【防災弁護士】高校生当時に阪神淡路大震災を経験…弁護士となり被災者生活再建に寄り添う男性の思い(静岡)
高校生の時、大阪で阪神淡路大震災を経験した男性が、その後、弁護士となり、被災者の生活再建のために活動しています。本業の傍ら、被災地に足しげく通う男性の思いを取材しました。
先週(1月11日)土曜日、静岡・富士市で「被災者支援ネットワーク会議」と題した防災イベントが行われました。災害が発生した時に、被災者の支援活動を行う団体や個人が集まり、横のつながりを広げようというのが狙いです。
(永野 海 弁護士)
「皆やれることは、一人一人限られている。一つの団体でやれることも限られている。何とか連携をして、力を合わせてやっていこう」
講師となったのは、日弁連で災害復興支援委員会の副委員長を務める永野海弁護士。「防災弁護士」と呼ばれています。今の日本に必要な備えは「生活再建のための知識」だと言います。
(永野 海 弁護士)
「“生活再建”の備えは何かというと、『り災証明とは、一体何なんだろうか』『判定が低かったらどうしたらいいのか』あるいは『どんな支援が受けられるのか』こういった知識の備えが重要になります」
永野弁護士は、これまでにも東日本大震災をはじめ、県内では熱海土石流や2022年の台風15号など、災害がある度に現地へ足を運び、住む場所を失った被災者に寄り添ってきました。
2024年1月1日に発生した能登半島地震でも、直後から支援を開始。発生2日後には、生活再建までの流れや様々な支援制度について紙一枚にまとめた「支援情報 瓦版」を作成、ホームページで公開しました。2月には能登半島へ行き、被災した住民を対象に支援制度の説明会を開きました。
(永野 海 弁護士)
「日本は、それぞれが賢くなって、それぞれの支援を知って、ちゃんと遠慮せずに申請をして、口座番号を書いて初めてお金がもらえます。知識がない人には支援は届きません」
説明会の後、相談を受けた被災者の家を訪ねました。一人暮らしの70代の男性。地震で屋根瓦が崩れましたが業者を手配できず、地震後に降った雨で、半分以上の部屋が水浸しとなりました。
(永野 海 弁護士)
「お父さん、この家どうしたいと今考えているの?」
(被災した男性)
「こっちが全然大丈夫なんですよ、ここは全然大丈夫なんで、ここまで、もしくはここで(壁を作って)無事な方を生かせばいいかなと思っていた」
(永野 海 弁護士)
「これを解体して、ここを養生してってやったら、それだけで何百万てかかるから、解体して(新しい家を)建てて、支援金をもらった方がお得かもしれないね」
(被災した男性)
「…どっちつかずでしたけど、ほっとしました、先生のお言葉をいただいて」
日本には、被災者支援の制度が数多くありますが、複雑で全体を把握するのが難しく、どの制度を利用でき、どうやって申請するのか、教えてくれる人はいません。永野弁護士は、地元の弁護士を対象に講習会を開くなど、支援制度を被災者に伝える人を増やすための活動もしてきました。そのため、2024年1年間で、能登半島に10回、足を運びました。
能登半島地震から1年、そして阪神淡路大震災から30年となる2025年、永野弁護士は1冊の本を出しました。その冒頭…。
(「避災と共災のすすめ~人間復興の災害学」永野 海 著・帝京大学出版会)」
『高校2年生のときに阪神淡路大震災を大阪府で経験しました。友人との約束があり揺れの起きた午前5時46分にたまたま地元の駅にいたのです。大きな地震を経験したことがなかった私は揺れが地震によるものだとはすぐには分からず、戦争で爆弾が落ちたのかと思いました』
揺れの後、駅の外に避難し、何とか難を逃れました。しかし、その後、被害を受けた地域に足を運ぶことはなかったといいます。
(永野 海 弁護士)
「当時は高校生で、結構、自由に動ける立場だったが、一度もボランティアをしなかった、それはずっと反省点として残っている。今の活動は、当時の後悔がつながっているところもある」
本のタイトルは「避災と共災のすすめ」。どちらも造語で、「避災」は災害や災害関連死から命を守ること。そして、「共災」という言葉には、こんな意味が込められています。
(永野 海 弁護士)
「やはり、災害大国の日本だと、どこまで備えても被災することは免れられない状況にある。その時に力になるのは、実は、生活再建のためのいろいろな支援の知識、あるいはネットワークづくりだと僕は思っている」
富士市で行われた防災イベントには、約120人が参加。行政や町内会、ボランティア団体、建築士や看護師、学生など様々な立場の人がお互いを知る機会となりました。
(参加者)
「いろいろな人が自分から集まって来ている。そういう人がたくさんいると分かって、とても素晴らしい会でした」
(参加者)
「今まで関わったことのない人と関わることができて、少し自分の人脈を広げることができて良かった。また、知らなかったことを知ることができて、とても有意義でした」
防災に関する講演会や講習会に呼ばれる回数が、本業の弁護士として裁判所に行く回数を上回ったという永野弁護士。活動の原動力は何なのでしょうか。
(参加者)
「一言ですね、『楽しいから』。これは怒られる表現かもしれないが、やはりものすごく頼りにしてもらえる、お手伝いできて喜んでもらえる、命を守って再建につなげていただけるのはすごく楽しいこと」「もっと勉強して、もっと伝えられることを増やそうというのが、エネルギーの原動力になっています」