切れ味良く長持ち『蚊焼包丁』インバウンド戦略で世界発信目指す 病乗り越え親子で挑戦《長崎》
県の伝統的工芸品『蚊焼包丁』。
存続の危機にある包丁を守り継ごうと、職人の親子が奮闘しています。
病を乗り越え、新たな挑戦を始めました。
丹精を込めて…。
入念にゆっくりと時間をかけ、角を滑らかに。
こだわりは、持ち手の指が触れる “アゴ” と呼ばれる部分の曲線です。
(桑原鍛冶工房3代目 桑原 和久代表(59))
「アゴの部分。(指が)斜めになってもフィットするやろ。痛くないやろ。
それが特徴。桑原鍛冶工房の…。
どんな人にでも1本、合う包丁がある」
一人ひとりの客の要望に合わせて作るのが『蚊焼包丁』です。
1923年創業、100年以上の歴史を持つ長崎市蚊焼町の「桑原鍛冶工房」。
3代目の桑原 和久さん59歳は、この道40年の職人です。
(3代目 桑原 和久代表(59))
「桑原鍛冶工房の包丁は長持ちする。10年間持つと(いわれた)、人には言えない技。自分の脳で取得した技を持っている」
『蚊焼包丁』は、県の伝統的工芸品に指定されています。
戦後の最盛期には、約30軒の工房が軒を連ねていましたが、現在は桑原さんの工房を含め、2軒だけです。
(3代目 桑原 和久代表(59))
「蚊焼の水と土で弾力性、何回も何回も叩いて、欠けない強さ粘りの強さ(が出る)」
“一人ひとりに合わせた 世界に1本だけの包丁を届けたい”。
その思いで、包丁づくりに打ち込んできました。
しかし2018年、桑原さんを病が襲います。
脳梗塞でした。
半年間の入院生活を終え無事に退院しましたが、利き手である右手には麻痺が残りました。
(3代目 桑原 和久代表(59))
「続けないと潰れるでしょ。半年間はその(不安な)状態。しばらくしてから考えて、やらないといけないという考えになった」
伝統を絶やしたくないと、工房に戻ることを決めました。
研磨や仕上げなど 片手でできる作業はありましたが、力が必要な作業だけはどうしても1人ではうまくいきません。
そんな桑原さんの姿を見て 力になりたいと寄り添ったのは、長男の拡大さん(28)でした。
理学療法士として働く傍ら、仕事終わりや休日には父が待つ工房へ。
(3代目 桑原 和久代表(59))
「持った時に(くぼみが)深すぎる。このくらい。2~3ミリくらい」
(長男 拡大さん(28))
「ここが空く(包丁の間隔が広い)から使いやすい。千切りの時とか」
拡大さんが担うのは、”鍛造” (たんぞう)。
長さ15センチほどの鉄と鋼の板を、熱して、叩いて、伸ばす。
この作業を繰り返すことで包丁の形にしていく重要な工程です。
(長男 拡大さん(28))
「基本すべて両手(が必要)。機械を使うので、力が強かったり微調整とか。するか、しないか、迷ったというよりは体が勝手に動いて、父の復活を待っていた流れ」
“4代目” として、父と共に工房に立つ 拡大さん。若い視点を生かし、SNSでの発信も始めました。
工房での作業風景や、包丁の切れ味の良さなどを動画で紹介し、認知度アップを目指しています。
(長男 拡大さん(28))
「携わっていくにつれて、どんどん蚊焼包丁の歴史だったり、日本の刃物の文化のすごさを改めて感じて。
伝統をつなげて、残していきたいと思うようになった」
(旅行会社)
「こんにちは」
工房が去年から始めたのが、外国人観光客の “包丁づくり体験” の受け入れです。
この日 訪れたのは、カナダの旅行会社のプランナー。
欧米の富裕層向けの体験型旅行プランを作成するための視察です。
(3代目 桑原 和久代表(59))
「こういうふうにたたき終わった包丁が、(研磨をすると)こうなる」
(カナダの旅行会社 アレックスさん)
「とてもきれいになって、完成したものと同じに見えますね。
日本の刃物の魅力を知っている海外の人も多いので、これを求めてまた日本に来たいという人も多いと思う」
海外へのPRは、長崎国際コンベンション協会がサポートしています。
(長崎国際観光コンベンション協会 坂井桂馬チーフ)
「長崎でいうと平和都市というイメージは(海外の観光客に)あるが、次にどういうまちかが伝わっていない部分があるので、地域の事業者が持っているものや眠っている素材を掘り起こしながら、心に残るような体験を提供していくことを準備していかなければならない」
存続の危機を乗り越え、新たな一歩を踏み出した鍛冶工房。
伝統の技を未来へつなぐために。
親子二人三脚で、こだわりの包丁に命を吹き込みます。
(長男 拡大さん(28))
「父には父にしかできないやり方があって。
僕にも僕にしかできないやり方をやりながら見つけて、日本の刃物『蚊焼包丁』の素晴らしさを伝えたい」
(3代目 桑原 和久代表(59))
「少しでも作れて、少しでも売って、息子と一緒にやっていければいい。
桑原鍛冶工房が世界に通用すること、世界に羽ばたいていけるようにやっていけたらいい」
『蚊焼包丁』は、江戸時代の刀匠が “蚊焼の土” と “水” を使って刃物をつくる文化と、“西洋の南蛮刀の技術” がまじりあってできたのが始まりとされていて「桑原鍛冶工房」では、外国人観光客に向けて包丁作り体験とあわせて、歴史や文化、伝統を伝える取り組みを行っています。
これらの活動は、長崎国際観光コンベンション協会が手がける「長崎市サステナブルツーリズム」の一環で行っていて「一人でも多くの海外の方に、長崎を訪れる価値を体感してほしい」としています。