中国抜き世界一の人口大国に…“巨象”インドに活路を見出せるか!?愛媛の人材獲得戦略は?訪印のミッション団に密着
松岡キャスター:
「インド南部の都市、チェンナイに来ています。こうして道路脇に立っていますと、車やバイクが絶え間なく行き交い、途切れることなくクラクションの音が鳴り響いていて、この国の持つ熱量を感じます。きょうはここ、インドの地から、愛媛に生きる私たちが未来を生き抜くヒントを探ります」
著しい経済成長で拡大するインドの「中間層」一家の暮らしぶりは
インド南部、タミルナドゥ州に住むサクティ・マノジさん、43歳。
マノジさん:
「ここは1階で私の家は7階。エレベーターで行きましょう」
松岡キャスター:
「あっここですね。靴を脱いで入るんですね」
かつて日本で6年半システムエンジニアとして働き、現在はインドでITコンサルティングの会社の社長を務めています。一家5人で暮らすのは、2か月前に完成したばかりの新築マンション。2LDKの住まいを1000万ルピー、日本円に換算するとおよそ1800万円で購入しました。
マノジさん:
「私たちが予約したのは3年前ですけど、今同じアパートを予約したら2倍になります。もっと高くなりました」
銀行でITエンジニアとして働く妻のレヌカさん。アフターコロナの人材獲得競争の恩恵を受け、給料はコロナ前に比べて1.5倍になったと言います。
子どもたちの最近の興味はと言うと…
長男カール・ムギル君(13):
「呪術廻戦。はじめの一歩」
そう、日本のアニメが大好きです。
グローバルサウスの雄として著しい経済発展を遂げるインド。その成長をけん引するのがマノジさんのような中間層です。
マノジさん:
「(春に)選挙があるので、モディ首相が続投出来たらもっと良くなると思います。経済政策を続けていくと思いますね。インドの経済が上がると思います」
日本・ドイツを抜いて世界のGDPトップ3へ 高まるインド市場への関心
「メイク・イン・インディア」をスローガンに掲げ、様々な経済構造改革を推し進めてきたモディ首相。インドのGDPは今後、日本・ドイツを抜き世界3位となることが確実視されています。
人口減少による市場の縮小、そして人材不足が深刻化するなか、人口14億人の大国・インドに活路を見出そうと、愛媛から経済交流ミッション団が乗り込みました。
中村知事:
「内向き志向ではもうこれからのグローバル社会、愛媛というローカルにいてもその視点持たないと競い合っていけない時代に入ってるんじゃないかなと思いますね」
そして会社の行く末をかけ単身、交渉に挑む経営者。
チーム愛媛が、南アジアの「巨象」に狙いを定めました。
深刻な整備士不足で…“外国人材”の受け入れに注力する経営者
県内に19の販売店を展開する愛媛日産自動車。松山市の本社に隣接して建つのが日産愛媛自動車大学校です。
岡社長:
「実習をしています」
主に高校を卒業した若者が自動車整備士の資格取得を目指し、専門知識の習得や実習に励んでいます。
この学校の理事長でもある、愛媛日産自動車の岡豊社長(66歳)。
岡社長:
「ここが留学生クラスです」
松岡キャスター:
「お邪魔します」
ネパール人学生たち:
「こんにちは」
授業を受けていたのはネパールからの留学生たちです。
先生:「変速比を求めます。どのように計算したらいいか教えて。下は何?」
学生:「下はC」
先生:「で上が?」
学生:「D」
先生:「この2つはどうしたらいいんですか?」
学生:「かける」
先生:「かけるね。OK」
自動車業界は今、深刻な整備士不足に悩まされています。
2021年度の自動車整備士の有効求人倍率は4.55倍。整備士の仕事を求めている人1人に対し、求人は5人近くあることを示していてその数値は全職種平均の4倍以上。地方都市ではさらにひっ迫した状況だと言います。
危機感を抱いた岡社長が目を付けたのが外国人材なのです。
現在、在校生179人のうち30人がネパールやミャンマーなどからの留学生です。
ミャンマーで確立した人材確保のシステム インドでも実現できるか?
