復興のカギを握る”観光業”の復活は…一歩を踏み出した和倉温泉のいま
全国でも有数の観光地、七尾市の和倉温泉。
観光業の要となる街の復興は能登半島全体の復興に欠かせません。復旧への歩みといま直面する課題を取材しました。
震災から半年。観光客でにぎわっていた和倉温泉は、今も閑散としています。
この街が復興に向かうために何より重要なのが、“温泉”です。
源泉は1月中旬に出たものの、各旅館へつなぐパイプが損傷したため、温泉が出るのは、総湯と5軒の旅館のみ。そのほかの旅館ではお湯が来る日を待っている状況です。
和倉温泉 はまづる・高城一博専務
「温泉が和倉温泉の経済を支えている第一歩なんですけど、まずはお湯が出ないともうどうしようもない状態だったのできょう出ると聞いてわくわくしています」
6番目に温泉を引くことになった「はまづる」。この日、朝7時に配管工事が始まりました。
新しいパイプを取り付け、お湯を通そうとしますが…
「開ける?出とるぞ」「止めるわお湯ジャージャーだ」
お湯が漏れるトラブルで工事は予定よりも大幅に遅れることに。
和倉温泉 はまづる・高城一博専務:
「ここまでくるのに半年かかったしちょっと肩透かし食らったけどやっぱり館内のお風呂場からお湯が出るのが待ち遠しいですね」
工事開始からおよそ10時間後。ようやく温泉が開通しました。
あとは浴槽まで届くのを待つのみ。ですが…
和倉温泉 はまづる・高城一博専務
「まだ出てないですね」
ポンプがうまく機能していないのか、なかなかお湯が出てきません。外にあるポンプを確認するため何度も浴槽と行ったり来たりする高城さん。
作業開始からおよそ11時間。ついに…。
「きた!出ました!すごいいきおいで出てる」
温泉が勢いよく出てきました。空っぽだった浴槽に、半年ぶりにお湯が張られます。
「まだ一般のお客さんは入れられないんですけど温泉が出たというのは復興につながると思うので、今まで入れなかった復旧事業者さんにようやくお風呂に入ってもらえるのでものすごくうれしいです」
“一番風呂”に入ったのは、愛知県からボランティアに来た宿泊客の男性。
「最高ですね。まさかここで入れるとは思いませんでした」
高城さんは、準備が整えば一般の日帰り入浴も受け入れたいと考えています。
和倉温泉 はまづる・高城一博専務
「和倉温泉に勤めだしたときは正直これ(お湯が出ること)が当たり前の状態だったので感動とか全くなかったけど、地震があって半年間止まって楽しみにしている人がたくさんいることがわかってようやく出て感無量ですね」
少しずつ、湯けむりが戻ってきた和倉温泉。
そんななか、復旧の課題となっているのが“護岸”です。
地震により、およそ3キロある海岸線の大部分で、護岸が倒れたり傾いたりしました。
この日行われたのは、護岸の復旧工事に向けて地盤の状況を調べるためのボーリング調査です。その様子を見守るのが、「美湾荘」の若女将、多田(ただ)さん。
ゆけむりの宿 美湾荘・多田直未 若女将
「何をするにしても第一番目にやらないといけないところが護岸でしてこれをやらないと次からの工事ができないところもたくさんある」
和倉温泉の目玉は、“海の近さ”。和倉湾のオーシャンビューを楽しめるようにと多くの旅館が海べりに建っています。
「美湾荘」でも、すべての部屋から海が望めましたが、護岸が崩れたことで旅館再建の大きな壁となっています。
「一部解体をしなくてはいけないそこからすぐに建てたとしても元の大きさには戻せない3年くらいはみておかないと難しいのかなと思っています。工事をしている感じが初めて感じられるのでこれをきっかけに少しずつ進んでいけばいいなと思う」
そんななか、この日やってきたのは関東地方からのツアー客。
観光目的ではなく、被災地の現状を知るためのツアーです。震災後、初めて開催され、9人が参加しました。
参加者
「昔能登に行ってその後どうなったのかというのもあったし」
「多少は興味あるよね」
「観光が復活する日常の生活が戻るのが一番かなと思って」
滞在時間は40分ほどと短い時間でしたが…
ゆけむりの宿 美湾荘・多田直未若女将:
「誰にも全然踏み入れてもらえないとか忘れられちゃうのが一番悲しいですからね。やっぱり「いらっしゃいませ」と言っているのが一番好きだなと思いました。本当にうれしい」
観光客を迎える一歩を踏み出した和倉温泉。
しかし、本当の意味での“おもてなし”ができるようになるには、まだ長い時間がかかりそうです。