【特集】「やめたくても、やめられない…」「息子が家庭内窃盗」 ギャンブル依存症当事者が語る実態と家族の苦悩・広島
成人のおよそ60人に1人が症状を疑われるとされている「ギャンブル依存症」。「依存症」とは、特定の行動などを「やめたくても、やめられない」状態になってしまう脳の病気です。今回、症状に悩む当事者が取材に応じてくれました。
ギャンブル依存症に悩む男性
■ユウヤさん(仮名)
「大学には入ったんですけど、だけど1か月くらいで行けなくなっちゃって。実家に帰るってことはしないで、こっちで引きこもりながら生活していたっていうような。自転車に乗って、すごい早い時間に来て、ちょっと並んで入るっていうことをして。そういうことしてる時っていうのは「理想の自分になれてない自分」みたいなのを忘れられてるような感じがしたっすね。」
34歳のユウヤさん(仮名)が、広島市内で過ごした大学時代の思い出の大半は、ギャンブルです。
賭け事にのめりこみ、やめたくてもやめられなくなる「病」。最新の調査では、成人の1・7パーセントが「ギャンブル依存症」の疑いがあるとされています。
ギャンブルを始めたのは、親元を離れて進学した学生の頃。勉強と部活動についていけず、初めて挫折を味わったことがきっかけでした。
■ユウヤさん(仮名)
「最初の方は、ゲームセンターにいっぱい行くことで(ストレスを)発散してたんです。だけど、物足りなくなってきて、お金を賭けるっていうことをやってみたらどうだろうかって最初思ってやってみたら、とっても興奮したというか。」
ギャンブルに時間と金を費やし、大学を中退。その後、初めて借金をしました。
■ユウヤさん(仮名)
「すごく恥ずかしいっていう思いがあったんですね、借金というの。だけど(店に)入ってみたら、笑顔で「どうぞ借りてください」というような形で言われて。「あと何万円借りられますよ」っていう残高が、自分の銀行の口座のように思えてしまって。」
ギャンブルへの依存をさらに深めた出来事、それは、新型コロナウイルスでした。ギャンブル依存症が疑われる人のうち、およそ2割がコロナ禍でオンラインギャンブルの利用が増えたとしています。
■ユウヤさん(仮名)
「パチンコ屋に行ったら、コロナをもらって帰るかもしれないっていう噂が流れて。インターネットでできるギャンブルを探して。」
依存症の治療にあたる病院でも、近年、患者の傾向に変化が見られるといいます。
■呉みどりヶ丘病院公認心理師 三上博史さん
「アプリを使用したオンライン投票のもので、(相談に)来られている方が多いです。時間的な制限がない。かつ、ベットする金額って自分自身の懐次第なんで、ワンクリックって形で、タップでやれてしまうので、実際使った感覚が薄いっていうのも怖さだと思います。」
ヤミ金からも借金をするようになっていったユウヤさん(仮名)。返済に追われ、ついに、務めていた職場の金を横領しました。
■ユウヤさん(仮名)
「10年間ちょっとで抱えてた負債を1年足らずで、もう1回同じくらいの負債を抱えるくらいの、本当に急激に落ちたというか。このお金を一発賭けて、うまくいかなかったら死のう、みたいな感じで思って使いました。だけど、使い切った後も死ねない。どうしようってだけでしたね。」
依存症に苦しむのは、本人だけではありません。広島県内に暮らすマユミさんは、ギャンブル依存症の長男と暮らしています。3年半前、500万円余りの借金を突然打ち明けられました。
■マユミさん(仮名)
「まさかって感じ。うちの子に限ってって感じ。もう私が恐ろしくて、ほんと2日3日のうちに、肩代わりしてしまったんですよね、全額を。」
しかし、1か月もたたないうちに、新たに300万円を超える借金が発覚します。
■マユミさん(仮名)
「督促状って最初茶色いので来るんですけど、だんだんこれを無視してたら、黄色になったり、赤になったり、真っ青になったり、最後黒いのが来て。」
息子は次第に、家族の金にも手をつけるようになりました。
■マユミさん
「通帳とか生活費とか、(タンスにある金庫の)中に入れてるって感じです。ここ、ガジガジやった跡があるの分かります?まだ(部屋に)鍵をかける前に、金庫開けようとしたんだと思うんです、本人が。こんなにしてまでお金盗ろうと思うんだと思って。」
日に日にふさぎ込み、うつ状態になっていく息子。
■マユミさん(仮名)