さらに…愛媛日産の整備工場で整備士として働くのは、ミャンマー人技能実習生のザー・ニャイン・タウンさんです。
岡さんは2019年、日本で自動車整備の技能実習生として働くことを目指すミャンマー人のための事前研修センターを現地に設立。加えて、日本国内にはミャンマーからの自動車整備人材の受け入れ組合も作り、本国で整備や日本語の基本的なスキルを身に着けた人材を技能実習生として迎え入れるシステムを確立しました。
ミャンマー人技能実習生:
「(愛媛に来て)1年ぐらい経ちました」
Q.将来ミャンマーに戻ったらどんなことをしたい?
「自分の(自動車整備)会社を作りたいです」
岡さんは今、新たなチャレンジに乗り出そうとしています。それは、ミャンマーで確立した人材確保の仕組みをインドでも創り上げ、さらにそれをインドでのビジネスにつなげようという試みです。
岡社長:
「一番の魅力は非常に人口が多いこと。現地に日産の工場があるんで、そことの連携はできないだろうか。で、日本で勉強したインドの実習生をインドで活用できるような仕事ができないか。そしてそこに我々もディーラーも一緒になって仕事ができるような仕組みが作れないかというのをチャレンジしたいということですね」
「インドのデトロイト」へ 愛媛から派遣された“経済交流ミッション団”
14億2000万人の人口を誇るインド。去年、中国を抜き世界第一位の人口大国となりました。平均年齢も日本が48歳であるのに対してインドは28歳。労働力が豊富で、あと20年は人口ボーナス期が続くとみられています。
そのインドに愛媛県は先月、総勢70人を超える経済交流ミッション団を派遣。そのメンバーの中に岡社長の姿もありました。
ミッション団が狙いを定めたのは人口およそ7800万人、南インド最大の経済規模を誇るタミルナドゥ州です。主要産業は自動車や自動車部品、電子機器などで、州都であるチェンナイは「インドのデトロイト」とも呼ばれています。
中村知事:
「これからの投資、実需、それから人的交流、全てにおいて模索段階だと思いますけども、もう無視できない国ですから。ぜひきっかけ作りたいと思います」
訪問の目的は大きく2つ。一つは南インド経済の中心地であるタミルナドゥ州と経済交流の基礎を築くこと。そしてもう一つは、豊富な労働力をいかにして愛媛に招き入れるか。
県内企業の経営者、金融機関や外国人技能実習生受け入れ組合の関係者らが見守るなか、中村知事とタミルナドゥ州政府の関係者が協定書にサインを交わしました。
タミルナドゥ州政府 ラジャ商工相:
「魚の養殖や柑橘の栽培などの分野でぜひ技術協力をお願いしたいと思います。そうすれば私たちは間違いなく愛媛と人材を共有し、私たちが非常に得意とするIT分野を含む様々な分野で協力を図ることができるでしょう」
南インド最大の財閥会長に 知事や企業4社が県内技術をPR
今回のミッション団のインド訪問の目玉の一つが…南インド最大、7万3千人を超える従業員を抱える財閥「ムルガッパグループ」へのトップセールスです。
自動車部品の製造などの工業分野からインド最大の砂糖メーカー、さらに金融業まで28の事業を展開し、日本円で年間およそ1兆3000億円を売り上げるムルガッパグループ。
ムルガッパン会長:
「ムルガッパグループと日本との関係は私の祖父、曾祖父の代にさかのぼり、70年以上の歴史があります」
グループの会長を務めるムルガッパン氏は、インド経済界における重要人物です。
知事が愛媛の産業構造などについてプレゼンテーションを行ったあと、三浦工業やダイキアクシスなど県内企業4社が自社の事業や技術をアピールしました。
会談の中で一同が心を動かされたのが…
ムルガッパン会長:
「この資料をミウラサンに差し上げます」
インドにおけるビジネス展開の材料になればと、市場調査や取引先の候補となる企業のリストなどをムルガッパン氏が一社ごとに用意していたのです。
三浦工業 高橋会長:
「すごいアプローチをいただいたと思って非常に感謝してるし、インド事業は非常に難しいところはあるんで、慎重に考えることと、経済指標的には2004年に中国に進出した時と全く同じ状況になっているのでいいチャンスかなと」
整備士の「人材確保システム」実現へ足がかりを…インド側の反応は
ちょうどその頃、チェンナイ市内にある日産の販売店に愛媛日産の岡社長の姿がありました。
岡社長:
「日産のディーラーさんのための教育をここでやっている」
