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パワハラが発覚、“若手カリスマ医師”だった院長の今「同じ場所で地域医療をやり続けることが罪滅ぼし」 #ニュースその後

2024年4月6日 18:00
パワハラが発覚、“若手カリスマ医師”だった院長の今「同じ場所で地域医療をやり続けることが罪滅ぼし」 #ニュースその後
患者の手を握る江角さん

去年11月、三重県志摩市で発覚した病院長のパワハラ。病院の予算について事務長と話していた際に、「あほか、お前は」「ばかなのかお前は、大丈夫か」などと発言したというのが、医師の江角悠太さんです。

8年前、江角さんは34歳の若さで院長に就任し、経営難の病院を救った立役者として注目されていましたが、パワハラが発覚。“過ち”のその後を追いかけました。

病院経営がV字回復した影で…職員に対して叱責罵倒

人口4万5千人あまり、過疎化が進む三重県志摩市。パワハラを訴えられた江角さんが志摩市民病院の院長になった2016年、病院は経営難に陥っていました。7億円の赤字に加え、病院の規模縮小まで検討される事態に。

経営を建て直すため、江角さんが掲げたのが「患者を絶対に断らない」という理念でした。さらに、患者の生活までを考えた診療は評判を呼び、患者の数は次第に増加。その結果、赤字を減らし病院を立て直したのです。

“若手カリスマ医師”と評され、V字回復の経営手腕は注目の的になりましたが、その影で起きていたのがパワハラでした…。

2019年に江角さんからパワハラを受けたという女性は、当時、病院の事務長として勤務していました。パワハラは、年下でもあった江角さんと予算配分の話をする中で起きたといいます。「声が大きくなったり叱責罵倒、暴言を吐くようなことが多々ありました」と当時を振り返り、「あほかお前は」など、人格や能力を否定する発言もあったと語ります。

女性は事務長職の変更を市に希望しましたが、かなわず、着任から3年目に入ったところで退職。また、一昨年、市民病院が行ったハラスメントのアンケートでは、30人がパワハラを受けたことがあると回答しました。関係者によると、このうち江角さんからのパワハラだったとの回答が複数あったということです。

ハラスメント対策の専門家である日本ハラスメント協会の村嵜要代表理事は、「(トップの院長)自らが就業環境を害しているので、一番よくない組織の状況」とし、正論であればどのような発言をしてもいいという考え方が根本にあったと指摘しています。

パワハラで多くのものを失った医師 停職中は自分自身と向き合う日々

停職1か月の懲戒処分を受けた江角さんは、午前中はジムで体を動かし、午後は読書などをしながら自分と向き合う時間を過ごしていました。

志摩市民病院 江角悠太医師:
「不適切な発言があったというのは、もちろん認めていますし、相手方の彼女に関しては大変申し訳ないことをしたと感じています。言い方、態度。そこは絶対に改めるべきと強く感じました」

当時は、1年で1億円の経営改善が求められるプレッシャーの中、予算の使い方について事務長と意見の対立があったといいます。院長としての仕事に加え、患者の診察も行い、さらには「絶対に断らない」を実現するため月の半分ほどの当直勤務。次第に追い込まれ、厳しい言葉になったと語りました。

パワハラの報道が出てから市民の対応は一変。笑顔で挨拶してくれていたコンビニ店員にもそっぽを向かれる日々を送り、「志摩市にいるのが辛い」と話します。

停職によって失ったものは他にもありました。江角さんの停職期間中、志摩市内で地域医療に関する学会が開かれました。全国から500人以上の医療関係者が参加したこの学会の学会長を江角さんが務めるはずでしたが、急きょ、江角さんの部下である副院長(当時)の日下伸明医師が代行することに。

実は、都会から離れた志摩で学会を開くことは、江角さんの“夢”だったのです。

過疎化と医師不足に瀕しているこの場所に、全国から医師の卵や若手を呼んで、地域医療のやりがいや楽しさを直接伝えるはずが、自らの言動によって、その機会を失ってしまいました。

1か月の停職期間が終わる頃、江角さんは復帰に向けて、病院職員に文章をしたためていました。内容は、職員に対して苦しい思いをさせたことへの謝罪。そして、病院を守り抜いてくれたことへの感謝が綴られていました。

失った信頼を取り戻すために始めた新たな取り組み

停職処分から1か月が経ち、復帰の日。向かったのは病院ではなく市役所でした。人事異動の辞令を受けるため、市長に呼び出されていたのです。その中身は、地域医療医務監という辞令。院長を解かれる人事です。懲戒処分後の1年間で400万円ほど収入も減るといいます。

この人事について志摩市の橋爪市長は「常にチームとして多くの職に支えられていることを、あなたは感じるべきだと」とし、病院の全職員に対し、ハラスメント研修を行うことも明らかにしました。

パワハラを受けた元事務長の女性も、復帰する江角さんに対し「院長1人が頑張ってるんじゃなくて、病院の職員の皆さんも一生懸命がんばっているのを認めてあげて」と求めています。

辞令を受け取った後、江角さんは久しぶりに病院へ。1か月の停職期間で外来患者が離れてしまうのではないかという不安がありましたが、患者たちからは、「よかった。心配したんで」「先生が元気でここにおってくれるのが一番いい」という言葉が。こうした言葉に、江角さんは「ご心配をおかけしました。ごめんなさい」と一人一人に向き合いながら謝罪を伝えていました。

院長を解かれた江角さんは、空いた時間を患者や地域のために使うことを決意。信頼回復に向けて新たに始めたのが、医療の困りごとを聞いてまわる取り組みです。この日も、高齢者の自宅を訪問し、患者たちの声に耳を傾けていました。

志摩市民病院 江角悠太医師:
「今回の一件で医療不信、病院不信だったり、地域医療の地位を下げた。身をもって信頼回復を努め続けなければいけない。だからこそ、同じ場所で地域医療をやり続けることが、それが僕の罪滅ぼしというか、償う方法だとすごく感じています」

パワハラによって一瞬で崩れた信頼。回復に向けた道は始まったばかりです。

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この記事は中京テレビNEWSとYahoo!ニュースによる共同連携企画です。
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