【特集】泳げないカバと飼育員の愛情物語 日本初の人工哺育で育ったカバのモモ30歳に《長崎》
日本初の人工哺育で育ち、“泳げないカバ” として全国的に有名になったカバのモモが、3月6日、30歳の誕生日を迎えました。
生まれて6時間後には瀕死の状態だったモモも、人間で例えると「還暦」の60歳。
親として寄り添って来た飼育員 伊藤雅男さんとの愛情に満ちた30年を振り返ります。
▼陸上で生まれたカバ
今から30年前の1994年3月6日、モモが生まれたのは、長崎バイオパークのカバ池でした。
本来、カバは水中で出産し、お乳を与えます。
ですが、この日は水が冷たく、生まれたばかりのモモを心配したのか、母カバは陸上で出産しました。
沼地だったので、思うように身動きが取れないモモ。
お乳も飲めず、次第に寒さで衰弱していきました。
“このままでは、死んでしまうかもしれない”
飼育担当の伊藤雅男さんは、母カバに代わってモモを育てることを決意しました。
▼日本初!カバの人工哺育に挑戦する飼育員
温かい湯で冷えた体を温め続け、近所の牧場から取り寄せた新鮮なミルクを与えます。
24時間、モモの命をつなぐ日々。
カバの子どもを育てるのは、日本で初めての挑戦。
参考にできる資料はほとんどありません。
生まれて2か月。徐々に元気になったモモですが、伊藤さんにはひとつ 気になることが。
池などない場所で生活しているモモが、果たして泳げるのか?
▼水を怖がる「泳げないカバ」
園内の池にモモを連れ出した伊藤さん。
一緒に池に入ろうとすると、悪い予感は的中。
モモは水を怖がり、泳ごうとしません。
この日から、人がカバに泳ぎを教える"水泳特訓”が始まりました。
モモを抱いた手をそーっと離すと、うまく泳げず、溺れそうにも見えます。
その姿はテレビなどに何度も取り上げられ、モモはいつしか「泳げないカバ」として全国の人に知られるようになりました。
(当時の飼育担当 伊藤雅男さん)
「鼻と目と耳まで、頭出しながら泳ぐのがカバだけど、モモは・・・」
特訓は3か月続き、モモができるようになったのは、バタフライのような泳ぎでした。
愛情たっぷり育てられ、すくすく成長していくモモ。
伊藤さんのそばを離れようとしません。
(伊藤雅男さん)
「調子に乗ると、こうやって甘噛みしてくる。ただ、じゃれてきているわりには身体が大きいから、これから体力勝負」
親に甘えたいさかりで、寂しがり屋。
でも、人に慣れすぎるのもよくないと、伊藤さんは少しずつ、一緒にいる時間を減らしていきます。
モモの親になってから、ずっと頭の中にあること。
"親カバの住むカバ池へいつか帰してあげたい”。