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ソーラーパネル"20万枚"が世界遺産目指す阿蘇に 景観の課題への対応は

2024年9月17日 20:56
ソーラーパネル"20万枚"が世界遺産目指す阿蘇に 景観の課題への対応は
ソーラーパネル

広大な草原が広がる阿蘇。そんななか、山都町の阿蘇外輪山の南側に突如現われたのは…大量のソーラーパネルです。東京の再生可能エネルギー会社が手がける発電施設で、約119ヘクタールの敷地に、ソーラーパネル約20万枚が敷き詰められています。

隣接する高森町の施設とあわせた年間の発電量は、約3万9000世帯分で九州最大級です。
実はこの場所、かつては畑を耕す牛や馬など300頭近くを放牧する草原でした。

草原を管理していた牧野組合の元組合長・森田勝さん。

■森田勝さん
「草原を手放したのは、今から5~6年前だったですね。その時は15~16年放牧はなかった」

農業の機械化により、放牧する牛や馬の数は次第に減少。放牧は行われなくなりました。
その結果、草原は荒れ、高齢化した組合員では、安全に野焼きを行うことが難しくなったといいます。

■森田勝さん
「(草が残っているが背が高い)これが今現在130~40cm穂が出ると2m50近くなる。茅が野焼きをしないと全面に広がって、2m50、3mの茅に火をつけろと言っても厳しい」

そんな時に舞い込んできたのが、太陽光発電施設の建設でした。

組合員との話し合いの結果、草原を手放す決断をしました。
組合員の高齢化や減少という課題に向き合う中、野焼きを継続することは大きな負担となっていたのです。

■森田勝さん
「皆さんが言うように売買して良かったと思っている。今は野焼きもできないし、管理できない。年の恵みと皆さん言うが、なかなか一言では話ができない苦労をしていた。県民が『野焼きがあるぞボランティアで少しでも』と協力しないと阿蘇の牧野組合だけでは原野は守っていけない」

資源エネルギー庁によりますと、阿蘇地域の7つの市町村と隣接する山都町・大津町では、2013年以降、39件の大規模太陽光発電施設が運転を始めました。

なかには観光スポットから発電施設が見えるケースもあり、景観の保全が課題となっています。

このため世界文化遺産への登録を目指す県や市町村は、景観を守ろうと、去年2月にガイドラインを策定。

太陽光発電施設について、草原には原則設置しないことや主要な展望地から見える場所への設置を避けることなどを明記しました。

阿蘇くじゅう国立公園を管理する環境省も動き出しました。

■環境省 阿蘇くじゅう国立公園管理事務所 笠原綾所長
「(草原を)維持するためにどの規制のレベルが望ましいか考えたり、あるいは絶対に景色を変えてはいけないところは、強い規制をしたりということをグラデーションを付けながらやっている」

阿蘇地域などの5万4000ヘクタールに及ぶ阿蘇くじゅう国立公園。
環境省は、公園内であれば自然公園法に基づいて開発を抑制できるとして、公園の区域の拡大を検討しています。
そのうえで太陽光発電施設などの開発行為をより厳しく規制できる「特別地域」を公園内に増やしたいとしています。

■環境省 阿蘇くじゅう国立公園管理事務所 岩﨑辰也さん
「いま国立公園外にも公園を形成する草原景観があるので、草原があるところを拡張しようと手続きを進めているところ。牧野の同意が得られているところは普通地域から特別地域への格上げの調整も進めている」

「美しい景観を次世代に残したい」地道な取り組みが続いています。


【スタジオ】
(緒方太郎キャスター)
国立公園の区域を広げるなど開発行為を抑制しようと動き出した国や県。その一方で「再生可能エネルギー」は温室効果ガスの排出が少ないなどメリットも多く、推進されている一面もあります。

(畑中香保里キャスター)
VTRにありました太陽光発電施設を手がける会社は、「パネルの周りに林を整備し、視界に入らないよう配慮している。地域や自治体とコミュニケーションを取りながら事業を推進している」と話しています。

(緒方太郎キャスター)
再生可能エネルギーの普及と阿蘇の景観の維持という問題。さらには、阿蘇の草原を守るために地元の方々が長年続けられてきた「野焼き」の文化をいかに守っていくのか。
世界文化遺産の登録に向けては、向き合っていかなければならない課題が多いと感じました。

熊本県民テレビのニュース