その引き金を引くのは誰だ「自治体要請で撃ったのに」銃を失ったハンター咆哮 曲がり角クマ対策
クマがマチに現れたら…最前線に立つのは、猟友会のハンターです。
しかし、自治体からの要請でクマを撃ち、銃を失ったハンターがいます。
引き金を引く責任は誰が負うのか。
2024年最後の日に…クマ対策のあり方を考えます。
雪に覆われた、北海道砂川市の牧草地。
(猟友会砂川支部 池上治男支部長)「おーい、人が来るぞ!いなくなれよ!おーい!」
声をかける相手は、森に潜むクマ。
砂川市のハンター・池上治男さんです。
(猟友会砂川支部 池上治男支部長)「相手に注意喚起するために、人の声がいちばん効果がある」
マチに近づくクマがいないか、パトロールするのが朝の日課です。
これは2024年4月に根室市で撮影された映像。
山菜採りで山に入った軽トラックにクマが襲いかかる映像は、衝撃を与えました。
道内でのクマの目撃件数は2601件。
過去最多だった2023年より1448件減りましたが、人里に近づくクマは後を絶ちません。
(猟友会砂川支部 池上治男支部長)「これ丸いやつ全部ヒグマの足跡」
雪の上に残されていたのはクマの足跡。
見つけた痕跡をスマートフォンで記録します。
いつクマに遭遇してもおかしくありませんが、猟銃を持たず、丸腰で歩きます。
そのワケはー
(猟友会砂川支部 池上治男支部長)「こっちに下りてくる状態だったからだめだなと思って仕方なしに撃った。これで撃って一発で倒れた」
逆転敗訴に「もう誰もできない」猟友会憤怒
池上さんは2018年、市から依頼を受けクマを駆除。
しかし、周囲に人家があったことなどを理由に、銃の所持許可を取り消されました。
道に処分の撤回を求めた1審の札幌地裁では、池上さんの訴えを全面的に認める判決が言い渡されました。
しかし、2024年10月。
(高裁の判決)「周囲の建物に銃弾が到達する恐れがあった」
札幌高裁は1審判決を取り消し、池上さんは逆転敗訴しました。
判断が分かれたのは、銃弾が周囲に危険を及ぼす可能性があったかどうか。
札幌地裁は、銃弾はクマの体内にとどまった可能性が高いと判断。
さらに、背後にあった斜面が銃弾を受け止める「バックストップ」の役割を果たしていたとしました。
一方、札幌高裁はクマを貫通した弾丸が草や石に当たり、跳ね返った可能性があると指摘。
斜面では安全を確保できず、住宅などに危険が及ぶとしたのです。
(猟友会砂川支部 池上治男支部長)「撃ったやつがさ、クマの体内を抜けて跳弾するとか言われたら、もう誰もできないよ」
この高裁判決に危機感を抱いたのが、北海道猟友会です。
(北海道猟友会 堀江篤会長)「処罰されることがあったら大変だから。今まで以上に協議を重ねて、出る出ないは判断してということになった」
自治体からの駆除要請に協力するか、各支部の判断にゆだねることにしたのです。
(記者)「盾を持った警察官が店内に入っていきます」
市街地への出没が相次ぐクマ。
12月、秋田県ではスーパーにツキノワグマが立てこもりました。
市街地で発砲ができず、重装備の警察官も手が出せません。
クマが運び出されるまで丸3日を要しました。
市街地に現れるクマとどう向き合うのか。
猟友会の堀江篤会長は、鈴木知事と環境省まで出向き、駆除体制の強化を求めました。
(北海道猟友会 堀江篤会長)「どこへ撃っても跳弾だよねという言葉が出てくる。どこへ撃てばいいのと。引き金を引く者が責任を負わされる」
国は市街地でも速やかにクマを駆除できるよう法改正を目指していて、ハンターに不利益が生じないような仕組みを模索しています。
では、クマ対策を担うのはいったい誰なのかー
札幌で市民らが意見を出し合いました。
参加者があげたのは「ハンター」だけではありません。
「住民」をはじめ、あらゆる人が「自分ごと」としてクマと向き合うべきではないかとの意見が出ました。
クマの専門家・佐藤喜和教授。
ハンター個人が責任を負う現状に警鐘を鳴らします。
(酪農学園大学 佐藤喜和教授)「何か問題があった場合、それが個人の責任にならないような体制ですよね。今後も民間の資格を持った人に、こういう仕事を頼んでいくのか、それとも行政として市民の安全を守るため責任を持てるような形で、そういう人を雇用できる体制にしていくのか。将来を考えていくきっかけになるような、そういう年になったと思います」
夜明け前、ハンターの池上さんがパトロールを始めました。
訪れたのは郊外の農家。
(猟友会砂川支部 池上治男支部長)「これ全部シカの足跡」
周辺に出没するシカやクマの痕跡調査を続けています。
地元の人はそんなベテランハンターの姿を頼もしく思っています。
(住人)「助かるんです。あれだけの人が、鉄砲を取り上げられたのは私はもう悔しくてね」
(猟友会砂川支部 池上治男支部長)「ハンターというのはさ、自分のためというよりも農家のためとか人のためという意識の人が多いと思うんだよ。われわれは協力するのやぶさかではないけど、ああいう判決だと協力しないじゃなくて協力できない状態になっている。やはり考え方を変えていかなければいけない」
クマ対策の最前線に立つ猟友会のハンター。
引き金を引く責任は誰にあるのかー
社会全体で考え直す時が来ています。