親から受け継いだ家業を時代に沿った “令和スタイル”に「アトツギ」が見据える事業継承の未来《長崎》
家業を親から受け継ぎ、さらなる発展を目指す県内の経営者たちを取材しました。
時代に合わせた新規事業などに取り組む “アトツギ” たちが見据える未来とは。
1936年創業。
佐世保市で最も古いタクシー会社「佐世保タクシー」。
(佐世保タクシー 円田 真社長(42))
「私で4代目になる」
2011年に28歳で社長に就任した円田 真さん。
大学を卒業後、東京の会社でシステムエンジニアとして働いていましたが、先代の社長である父・治さんが亡くなったことから家業を継ぎました。
(佐世保タクシー 円田 真社長)
「当時、タクシー業界の市場自体がどんどん小さくなっている中で、より効率的に業務を行っていくかが課題だった」
就任後に進めた改革の1つが、デジタルトランスフォーメーション=DX化の推進です。
タクシーの運用管理などを行う「業務システム」は、従来 ソフトウェア会社などに発注していましたが、高額な費用などの様々な問題点がありました。
(佐世保タクシー 円田 真社長)
「長年のベテランが病気で休むとか退職するとかのタイミングで、業務が止まってしまい、社内で混乱が起きていた」
円田さんはエンジニアの経験をいかして、システムを開発。
車両の運行管理などをクラウド上で行うようになり、大幅な経費削減に成功しました。
さらに開発したシステムは、県内外のタクシー会社12社に販売し、収益にもつながっています。
(佐世保タクシー 円田 真社長)
「当時からしたら全社員が僕の先輩。ひとつ一つ教えてもらうこともありながら、問題だと思ったことは変えてきた。僕の代で(会社を)途切れさせるわけにはいかない。よりよい状態で次の世代に継いでいきたい」
中小企業が9割を占めるという県内において、課題となっているのが「事業承継」。
帝国データバンクによりますと、県内企業の “後継者不在率は59.6%” と、全国平均を上回っています。
そんな中、円田さんのように、家業をさらなる成長に導く若手経営者を育ようと、県が今年度からスタートさせたのが「アトツギ向け伴走支援プログラム」通称=「CORGI」。
「共に」の「co」「独創的」の「original」の略で、船を「漕ぎ出す」という意味も込められています。
(県経営支援課 鬼崎 巧 主任主事)
「CORGIの中で出てきたアイデアが、事業に結びついて結果が出ていくことで、事業承継が早く進んだり、雇用の拡大とか地域にとっても好循環がうまれていけば」
今年度 採択されたのは、すでに会社を継いでいる人とこれから継ぐ予定の人、合わせて13人。
先月開かれた1泊2日のキックオフ合宿が、初めての顔合わせとなりました。
(小柳畳商店 小柳竜士さん)
「150年くらい続いていて地域に根付いてきた畳屋だけど、どう生活になじませるか日々考えている」
(酒の一斗 池野 辰太郎さん)
「酒屋として、地域をどう盛り上げていけるかを意識している」
(兼子漁具 兼子修治さん(32))
「関東で就職して関西に転勤して、もともと帰ってくるつもりは全くなかった」
参加者の1人、兼子 修治さん 32歳。
釣り具や漁師用の漁具を販売する長崎市にある「兼子漁具」の4代目となる予定です。
ソフトボールに打ち込むため、群馬県の中学校に進学。
そのまま関東や関西などで暮らしていましたが…。
(兼子漁具 兼子修治さん)
「人生の半分以上は長崎の外で生活しているので、戻ってくる場所としては最初は考えていなかったけれど、父から『帰ってきてほしい』と言われた」
去年春にUターン。
店舗での販売や営業を担当するほか、新規事業の開発にも取り組んでいます。
中でも力を入れているのが、海洋ごみに関する取り組みです。
(兼子漁具 兼子修治さん)
「発泡スチロールの浮きが砕けて落ちている。軽いので、すぐに海に飛ばされる」
世界中で1億5000万トン以上が存在するという、海洋プラスチックごみ。
海に関わる会社を継ぐ上で、避けては通れない問題であると知ったことから、海岸で拾ったプラスチックごみを再利用したアクセサリーの制作を今年春から始めました。
兼子漁具の店舗のほか、佐世保市の「海きらら」などでも販売しています。
事業をさらに展開させるため、知識や情報を得たいと「CORGI」に参加しました。
(兼子漁具 兼子修治さん)
「まだ帰ってきて1年くらいだから、いろんな方とつながって情報収集して、僕がやりたいことを形作っていきたいという思いがあって(参加した)」
11月に行われた「CORGI」の中間発表会。
参加メンバーがワークショップなどを通して考えた事業プランを発表し、“先輩アトツギ” などからアドバイスを受けます。
兼子さんは、海洋ごみを活用した新規事業を発表。
プラスチックごみを固め、様々なものに加工しやすい「プラスチックの板」にして販売するというものです。
(兼子漁具 兼子修治さん)
「ごみを調達して消費するまでの一連の流れを作り出すことを『長崎モデル』として、県外や国外に発信していきたい。
プラスチック合板さえ作ってしまえば、建材にも使えるし家具にもできる。海洋ごみに関して考える機会が増える」
(一般社団法人ベンチャー型事業継承 山岸 勇太 事務局長)
「(ごみの)集め方が解決しないと、海にごみが漂い続けるのでは」
(兼子漁具 兼子修治さん)
「対馬市は約3億円の予算を国からもらって、海洋ごみ7000袋を回収している。資金をどう調達して人を動かせるかが、一番の課題。
僕がやりたいことの情報はある程度集まってきたので、今後集まってきた情報をどういうふうに凝縮して形作るか。
3月にもう1回発表があるので、そこまでにしっかり形作りたい」
家業が培ってきた経営資源をいかし、新たなステップへ。
世代交代をきっかけに、さらなる飛躍を目指して “アトツギ” たちが挑みます。
【NIB news every. 2024年11月20日放送より】