住宅リフォーム需要「増」なのに…大工の数「減」 “なり手不足” が深刻化 技術の伝承も急務《長崎》
住宅の建設に欠かせない「大工」不足について考えます。
国の調査によりますと、1980年代は全国に約93万人いた大工ですが、その数というのはこの40年間右肩下がりで、2020年には3分の1以下の29万人あまりとなっています。
特に目立つのが “若い人のなり手” の不足です。
2020年現在、60歳以上の大工が全体の43%いる半面、30歳未満の大工は全体の7%にとどまっています。
人口減少もありますが “なり手が集まらない理由” として、慢性的な長時間労働や、不安定な雇用環境などがあげられるそうです。
人材確保のため、業界では新たな取り組みが進んでいます。
福岡県大川市の1戸建て住宅。
大規模な改修工事「リフォーム」が進められていました。
(大工 立石 龍太さん)
「“和の造り” だったが、“洋の造り” に変えて。(もとは)リビングに柱がいっぱい立っていたが、それを広いリビングにしたいというので柱を取った」
立石 龍太さん 37歳は、この現場の施工を統括する責任者=「棟梁」です。
大村市を拠点に、年間6件ほどのリフォーム工事を請け負っていて、その現場は九州一円に及びます。
大工の中では “若手” に入るという立石さん。
(大工 立石 龍太さん)
「私と同じくらいの年代の大工はそうそういない。修業期間が長かったり朝(早く)夜も遅かったりする。結構、厳しい職業ではあるので少ないのかも」
建設業界全体で続く成り手不足。
特に、木造住宅の建築や修理をする「大工」の数が大幅に減っていて「若手の育成」が喫緊の課題とされています。
創業104年、諫早市にある「石橋工務店」。
(石橋工務店 石橋光成 社長)
「マンション自体は鉄筋コンクリートでも、その中の床を作る、家具や天井を作っていくには、やはり大工が必要」
石橋 光成社長は、戸建て住宅だけでなくマンションでも、建物の老朽化に伴うリフォームの需要が高まっていて「大工の需要」も増えていると話します。
石橋工務店では 若手の希望者を毎年募り、“社員” として大工を育成。
そのノウハウをいかし、2020年にはドイツから若手の職人を受け入れ、修復の技を教えました。
その後もドイツから修行に訪れる若者が続き、会社にとっても大きな刺激となっています。
(石橋工務店 石橋光成 社長)
「社員大工を大事しながら、毎年(人材を)確保しながらということで」
技術の伝承というのは なかなか今の時代は難しいが、
日本には素晴らしい “建築技術” があるので、(ドイツから来る人にも)少しでも知ってほしい」
求められる大工が、働きやすい環境。
住宅のリフォーム商品を全国で展開する「住友不動産」では…。
(住友不動産長崎・佐賀営業所 松崎紀丈 統括所長)
「どうしても高齢化していくと、身体に衰えが出てきて重たいものを持ちにくくなったり、危険な作業をしづらくなったりするので、若返りしないといけないと感じている」
大工を確保するため、以前から導入しているのが『専属棟梁制』です。
大工は従来、個人で仕事を請け負うことがほとんどでしたが、受注がない期間は収入がなくなるという不安も。
住友不動産と専属で契約することで、会社が受注した仕事が切れ目なく発注されるため、大工側も安定した収入を得ることができます。
住友不動産から高い評価を受けた「専属棟梁」は、全国に480人あまりいて、専門的な技術が求められる業界でその品質を支えています。
(住友不動産長崎・佐賀営業所 松崎紀丈 統括所長)
「通常は棟梁や大工が自分で受ける時に、依頼があったらそこに出向いて確認して、それから見積り作ってという形で時間がとられる。
その間は仕事ができないので、その分を当社が受注をしっかりとってきて、棟梁には現場で仕事をしっかりしてもらう」
3年前から「専属棟梁」として働く大村市の立石 龍太さん。
この日、リフォーム工事の現場のある福岡県に向かうため、早朝に自宅を出発しました。
リフォームは もとの設計を把握した上で必要な補強を検討するため、新築住宅の工事より、大工の腕が問われるといいます。
(大工 立石 龍太さん)
「新築みたいにまっすぐ柱が立っていなかったり、床が少し下がり気味になっていたりするのを調整していくのが一番難しい」
建築から30年の大川市のこの住宅では、押し入れの左右で奥行きが異なるなど、建物に “ズレ” が生じていました。
(大工 立石 龍太さん)
「(奥行きが)2センチくらい違う。壁がまっすぐならいいけど少し斜めになっているのでそういうところを調整している」
父親も専属棟梁として長年働いていて、立石さんは10年間の修行を経て、4年前に独立。
大村で自らの建築会社も設立し、2人の若手大工を社員として雇っています。
父から学んだ大工の技術を、さらに若い世代に伝えようと奮闘する立石さん。
(大工 立石 龍太さん)
「自分が覚えるよりも他人に教えるほうが難しい。技術も教えていきながら、和気あいあいとできるような会社に出来たらいい。親父みたいになれるように精進していきたい」
“日本伝統の家づくりの技”。
次の世代にどう受け継いでいくか、建築業界全体の新たな取り組みが求められています。