足立和也 初の国産カヤックで五輪へ 前編
カヌースラローム・カヤックシングル、東京五輪でのメダルを目指す足立和也選手。この競技は、激流の川を指定のゲートを通過しながら下り、ゴールまでのタイムを競います。
足立選手が乗りこなすカヤックには、他の選手とは違いがあるといいます。
「国産のカヤックに乗っています。世界でも日本製のカヤックに乗っているのは僕だけです」
東ヨーロッパが本場のカヤック。欧州のトップ選手は現地のメーカーで自分専用のカヤックを製作していますが、日本国内にはメーカーがないため、多くの選手が既製品を海外から輸入して使用しています。
そのような状況のなかで、東京五輪で足立選手にメダルを獲得してもらうため、2年前に日本初・国産カヤックを製作するプロジェクトがスタートしました。
手がけたのは静岡でレーシングカー設計会社を経営するデザイナー・由良拓也さんでした。1983年の自動車レース「ル・マン」で自身がデザインした車(マツダ717C)が日本車として初となるクラス優勝を果たし、さらにはアイルトン・セナさんも由良さんの作ったヘルメットを愛用していました。過去には“違いが分かる男”としてインスタントコーヒーのCMに出演するなど、レーシング界のレジェンドデザイナーとして知られています。
由良さんへの依頼を思いついたのは、足立選手を指導するコーチの市場大樹さんでした。
市場コーチは当時を振り返り、「(自分は)モータースポーツが好きだったので、カヤックとレーシングカーが同じカーボンでできているので、そういう方に製作をお願いできる日が来ると良いなと思っていました」
市場コーチからの突然の依頼に最初は断ったという由良さん。レーシング界では名を馳せていますが、カヤック作りは全くの素人。東京五輪を目指す選手のカヤックを作るのは難しいと考えたそうです。
それでも市場コーチはコンタクトを取り続け、時には長さ3.5mもあるカヤックを山口県から由良さんの会社がある静岡県まで車で運び、熱意を伝えました。
その気持ちに負け、由良さんは人生初のカヤック開発に着手しました。
(「後編」に続く)
写真:SportsPressJP/アフロ