「引きこもりみたいになられるのが怖いなと思って。いつから仕事行ける?とか、もう行けそう?とか、新しい仕事どうする?とか、こんなに休んでてどうやって借金返すつもり?とか、ちょっと追い詰めたことを言ってしまったから。あの子の病気を重くしたのは、私だなと思ってる。もっと早くきちんとした対応ができていたら、早く回復につなげられたかもしれないし。」
2年前、息子は突然家を出て、連絡が取れなくなりました。その頃、社会問題になっていたのが「闇バイト」で、広島市西区で強盗殺人未遂事件が起こります。SNSで集められた男たちが「ルフィ」などと名乗る指示役のもと、住人に大けがをさせ、金品を強奪しました。実行役の1人が法廷で語った動機は「ギャンブルでできた借金」で、「報酬として得たお金でヤミ金を返済し、競艇をしようと考えていた。負けた額が多すぎて、黒字にするまでやめられないという感覚に陥っていた。」と、話しました。男は、6つの事件にかかわったとして、無期懲役の判決を受けました。
■マユミさん(仮名)
「うちの子、「ルフィ」の仲間になってしまったのかしらとか、フィリピンで(指示役が)捕まってるのを見ると、うちの子も行ってるんじゃないかなとか。逆に、ヤミ金に追われてひどい目にあってるんじゃないかなとか、もうこの世にいないんじゃないかなとかも思ったし。」
しかし2023年8月、マユミさん(仮名)の息子は、突然帰ってきました。以来、共に暮らしています。
ギャンブル依存症の人が苦しむのが「偏見」です。厚労省の調査で「ギャンブル依存症は本人の責任」だと感じている人の割合は、7割以上に上ります。
2024年9月、マユミさん(仮名)らギャンブル依存症患者を家族に持つ人たちが、県議会を訪れました。行政への支援を求めるためです。
■マユミさん(仮名)
「行政の窓口なんかで相談に乗っていただける方への、ギャンブル依存症の正しい知識を持っていただけるように、研修を実施などそういったところの要望が書いてありますので、ぜひご検討ください。」
■広島県議会 中本隆志議長
「はい、わかりました。」
■マユミさん(仮名)
「まだまだ、ギャンブル依存症に対しての認識が皆さんない。世間の皆さんに知られていない。偏見が多いので、一人で悩みを抱えて、どこに相談すればいいか分からなくて苦しんでいる方って、本当にすっごくたくさんいらっしゃると思っていますね。」
依存症に苦しんだユウヤさん(仮名)は、横領が発覚して会社を辞めた時から、ギャンブルを絶っています。今は、当事者の前で自らの体験を語っています。
■ユウヤさん(仮名)
「誰にも理解してもらえないし、自分はこの世の中で一番悪いやつなんだと思っていたので。」
ギャンブルから離れてまもなく2年。同じように悩む人を支援する側です。
■ギャンブル依存症患者
「結局、会社のお金を横領して。20万円くらい。全部使ってしまったんですね。」
■ユウヤさん(仮名)
「僕も同じようなことをしましたね。最初10万円から盗って、親に立て替えてもらってっていうのを、3回くらい繰り返した後に、最後誰にも言えなくなって。」
■ギャンブル依存症患者
「病院ってどんな治療?お薬とか飲むんですか?」
■ユウヤさん(仮名)
「いや飲まないですね。毎日ミーティングに出る感じですかね。入院中に僕は、破産手続きしたんです。」
10代後半から30代の初めまで、ギャンブル漬けの日々を過ごしたユウヤさん(仮名)。
■ユウヤさん(仮名)
「ちゃんと自分が依存症だって分かって、病院に行ってっていうふうに対処ができたのであれば、もっと違った結末になっていたのかなというふうには思います。誰でもなる病気だけど、誰でも回復できる病気でもあるっていうことを、知っておいてほしいなと思います。」
パチンコと公営ギャンブルの市場規模をあわせると、年間33兆円を超える日本。依存症になるきっかけが身近にある一方、社会の支援は十分とは言えません。同時に、周囲が「病気」として、正しい理解をすることも求められています。
ギャンブルは、「自分の強い意志があれば辞められる」「家族が説得すれば辞められる」と思われがちですが、適切な対応が必要です。現在、ギャンブル依存症に悩んでいる場合は、「自助グループ」という当事者同士で体験を共有し、分かち合う場に参加するのが回復につながると言われています。ギャンブル依存症本人は「GA=ギャンブラーズ・アノニマス」、その家族は「ギャマノン」というグループがあり、インターネットで検索すると広島の開催場所、時間などが確認できます。この他、支援団体や依存症治療を専門にした病院、県や市の精神保健福祉センターなどでも相談を受けられます。一人で悩まず、まずは相談をしてみてください。
【テレビ派 2024年11月27日放送】