【特集】大廃炉時代に向き合う 「クリアランス物」の行方 高校生が地域住民とともに考える 再利用し防犯灯設置
東日本大震災をきっかけに、最大15基あった県内の原発は半数近くが廃炉に。その解体は大きな課題です。廃炉作業で出る大量のコンクリートや金属などの廃棄物。高校生たちが再利用できる金属を生かす取り組みを地域に広げようとしています。
今月7日。福井市の文殊地区の通学路に、オレンジの暖かな光がともりました。この防犯灯は原発の解体作業で出た廃棄物で作られています。
東日本大震災で起きた福島第一原発の事故をきっかけに、50基を超えていた国内の原発はこれまでに23基の廃炉が決定。いわゆる“大廃炉時代”を迎えています。県内の原発も半数近くが運転を終了し、廃炉で生まれる大量の解体廃棄物の処理が課題になっています。
原発1基から出る廃棄物は、例えば廃炉作業中の茨城県の日本原電東海発電所でおよそ20万トン。このうち放射能の濃度が極めて低く、人の健康に対する影響を無視できるレベルとして国が認めた「クリアランス物」と呼ばれるものが、およそ20%を占めています。
一般の廃棄物と同様にリサイクルできることになっていますが…。
■福井大学附属国際原子力工学研究所 柳原敏客員教授
「原子力施設の中で使われていたものを社会に出した時に、一般の人がそれを安全だとすぐに理解してくれるかどうかは怪しい」
この「クリアランス物」を資源として活用したい。探究の授業で原子力について学ぶ福井南高校の生徒たちは、住民説明会を開いて地域の理解促進に努めてきました。
■福井南高校3年 森夕乃さん
「私は福井県にずっと住んでいますが、原子力について無関心で恐いという先入観を持っていた。自分がどうしてそう思ったのか、本当はどうなのかを実際にこの目で見ながら判断したいと思ったのがきっかけです」
昨年度からは東海発電所などの廃棄物を使ったものづくりを続けています。
■福井南高校2年 前川央乃芽さん
「通学路が暗いということで、下校時に田んぼの中に落ちてしまったり、前の道が見えなくてつまづいてしまったりすることが多かった。そこを改善しようと思って」
去年3月に完成した夜道を照らす防犯灯。学校の敷地内に取り付けたものの、地域の通学路などには設置できませんでした。
学校の外にも防犯灯を設置したい。クリアランス物に対する地域の理解促進に向けて、生徒たちは高校のある福井市文殊地区の公民館で去年11月、住民向けの説明会を開きました。
■福井南高校3年 森夕乃さん
「防犯灯を文殊地域の方々に説明することで、設置の一歩を踏み出せたら」
生徒の話を聞いたのは自治会長をはじめ25人。
■説明会に参加した住民
「リサイクルして使っていけば、非常に環境にも優しくて、いいものになっていく。私は大賛成です」
一方で、こんな意見も。
■説明会に参加した住民
「学術的に、社会的・政治的にも大きな対立点のある問題。子どもたちがそういうことに利用されている気がする」
■福井南高校3年 森夕乃さん
「受け入れて下さる方とそうでない方、二つの立場の方がいる。頑張らないとなという気持ちにつながった」
生徒たちは地域住民らの疑問解消に向けて、質問方法を載せたチラシを作って配布。質問に答える手書きのポスターも作って公民館に掲示しました。
■地域住民
「皆さんが意識を持って、こういう問題を考えていくきっかけを作ってもらえた」
スタートから1年間半。県の花・スイセンをモチーフにした防犯灯はこれまでに、文殊地区の市道や鉄道の駅前などに設置されました。今後は大野市など5つの市町で合わせて20か所に設置される予定です。
■福井南高校2年 前川央乃芽さん
「真下から見てもきれいなようにって言ってたよね。それが本当に形になると感動する」
■福井南高校3年 森夕乃さん
「(防犯灯を)欲しいって手を上げてくれている高校や施設がある。ここからまた広がっていってほしい」
今回の防犯灯の製作に当たって使われたクリアランス物は延べ150キロ。廃棄物のごく一部にすぎませんが、生徒たちの学びは“大廃炉時代”へのひとつの道標となるかも知れません。