【特集】「みんな大好きだよ」夢の舞台を失った元球児たち 3年の時を経て「甲子園球場」で“あの夏”を取り戻す! 鳥取県
元高校球児による野球大会が12月7日、「甲子園球場」で開催されました。参加したのは3年前、新型コロナで夏の甲子園が中止となり、夢の舞台を失った元球児たちです。鳥取県から出場したチームを取材しました。
胸にはえんじ色で「KURAYOSHI」の文字、倉吉東高校の伝統のユニホームが甲子園で躍動しました。高校球児の憧れの舞台「阪神甲子園球場」で開かれた野球の試合。
失われたはずの夢の舞台ー。しかし3年後に、その続きがありました。
■2020年高校野球甲子園大会が中止に…鳥取県の独自大会で優勝したのは倉吉東
世界中で流行した「新型コロナウイルス」。街や観光地は閑散とし、社会生活に大きな影響が出たほか、2020年の高校野球甲子園大会が中止になりました。
そうした中ー。
各地で地方大会の代わりとなる「独自大会」が開催されました。無観客で行われた鳥取大会で優勝したのが倉吉東でした。
倉吉東 西垣篤志主将
「僕たちは甲子園出場が無くてこの先は引退するけど、1、2年生には甲子園での1勝という目標を掲げてこれから頑張ってくれると思うので期待しています」
諦めていた夢の舞台でしたがー。
倉吉東OB 西垣篤志さん
「いけるわ。いけます」
11月、当時のキャプテンで現在大学生の西垣篤志さんなど、元チームメイトが集まりキャッチボールをしていたのは「大阪」でした。3年前に夢の舞台への道を絶たれた元球児による交流大会が甲子園で開催されることになったのです。
倉吉東OB 西垣篤志さん
「コロナで甲子園に届かなかったっていうところの悔しさや青春っていうのを取り戻す試合になると思います」
大会前の最後の調整はキャッチボールを繰り返し、元チームメイト同士の「絆」を確認し合っていました。
大会名は「あの夏を取り戻せ」。
開催費用はクラウドファンディングなどで集められ、甲子園には全国から42チーム、約700人が集まりました。元球児たちは南から順に入場行進し、憧れの甲子園球場の感触を一歩一歩感じ取っていました。
「島根代表、益田東OB」
「鳥取代表、倉吉東OB」
球場に駆け付けた選手の家族にとっても3年経っての夢の実現となります。
倉吉東OBの母親
「少年野球のころからの親子での夢でしたのでほんと感無量です」
倉吉東のプラカードを持っているのは、3年前のマネージャー、寺脇莉沙さんです。寺脇さんは大会を前に選手たちにある物を準備していました。
それは手紙です。
3年前に叶わなかった夢、そして選手全員に向けた思い、一文字一文字に思いを込めて手紙を書き上げました。
寺脇莉沙さん
「みんなが大好きだよっていうこととか、まっすぐ気持ちが伝わったら、表面的なことじゃなくてまっすぐした思いが伝わればなと思います」
そして試合の時。
倉吉東は抽選により、甲子園球場で試合ができる4チームに選ばれました。相手は大阪代表の関大北陽です。倉吉東は、いきなり初回に先制を許しますが、後続を打ち取って最少失点で切り抜けます。
そして反撃は2回裏でした。
倉吉東は内野安打とレフト線へのツーベースヒットなどで1アウト満塁のチャンスを迎えます。内野ゴロでダブルプレーか、と思われましたが懸命の走りでそれを阻止。倉吉東が同点に追いつきました。
3年前のキャプテン西垣さんは守備で見せます。レフトに飛んだファールフライ、フェンス際のきわどい位置でしたが恐れることなく打球を追い見事にキャッチ。3年前と同じくチームを引っ張ります。
中盤以降はお互いのピッチャーが踏ん張り、無得点で試合が進みます。最終回、倉吉東はランナーを2塁まで進めますが惜しくも得点ならず。
試合は1対1の引き分けとなりました。夢の舞台で大好きな野球を、悔いなく思い切り楽しむことができました。
西垣篤志さん
「今まで野球してきた中で、本当に一番幸せな時間でした。やっぱり甲子園に初めて入って、土を踏んで周りの景色を見て、憧れだった、昔は外野の方で見てたんですけど、初めてグラウンドの中に入って、本当に広いなって思って、本当に楽しい時間でした」
試合後、元マネージャーの寺脇さんが選手への手紙を読み上げました。
寺脇莉沙さん
「抽選で決まった特別大会もおめでとう。連れてきてくれてありがとう。抽選で特別大会が決まったと知った時、最後の最後までドラマを作ってくれるなと。これもこの代らしなと。おもしろいなと。そんな代のマネージャーができたことがうれしくて誇らしかったです」
西垣篤志さん
「高校野球生活では結果的に甲子園に連れていくことはできなかったんですけど、またこうやってみんなで戻ってこれて、甲子園で試合ができて本当にいい恩返しができたかなと思います」
大会は、別の球場を使ってもう1試合行われました。このメンバーで野球をするのは最後になるかもしれないー。
そんな思いを胸に選手たちは試合中笑顔を絶やすことなくプレーしていました。
試合終了後、力の限り、校歌を歌う元球児たち。
諦めたはずの夢ー。
3年の時を経て「あの夏」がよみがえりました。
寺脇莉沙さん
「あの時思い出したっていうのもあったし、今回あったこと、みんなで一緒に来られたこと。なんかすごく嬉しくて、なんでかわかんないですけど、涙が出てきました」
西垣篤志さん
「このプロジェクトを通して本当に悔しかった思いや、寂しかった悲しい気持ちというのも試合を通して、選手と話したりすることを通して払拭されてまた新しい一歩を踏み出す機会になったのではないかと思います」
Q.3年前の悔しさは取り戻せましたか?
西垣篤志さん
「そうですね。十分に取り戻せと思います」
新型コロナの影響を大きく受けた元球児たち。これから、新たな一歩を踏み出していきます。