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【食料クライシス③】農業ビジネス

2024年7月23日 19:05
【食料クライシス③】農業ビジネス

 7月は世界最低の水準にある日本の食料自給率の向上を目指して岩手大学に設置された飼料センターの話題をシリーズでお伝えしています。

 最終回の23日は持続可能な農業を実現するためのビジネスへの取り組みをご紹介します。遠藤記者の取材です。

 7月4日、岩手県雫石町で除幕式が行われた岩手大学農学部附属畜産飼料総合教育研究センター。

 こちらでは家畜のエサの問題から飼い方、膨大なデータの解析をするデータサイエンス、さらに実践教育を行う企画調整部門もあり総合的に食料自給の問題解決に立ち向かおうとしています。

 平田統一准教授は家畜の効率的な受精の問題と取り組み、繁殖を阻害する病気への対応などを通して受精率の向上を目指しています。

 岩手大学農学部附属畜産飼料総合教育研究センター 平田統一准教授
「もちろん持続可能性を上げるという点では農家自身が収入を上げて頂かないと経営継続できないわけで、収入を上げるということが持続可能な農業、畜産業の基盤になっているということになります。そういう農家さんの経営を安定化させるための基盤技術として活用されるように研究を続けています」

 一方、副学長で農学部の喜多一美教授は岩手大学から遠く離れた洋野町にある養鶏場のニワトリを遠隔画像で管理しています。

 喜多一美 副学長
「色の黄色いところがニワトリが死んでしまうところが多い。例えば最低温度がこれぐらいのときに湿度が低くなると死ぬ数が多くなるということを示します。健康でないニワトリというのは排除しなければいけないので、その部分を今までは人が行っていましたけど、最終的にはやはり機械学習のようなものを使って健康なニワトリと、そうでないニワトリを瞬時に判別するできれば、それをロボットか何かで回収できるようにすれば。より省力化ができると」

 岩手大学は日本の食料自給率が38パーセントと世界で最低レベルとなって国際紛争や地球温暖化などで食料の輸入が不安定になることの懸念が高まっていることから、畜産飼料総合教育研究センターを設置しました。

 岩手大学農学部附属畜産飼料総合教育研究センター澤井 健 センター長
「学生たちにこれまで実践的な教育を行っていたかと言われると、ちょっと弱いところがあって、まさに今回このAFSeCを通じて飼料センターを通じてどうにかして動物科学の学生、獣医の学生に実践的な教育を行って、卒業後農家のために、生産者のために、がんばる技術者・行政マンになってほしいと。当然、生産者として就職する学生もいますし、そういう思いから、ある意味、切実な思いから今回、センターを立ち上げたという経緯があります」

 「東北一の酪農郷」とうたわれる葛巻町。

 130年余り前、乳牛を導入した町で牛乳や乳製品は町の経済を支えています。

 酪農をビジネスとして発展させた立役者が中村哲雄さんです。

 葛巻町の前町長で、岩手大学の非常勤講師も務める中村さんは東京の日本大学で獣医師となり、ふるさと葛巻町の職員となりました。

 町の畜産開発公社に出向し、コスト意識を徹底させ酪農のビジネス化に努めました。

 中村哲雄さん
「ここでは里山資本主義とか資源循環と言う言葉がありますが、まさにこれは林産資源の廃棄物を牛のベッドに、こういう風に堆肥として使って加工と言いますか、処理して牛のベッドにして堆肥にするわけです。そういう資源循環、地域循環、お金が回っていくんですね。地域でそういったような、あるいは牧場内でね、それで買った肥料を節減使わないようにすると」

 また、中村さんは農家から子牛を預かる事業をしました。

 地域の牛を預かる事業はあちこちで行われていましたが、中村さんは40年ほど前、ほとんど行われていなかった県外の牛を預かり、預託事業をビジネスとして成立させました。

 今、県外から預かっている牛はおよそ1200頭に上ります。

 中村哲雄さん
「いわゆるビジネスですね。もちろんビジネスとして成立するそういう単価でやらしていただいております。(牛の預かり料は)1日600円、月1万8000円 、20か月で36万円頂戴すると健康で丈夫な牛ということですね。もちろん 健康で丈夫な牛を育てるのが最大の目的です。適正な時期に妊娠させる、適当な時期にお産をさせると酪農家は(牛が)帰ってくるのを待っているわけですから、お金をかけていますからね」

 中村さんたちのコスト意識、新たなアイデアが農業をビジネスとして成立させる大きな要因となっています。

 岩手大学も学生を葛巻町で実習させ、現場意識を植え付けさせています。

 喜多一美 副学長
「いま日本は非常に少子高齢化が進んでいる。特に、この岩手県は少子高齢化のスピードが非常に早い。そうなると農業人口も減っていくし、高齢化も進む。そういう中で新しい農業人口を増やす、新しく農業に参入してもらう。また、高齢化しても体に負担の掛からない畜産を行う。そのためにはどうしても技術開発で省力化する。あるいはだれでも参加できるような畜産にしないといけない。そのための色々な技術開発とか新しいエサの開発海外に依存しないような畜産を構築しないといけない。それが今あるセンターの大きな役割になっていると思います」

 自分の国で食料をまかなえない日本。

 不安定になる国際情勢の中で、食料生産の大切さは年を追うごとに増しています。

 こうした中、設立された岩手大学の畜産飼料総合教育研究センターは農業をビジネスとしてとらえる実践的な研究施設として日本の食料自給に貢献することが求められます。

    テレビ岩手のニュース