平和記念式典で慰霊碑に納められた原爆死没者名簿に30年以上にわたって名前を記してきた女性がいます。自身も被爆者で病をかかえながら筆をとり続ける思いを取材しました。

池亀和子さん。82歳。自宅で静かに書き進めるのはこの1年間で亡くなった被爆者の名前です。34万人あまりの名が記されている原爆死没者名簿。毎年、名前が追加され、慰霊碑に納められています。池亀さんが記帳を担当したのは、ことしで35回目です。

■池亀さん
「ここまで書かせてもらったのはありがたいことです私何もできないしこれがせめての亡くなられた方への供養だと思って」

池亀さんは、被爆者でもあります。爆心地から1.5キロの広島市西区観音町付近。3歳の時でした。

■池亀さん
「なすび畑を隠れながら母が（刺さった）ガラスを取ってくれて逃げ回ったのを覚えています」

戦後は岡山県で過ごしました。そして20歳をすぎたころから広島市の職員として働きます。書道の腕をかわれ、1985年にはじめて記帳を担当。92年からは33年連続で大役を務めてきました。昼間は市の職員として働き、書くのは夜、自宅に帰ってから…。

■池亀さん
「必死で書いてましたね9時から12時くらいまで毎日100人ずつくらい書いてましたね」

■池亀さん（2000年）
「とにかく誠心誠意一生懸命まちがわないように心を込めて書くように心がけています」

■池亀さん
「多いとき3300人くらい書いてましたよそれをずっとつけたのがある」

毎年、日々記帳した人の数を記録していました。

■池亀さん
「祖母も父も母も書きました。亡くなったんだねと思いましたが、母は数えの102歳でした。みなさんにあやかりたいから長生きさせてくださいと言いながら書くようですね」

しかし今年、胃がんが見つかり記帳を進める時期にも入院を余儀なくされました。それでも病室で筆をとり続けました。先月半ばに退院し自宅で記帳を再開。筆に込めるのは今も戦争が絶えない世界に対する思いです。

■池亀さん
「なんで（戦争を）やめられないのかなって思う。こんなに広島でも犠牲者が出ているのに…」

5日、池亀さんは平和公園の国際会議場に向かいました。直前に届け出のあった被爆者の名前を最後に記帳するためです。体調がすぐれない日も多く、名前の一部は、広島市の職員に手伝ってもらいました。

■池亀さん
「入院も長かったし、日にちが迫ってくるので悔しい気持ちでいっぱいでした。なんで書けないんだろうと」

それでも、1000を超える名前を書き終えました。

■池亀さん
「安心いたしました。みなさん成仏してくださいという気持ちで書きました」

34万4306人。最後にしたためたのは名簿に記された被爆者の数です。池亀さん、35回目の記帳が終わりました。

【2024年8月6日　放送】