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新時代に突入した地球 過去100年分の地層データにみる「人新世」の始まり…人が求めた豊かさの代償とは

2024年2月10日 9:00
新時代に突入した地球 過去100年分の地層データにみる「人新世」の始まり…人が求めた豊かさの代償とは
物を消費してきた人類が地球環境に負荷を与え続けた

かつてないスピードで変化を遂げる地球環境。その変化を物語る‟痕跡”が海底に残されています。

濃淡の異なる縞模様を描く堆積物。一本一本の縞は1年ごとに海底に降り積もった泥や砂で過去100年にも及ぶ地層データが詰まった「地球史のタイムカプセル」です。

そこに記録されていたのは…第二次世界大戦後急速に科学技術を進歩させ、かつてない速さで物質を消費してきた人類が、地球環境に負荷を与え続けた痕跡でした。

加 准教授:
「今の地球環境とはまったく別の姿に移り変わってしまうということが起きる。リスクを背負う時代が実は人新世なんじゃないかと」

46億年に渡る地球の歴史の新たな地質時代として提唱される「人新世」。

それは、私たちが豊かさを求める代償に地球環境を破壊し続けてきた時代です。

海底の地層から読み解く地球環境の変化

愛媛大学沿岸環境科学研究センターです。

加 准教授:
「パイプを下げると泥が出てくるんですよ。その泥を2cm間隔でスライスして今から袋に入れます」

地質学が専門の加 三千宣(くわえ・みちのぶ)准教授です。

加教授:
「古環境という昔の環境を知る指標がいろいろあるんです。DNAとかマイクロプラスチックとか」

Q.今切っているのは?
「100年前くらいですかね。きれいだった瀬戸内海の海の堆積物だと思います。100年前はプラスチックは使われてなかったはずなのでこの中には入っていないはず」

海底の地層に含まれる成分を分析することで、過去から現在にかけての地球環境の変化が読み取れるのです。

「この中にこれまでの地球の歴史とか、人間が地球に与えてきた環境に与えてきた影響とかそういう情報がいっぱい詰まっているので」

人類によって激変し「人新世」に入った地球

地層に残る生物の化石などを元に区分される地質時代。

46億年の地球の歴史は先カンブリア時代に始まり、古生代、ジュラ紀や白亜紀などの中世代。

そして新生代となり、現代は1万1700万年前から続く「新生代第四紀完新世」とされています。

しかし第二次世界大戦以降、世界経済は急成長。加えて、核兵器の開発や実験が本格化します。

環境汚染が深刻化する中、オゾン層が破壊されるメカニズムを解明しノーベル化学賞を受賞したパウル・クルッツェンは…

‟完新世はすでに終わった。我々は人新世の中にいる”とし、地球は人類によって激変させられ、「人新世」という新しい時代に突入していると提唱したのです。

別府湾の海底堆積物から検出された“放射性物質”

加 准教授の研究の舞台は、愛媛の西隣。温泉地で名を馳せる大分県別府市の海の玄関口、別府湾です。別府湾は海底付近の酸素が薄く、貝類などの生物が生息しにくい「貧酸素」の海域。海底に沈んだ泥がかき混ぜられにくいため、堆積物の変化を1年単位で特定できるのです。

2021年。加教授をはじめとする研究チームは、別府湾の水深70mにある海底堆積物を採取しました。

異なる濃淡の縞模様が幾重にも重なった別府湾の海底堆積物。この縞は年縞と呼ばれ木の年輪と同じように、一年ごとに海底に降り積もった泥や砂からなる薄い層です。

1916年から2021年まで過去105年分ある別府湾の海底地層から見えてきたのは、環境破壊の痕跡でした。

その一つが核実験によって放出されたプルトニウムやウランなどの放射性物質です。遠く離れた核実験場から大気を通じて降り積もった放射性物質が、1953年以降の別府湾の堆積物から検出されたのです。