見学しているのは、現地の販売店や整備工場で働くスタッフ向けの研修施設です。
研修施設責任者:
「ここでは基本的に2日間コースのプログラムが行われています。販売会社のサービス向上を目的としています」
2019年、ミャンマーに自動車整備の基礎や日本語が学べる研修センター設立した岡社長。現地で育成した人材を技能実習生として迎え入れるシステムを確立しました。
こちらの研修施設と連携し、それをインドとの間でも作り上げることができないか。
岡さん、これが双方にとってメリットがあることを現地のディーラーの経営幹部にプレゼンテーションします。
岡社長:
「私はこれが、まさにインドと日本の双方に利益をもたらすウィンウィンのシステムだと確信しています。日本は働く人材の不足に直面し、インドでは人はいても、技術を学びながら働く機会が不足しています。日本で身に着けた整備の技術を帰国後も生かして整備士として活躍できる、日本・インドの人材教育循環システムなのです」
ラクシュミ日産ダイレクター ニキータ 氏:
「確かに私たちはとても興味があります。日本で日産の訓練を受けた人材が私たちの職場に何をもたらしてくれるのか。きっと多くの新しいアイデア、多くの新しいシステムをもたらし、様々な日本スタイルの良い手法を持ち帰ってくれるでしょう」
インドでは基本的に乗用車に車検制度がなく、日本の点検・整備の技術の高さやその価値観には強い興味があると言います。
好感触も束の間…
インド日産 地域担当マネージャー:
「その場合、どれぐらいの手当てが出るのでしょうか?」
細かい給与体系に、住まいなどの福利厚生。矢継ぎ早に質問が飛びます。
さらに。
ニキータ氏:
「日本で経験を得てインドに帰ってきた人材には、それまで以上の給料を支払う必要が生じますよね?それ以前にインドに帰ってこないかもしれないわ」
日本の外国人技能実習制度などについて、説明をしているうちに…
岡社長:
「OK…」
ニキータ氏:
「アリガトウ」
約束の時間となってしまいました。
岡社長:
「いつもね、アイデアはいいんですけどね。具体的になると色々問題がいっぱい出て、まぁよくある話ですよ。まぁ始まったばっかりですぐに出来るわけじゃないからこれからスタートですね」
日産本体・現地駐在員:
「興味はありますよね。あとは仕組みをどうやって作るかという所ですね」
“巨象”の懐に入り込むのは、一筋縄ではいかないようです。
例え14億人いても…判断は個人「人生をかけて来る一人一人に見合う待遇」が課題
人口減少に伴う市場の縮小、それに人材不足は今回のミッションの参加者が共通して抱く危機感です。
カネシロ 小池正照社長:
「我々リサイクル・廃棄物やってますけれど、今松山でやっている仕事がそっくりそのままインドの街でも需要が十分あると。極端に言ったら(出先の機関を置かなくても)手ぶらで行ったとしても何らかの可能性は十分にある」
マルトモ 明関眸副社長:
「やっぱり人の多さで活気を感じてますね。こちらベジタリアンの方が多いって聞いたので、野菜の出汁、ブイヨン、そういったものが販売の可能性があるのかなというふうに思いました。やっぱり百聞は一見に如かずで本当に見に来て良かったなって思います」
門屋組 門屋光彦社長:
「日本は分かってますけど愛媛のことを全然知らない。そういう我々にとっての課題というのは気付いたことがありましたから、選ばれる愛媛、選ばれる松山になっていくことっていうのがこれからの課題かなと」
岡社長:
「14億人いるから何とかなるだろうっていうのは全く無くて、技能実習生一人一人は個人で判断するんで、そして彼らが人生かけて来てるんで、それに見合うような待遇とか提案をしていかないと来てくれないなって。彼らが(愛媛で)勉強してもらって将来インドに帰るかどうか分かりませんけど、その時に我々のビジネスを拡大するチャンスがそこにみられるとすごく素晴らしいけど、それは私の代では無理ですね」
Q.すごく長いスパンでの取り組みになる?
「そういう風にしたいってだけですね。私が1人でできるとは思いません」
愛媛が直面する危機の打開に向け、未知の可能性を秘めた超大国インド。
その“巨象”の鼻先を愛媛のほうに向けさせるのは、決して容易なことではなさそうです。
※3月3日(日)午後4時から南海放送テレビでは30分の特別番組「NEWS CH.X 南アジアの“巨象”インドに活路を見出せ」を放送。より詳細な内容をお届けします。