなったのかなという印象があるります。」
予約状況の変化を見せてもらいました。
■植山医師
「コロナ前は(月に)150から220くらいを推移していたが、ことし無償化になってからは200人ずっと超えている。毎日15人定員いっぱい、キャンセル待ちの人が非常に多くなっています。」
コロナ禍が明け、人流が戻ったことなどによる感染症の流行や、病児保育の無償化によって、利用者が増えているといいます。
FBSでは、福岡県内の79のすべての病児保育施設に4月以降の利用状況を尋ねるアンケートを実施し、そのうち6割の施設から回答を得ました。アンケートには病児保育の現場の悲痛な声が書かれていました。
「利用者が過去最多の人数に。」
「予約数は無償化前の3倍。」
「誰か倒れないか心配。」
「自分の体力と精神力がどこまで続くか不安です。」
アンケートによりますと、4月以降、9割以上の施設が「利用者が増えた」と回答しました。
また、利用者の増加とともに、利用のキャンセルも増えています。電話がつながる朝8時になると、立て続けにキャンセルの電話が鳴ります。
子どもの体調が朝になって改善するなどの理由で、予約を取り消すことはよくあることだといいますが、そうではないケースもあるといいます。
■植山小児科・梅川佐知子さん
「時間になっても来られない、時間になっても連絡がとれない、その間に新たにデイケアを使いたいという人が来る。キャンセルだったら入れるけど、来るか来ないか分からなくて。登録する職場にまで電話するときもある。朝すごく忙しい。」
通常の小児科の受付業務と並行して、病児保育のキャンセル対応に追われているといいます。アンケートでは「手軽に利用できるようになったからか、とりあえず予約をしてキャンセルし、忘れる人が増えてきた」「複数の施設を予約・キャンセルをして忘れる人が増えている」という現場の声が上がっていました。
利用者は前日や当日の朝までに予約しますが、利用できるかどうかの確約は、当日の朝にならないと決定しません。なんとか預け先を確保したい保護者の中には、前日に複数の施設を予約する人もいます。当日の朝、いずれかの施設で受け入れが決定した段階で、ほかの予約をキャンセルし、忘れる利用者が増えているといいます。そのため、利用したい人が利用できない状況が発生しているのです。
また、アンケートには「利用できない保護者からのクレームで保育士が精神的に疲弊している」という声もありました。
また、この小児科では予約が先着順のため、午後5時半ごろ、連日のように病院の前には予約表に名前を書くための行列ができているといいます。
■利用者
「キャンセルする人がいれば入れるかな、預け先がないと仕事にいけないので探すしかない。」
「大変ですね。場所が増えたり預けられる人数が増えたりすると助かりますね。」
一方で、保育士の確保も難しくなっています。
■植山医師
「なかなか保育士を募っても来られない。」
施設や定員数、保育士の数が増えないまま利用料が無償になったことで「需要と供給のバランスが崩れている」「見切り発車的」という指摘もありました。
福岡県は無償化の影響を調べるため、ことし4月から病児保育の利用状況を毎月調査しています。
■福岡県子育て支援課・永瀬竜太係長
「利用者が増えているのは把握している。どの地域でどのくらい足りないのかということを分析して、市町村や医療関係者と協議しながら、施設整備・定員増員などに向けて働きかけていきたい。」
多くの利用者をはじめ、病児保育施設が安心して病気の子どもに向き合えるよう、適切な利用の仕方や実情にあった環境整備が求められています。