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最大20分早く津波を観測 南海トラフ巨大地震から命を守る海底工事

2023年11月18日 12:00
最大20分早く津波を観測 南海トラフ巨大地震から命を守る海底工事
ケーブル敷設船での作業の様子

南海トラフで発生した地震による津波をこれまでより最大20分早く観測できる設備の工事が四国沖で行われています。地震発生からわずかな避難時間しかない高知県や愛媛県南予などの住民の命を守る切り札となるのでしょうか。

総延長1650km 海底に設置する36の観測装置

10月25日、高知県室戸市の室戸ジオパークで行われていたのは、敷地内に掘られた穴からケーブルをゆっくりウインチを使って引っ張り上げる作業です。

時には作業を止めながら、海上にいる作業員と無線で連携しながら、ケーブルを傷めないよう慎重に進めていきます。

これは防災科学技術研究所(茨城県つくば市)が設置を進めているN-net(エヌネット)=南海トラフ海底地震津波観測網の設置工事。
1㎞沖合に停泊したケーブル敷設船からケーブルを海に下ろし、それを地下の管路を通して地上に上げているのです。

このN-netは四国沖、高知県室戸市から宮崎県串間市の沖合の海底に36の地震や津波の観測装置を設置し、その間を海底ケーブルでつなぎます。海底の中でも沖合側と沿岸側の2つのシステムがあり、ケーブルの総延長は約1650km。ケーブル敷設船を使って海底に設置していきます。

すでに東日本の太平洋側にはS-net、西日本の太平洋側にはDONETと呼ばれる海底観測網などが整備されていて、この高知県沖から日向灘の領域は唯一の空白域とされていました。工事が順調に進めば2025年度から運用が始まります。

最大20分早く津波を観測!命を守る情報となるのか

観測装置には水圧の変化を元に津波を観測する津波計と、強い揺れと微弱な揺れを感知する2種類の地震計が入っていて、地上で観測するよりも早く現象を検知します。

「より震源の近くで観測をすることで緊急地震速報が早く出せたり、何メートルの津波が起こったのかを早く知ることができ、地震や津波から身を守るための時間が確保できる」

このプロジェクトを中心となって担当している防災科学技術研究所地震津波火山ネットワークセンターの青井真センター長はN-netの意義をこう語ります。

海で発生した地震では地上よりも観測装置が震源に近くなるため、地震動はこれまでより最大20秒早く検知、津波は最大20分早く検知できるという計算です。

これらのデータは気象庁や研究機関にリアルタイムで共有されるため、緊急地震速報をより早く発表することができるほか、津波の予測をより早く、正確に行うことに貢献できるとされています。

特に高知県や徳島県、愛媛県南予は津波到達までの時間が極めて短く、1分1秒の判断が命を左右します。

身を守る時間が長くなるだけでなく、津波が実際に来ていることを地上で観測するよりも早く知らせることができれば、避難を決断する説得力にもなり、躊躇する人の背中を後押しするかもしれません。

また、観測装置には微弱な揺れを観測する地震計も設置されていて、この海域での地震現象の解明にも貢献することが期待されます。

もし東日本大震災が発生したときに、三陸沖に海底観測網があったらどうなっていたのか。

青井さんによると事後の解析やシミュレーションなどから、巨大な津波の襲来を15分から20分早く知ることができていたということで、その事実を知らせることでより多くの人を救えていた可能性があるとしています。

南海トラフ巨大地震がいつ起こるのか、今の科学では知りうることができませんが、発生する前に観測をスタートさせることで、未来の命を救う一助となるかもしれません。

しかし、青井さんは、こう付け加えます。

「どんなに科学が進歩して、新しい情報が出るようになったからといって助かるわけではない。 最後、自分の命を救うためには避難するということを本人が決断をして、実際に避難をしなければならない。避難を判断するのはみなさん自身だ」

地震や津波だけでなく、水害でも同じことが言えますが様々な災害を経て、情報や科学は新しくなっていきます。しかし、避難をするかしないかを決めるのは当事者であることは今後も変わることはないでしょう。必要なのは、様々な情報をどのように読み解き、どのような行動をするのか。災害が起こっていない平時でも関心を持って備えていくことなのかもしれません。

南海放送 解説委員 白石紘一

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