【特集】“教場”密着!厳しい規律の警察学校 夢かなうまでの10か月間 教官の厳しさの理由とは《新潟》

2025年2月、新潟県警の警察学校で行われた卒業式。新人警察官49人が門出の日を迎えました
≪卒業生答辞≫
「憧れだった第一線に赴く喜びと同時に警察官として職責の重みをこれまで以上に感じています」
卒業と同時に現場へと旅立つ新人警察官……。
≪教官から新人警察官へ≫
「絶対自分に負けるな、くじけそうになっても自分に負けるな。そして初任科補修で元気よく帰ってこい。よし行ってこい」
“教場”での10か月、自分自身と向き合う日々でした。
厳しい規律に従い、団体生活を送る警察学校。高校や専門学校を卒業した長期課程の初任科生は約10か月間法律や逮捕術などを学びます。入校後、待ち受けていたのは厳しい訓練です。
≪教官≫
「動くな、動くと目立つ。一番、前分かるか一番前の中心にいるんだぞ」
「なんだその返事。返事しているんか」「はい!」
「もっと出る」「はい!」
「もっと、腹から出せ」
新人警察官の一人、新潟市出身の臼井詩保美さんです。警察官は憧れの職業でした。2023年11月、当時高校3年生だった臼井さんは警察署を訪れていました。道に迷った80代の女性を保護したとして感謝状を贈られたのです。女性を助けたのは新潟県警の試験の前日でした。
≪臼井詩保美さん≫(高3当時)
「危険や困ったことがあったら、すぐに駆け付けられる人のために動ける警察官になりたい」
その後、試験に合格した臼井さん。覚悟を決め髪もバッサリと短くしました。教場での訓練を乗り越えたい、入校式に駆けつけた家族に誓いました。
≪臼井巡査≫
「1週間しか経ってないけどもう厳しい。でも教官の人たちすごくいい人たち。今までで一番充実しているかも、だから厳しいけど頑張る」
入校して2週間後、この日は交通の授業です。
≪教官≫
「つらい思いをする被害者が出ることを防ぐため、取り締まりを強化しましょう、指導しましょう」
しかし臼井巡査をはじめ、新人警察官数人が教材を忘れ、授業に遅れてしまいました。
≪教官≫
「こうやって忘れて遅れる取りに行く、その間授業できないでしょ。きちんと確認して用意する。最低限だ。これ忘れてきました、被害者助けられません。活動できません、交通整理できません。そんな警察官必要?」
人の役に立つ仕事がしたいと警察官を目指した臼井巡査。しかし訓練を通じて、実力不足を痛感していました。
警察学校に入校して1か月。団結力を高めるため。新潟市内30キロを歩く強歩訓練が行われました。途中で足を痛め足を引きずって歩く姿も。支え合いながらゴール地点を目指しました。
≪臼井巡査≫
「つらいときもみんなで声出して頑張って最後までこられました」
新人警察官は協調性を養うため学校の敷地内にある寮に入ります。女子寮は2人1部屋。同期の仲間と寝食を共にします。
≪臼井巡査≫
「こっちがクローゼットになっていて……」
クローゼットの中には寮生活で欠かせないものも……。
≪臼井巡査≫
「給料が出てから寮で使う用のドライヤーを買いました。これは大事に使っています」
高校卒業後すぐに警察官になった臼井巡査。給料を手にして、貯金して買った大切なドライヤーです。教場から離れれば友達と話すことが好きなどこにでもいる19歳の若者です。
4月に入校して10か月。卒業を目前に控え授業は佳境を迎えていました。行われていたのは、夜間の飲酒検問を想定した訓練。運転手役に扮するのは教官です。
≪飲酒運転手役≫
「警察張っているの?こんなところで」
飲酒検問では、運転手に声をかけ飲酒が疑われる場合はアルコール検査を行います。
≪飲酒運転手役≫
「本当に勘弁してくださいよ。何とかなりませんか」
≪臼井巡査≫
「お酒飲まれていない?飲んだんですか?」
≪飲酒運転手役≫
「軽く飲んだんですよ、ここだけの話だから許してくださいよ」
≪臼井巡査≫
「一歩間違うと人が亡くなってしまったり、取り返しがつかないことになってしまうので2度とないようにお願いします」
抵抗を続ける運転手に対し、ひるむことなく説得することができました。
≪教官≫
「非常に勉強しているのが分かりました。最初の忘れ物していた頃と大違いでその調子で許さないという気持ちで頑張ってください」
迎えた卒業の日……。最後のホームルームで教官が新人警察官に語りかけます。
≪遠藤博教官≫
「現場に行けば自分の身に危険がふりかかることもあるでしょう。前も話したよな、俺の後輩一人、事故処理中に殉職をしました。いつ危険に巻き込まれるか予測つかないよね。だからこそ交通の授業など実践的にやったりしてきました。危ないと思ったら逃げてください」
時に厳しく指導してきた教官。その裏には、県民ひいては自分の命も守れる警察官に育ってほしい。そんな思いがありました。
≪遠藤博教官≫
「当然だけど殉職なんて許さないからな。みんなを悲しませるようなことはしないでください。約束、いいか?」
卒業式本番……。49人の新人警察官が新たな一歩を踏み出しました。卒業と同時に、県内の各警察署に配属されます。
≪教官から新人警察官へ≫
「しっかり前見て頑張るんだぞ。ここからが始まりだ。やってこい信じているぞ。頑張れ、卒業おめでとう」
≪新人警察官から教官へ≫
「10か月間ありがとうございました。教官の言葉に何度救われたかわからないです」
こみ上げる涙は、訓練に全力で取り組んだ証です。臼井さんも大きく成長しました。憧れだった警察官という職業。実力不足の自分自身と向き合いました。そして、つらく厳しい訓練を耐え抜きました。
≪臼井巡査≫
「苦しいことがたくさんあり、つらいと思う日も何回もあって、そんな中でも教官や同期がたくさん支えてくれて、かけてくれる言葉一つ一つに支えられてここまで乗り切れました。困っている人を助けたい思いを忘れずに人を助けられる、そして被害者の気持ちを背負って戦える人になりたいです」
10か月間にわたる教場での学びを糧に。新人警察官はきょうも最前線の現場に立っています。