加教授:
「これだけ人工放射性核種が増加した時代というのは地球が誕生して以来、はじめてのこと。これは明らかに人が地球環境を変えた証拠の一つになる」

核実験による放射性物質は別府湾だけでなく、南極の氷など世界中の様々な地層からも発見され、地球全体に環境汚染が及んでいたことがわかりました。

核実験が頻繁に行われた1960年代。日本は高度経済成長期を迎えます。

砂浜に打ちあげられたゴミの山…暮らしを便利にしてきたはずが

町のシンボル‟赤橋”がかかる愛媛県大洲市長浜町。

今岡ハル子さん(82)。高度経済成長期真っ只中の1962年に、ここ長浜に嫁ぎ今は亡き夫とともに、船の電気設備の工事などを行う小さな会社を営んでいました。

向かうのは自宅から歩いてすぐの海岸です。

今岡さん:
「ここへ来たら眺めるんよ。魚もおるし、カモメもいっぱいおるし」

家族との思い出がたくさん詰まった海岸でのゴミ拾いが、ハル子さんの日課です。

「すごいんじゃけん。ペットボトルの蓋とか大きいのはよう動かさんけんね。細かいのだけ拾うんよ」

砂浜に打ちあげられたペットボトル、空き缶、ポリタンク…

「きりがないわい。これひっくり返したらなんぼでも出てくるよ」

長浜の海を汚しているゴミは、私たちの日常を便利にしているモノばかりです。

自動車や家電産業の成長に伴って鉄鋼業や石油化学工業が発展し、例を見ないスピードで日本が急成長した高度経済成長期。

あらゆるモノに支えられ、暮らしは便利で豊かなものに変わりました。

日本のGDPが伸びるとともに 地質に刻まれた環境破壊の痕跡

別府湾の地層からもその痕跡が現れます。半導体を洗浄する際に使われた毒性の強い化学物質や、石油や石炭から出るススなどの汚染物質。

プラスチックが細かく粉砕されたマイクロプラスチックなどその数86種類。

環境を破壊した痕跡の増加は、日本のGDPの伸び率と重なります。

加 准教授:
「産業、人口の増加とかあるいは経済活動の活発化。それが地球環境に様々な形で影響を及ぼしたと。これはまさに人が地球環境に与えた影響が甚大になってきたんだなと。まさに人新世が始まったんだなと。地質学的な証拠になるんだということで、別府湾のこのシグナルというのが地球史の一つのターニングポイントになるんじゃないかなと思いました」

このままいくと北極の氷床が消えてしまう!?

地球温暖化の原因となっている二酸化炭素。去年、世界の二酸化炭素の濃度は解析を始めた1984年以降過去最高を更新するとともに、平均気温も統計開始以降最も高い値を記録しました。

加 准教授:
「グリーンランドの氷床が溶けるのを止められないというタイミングが7年後に迫ってる、最短でね。いったん溶けた水というのは氷にはもとに戻らないので、北極域に氷床がない時代になってしまう」

地球全体で7m海面上昇…日本で沿岸一帯が海に沈む想定も

氷床が全て溶けた場合、地球全体で海面が7m上昇。東京や大阪などの都市をはじめ、県内でも沿岸一帯が海に沈んでしまうという最悪の事態が想定されているのです。

加 准教授:
「もしかしたら元の地球環境を取り戻せない事態が起こり始めているのかなという危機感は私もあって」

紙製品に対するニーズの高まりで 紙のまちから生まれた新商品

止まらない地球環境の悪化に少しでもブレーキをかけようという模索が、紙のまち四国中央市で行われています。

明治15年創業の高津紙器です。創業から140年あまり。紙管や紙箱などの紙加工業を営んできた会社が開発したのが…

“木”でも“発砲スチロール”でもなく、“紙”でできたその名も“紙わっぱ”。

ヨーロッパでは2021年から使い捨てのプラスチック容器の使用が規制されていて、紙製品に対するニーズが急速に高まっています。

そうした世界的な流れを受け、設計から製造までオリジナルで生み出したのがこちらの商品です。

高津社長:
「ありそうでなかったと考えております」

水分漏れや、強度の低さからプラスチック容器の代替は難しいとされてきた紙容器。

高津紙器は、箱の内側に特殊なフィルムを貼る技術を独自に開発し、紙の弱点をカバーするだけでなく電子レンジでも温められる構造を生み出したのです。

水口気象予報士:
「見た目もすごい高級感が」
高津社長:
「そうですね。高級な商品が入る形になると思います」

プラスチック製のものに比べて価格はおよそ2倍と高めではありますが、去年の発売以来、首都圏のデパートではお弁当容器に採用。

また、飛行機の機内食でも採用が見込まれているといいます。

高津社長:
「木は切って生やして切って生やしてって感じでまわるので、そういう意味では環境にいいんですけど、これ自体はリサイクルできていないので、そこが今売りながらどうなんだろうと。こういう商品って食べると燃えるごみにいってますので結局、果たしてこれが循環していないのに(環境に)いいのかという話になりますので」

食べ終わった紙の弁当容器も牛乳パックと同じように回収し、再び紙製品として循環させる必要があると感じています。

高津社長:
「自然に皆さんが苦労なく(リサイクル)していただけるような仕組みを考えたいと思ってますね」

ここ、四国中央から地球環境への負荷を軽減する新たな仕組みが生まれるかもしれません。

「自分たちが生きている時代だけが幸せでいいのか」真剣に向き合うべき時がきている

その四国中央の隣、新居浜の地で今からおよそ100年前に住友・第2代総理事を務めた伊庭貞剛。

銅山開発により地面がむき出しになった別子の山に緑を蘇らせようと植林活動に尽力し、日本の環境対策の先駆者となった伊庭は、このような言葉を残しています。

「その大きな恩恵を思っては、別子の山を荒れ果てたままにしておくことは天地の大道に背く。どうにかして乱伐のあとを償い、別子の山を昔の青々とした姿にして、これを大自然に返さねばならない」

加 准教授:
「自分たちが生きている時代だけが幸せでいいのか。子供たちの子供たちが安全に暮らせる環境を残さないでいいのかという倫理ですよね。将来世代が安全に地球環境の中で自分の人生を謳歌できる、そういう地球を残すというのも我々の倫理にしていかないといけない。そういう時代が人新世という時代じゃないかと思います」