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足立和也 初の国産カヤックで五輪へ 後編

2021年7月8日 2:52
足立和也 初の国産カヤックで五輪へ 後編

カヌースラローム東京五輪代表・足立和也選手のために、日本初の国産カヤック開発に着手したのは、レーシング界のレジェンドデザイナー・由良拓也さん。

まず着手したのはカヤックの軽量化でした。船体が9kg以上がルールとなっているカヌースラローム。通常は9kg以下で製作し、重りなどで調整して規定重量に近づけますが、由良さんが初めて作ったカヤックは9.5kgもあったそうです。

そこで由良さんは内部構造の変更を行いました。

 「ヨーロッパのカヤックは、内部のコア材がウレタンでできていてそれをまねして作ったら重くなってしまった。改良後はハニカムという蜂の巣模様の薄くて軽い部材を使った。作り方をレーシングカーのボディーと全く同じにした」

これによりカヤックの軽量化に成功し、ハニカム構造とカーボン技術でスピードの出る硬いボディーも手に入れました。

さらには取り付けが義務付けられているグラブループというひも状の持ち手は、水の抵抗を減らすためボディーと平らに収納できるように改良。これは極限まで空気抵抗を減らすよう考えられたレーシングカー設計の発想が生かされました。

選手の要望を取り入れるだけでなく、レーシングカー作りで培ったノウハウをカヤック製作に生かす由良さんの技術。これに足立選手を指導するコーチの市場大樹さんは「普通は1ミリ変えても何も変わらないと思うところを、由良さんは選手が1ミリ望むと結果が変わると分かっている」とその腕に絶大な信頼を寄せています。

そして臨んだ2019年の五輪代表最終選考会。足立選手は日本人トップの4位でフィニッシュし、東京五輪代表に内定しました。

この活躍に由良さんは「やっていてよかった。日本代表に選ばれた瞬間からこれはちょっと大変なことになったぞ、頑張るしかないぞと感じた。足立選手には表彰台には乗ってもらいたいな」と笑みを浮かべました。

2019年から製作を始め、由良さんが作るカヤックは現在11艇目。開発費は数千万円にも上りましたが、費用のマネジメントもモータースポーツ界の方式を採用し、由良さん自身がスポンサーを募り、捻出したといいます。

 「選手からお金をもらうには金額が大きい。彼らにサポートを依頼するわけにもいかず、スポンサーを探して我々なりに応援してやってきました」

そんな支えを背負って東京五輪に挑む足立選手ですが、最近おめでたいことがあったといいます。

 「6月23日に二女が生まれました。こういう(コロナ禍の)状況ですが、二女が生まれたことによって気持ちが前向きになりました。コーチ、家族、チームスタッフの方々すべての力があって僕が代表に入れたと思っているので、一番高いところにのぼりたいと思っています」


写真(左):足立和也選手 YUTAKA/アフロスポーツ
写真(右):由良拓也さん