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“生きる力を信じる” 聴くことに徹する「いのちの電話」 命を救う相談ダイヤルが存続の危機

2024年6月29日 8:30
“生きる力を信じる” 聴くことに徹する「いのちの電話」 命を救う相談ダイヤルが存続の危機

「2万1,818人」これは全国で2023年度、自ら命を絶った人の数です。

生きることに迷いが生じた人を救ってきた相談ダイヤル「いのちの電話」。

「電話」の持つ力…その活動と、いま直面する危機に密着しました。

24時間365日 耳を傾ける「いのちの電話」

(相談員)「もしもし、北海道いのちの電話です。ようやくつながった、何回もかけてくださったんですね」

この日もひっきりなしに鳴る「いのちの電話」。

電話の向こうから聞こえてくる声を受け止める。

“傾聴”に徹するいのちの電話です。

この日電話をかけてきたひとり暮らしの高齢女性は、数日後に大きな手術を控えていました。

20分に及ぶ相談のあと、落ち着いた様子で電話を切ったといいます。

(相談員)「ご自身の不安や心配を言葉にして電話をかけることは、すごく勇気のいることだと思うんです。でもそれをしてまで電話をして誰かに聞いてもらいたい思いを受け止めたい」

1979年、札幌に開設された北海道いのちの電話。

24時間・365日電話の向こうの声に耳を傾けています。

事務局長の杉本明さんです。

相談員は、交通費すら無報酬のボランティアだといいます。

(杉本明事務局長)「いのちの電話は一般市民のボランティア活動。ここで理論的なことを座学で学ぶので、研修で十分。資格はまったく不要」

(記者)「僕らでも相談員になれるんですか?」

(杉本明事務局長)「なれるんです」

相談員になるための研修会です。

研修委員も務める杉本さんが相談員の役。

(相談者役の受講生)「すごくイライラしてきて」

(杉本明事務局長)「なんかそういうふうな思いがイラつきにさせてしまう、そんなことなんですね」

受講生は、相手の相談に耳を傾ける「傾聴」を学ぶのですが、簡単なようで難しいことに気付かされます。

(受講生)「話をそのまま聞く、肯定も否定もせずにそのまま受け止める、聞くというのは難しくて」

(受講生)「沈黙の時は本当にどうしようどうしよう、それしかなくて」

研修は1年8か月に及びます。

さらに3万円の受講料が必要。

これも自己負担です。

「消えたい」3時間超の電話も…

(相談員)「ゆっくりどうぞ。いけないことをして迷惑をかけているって、自分に価値がないんじゃないかと思ってらっしゃるのね。罪を償わなきゃいけないっておっしゃるけど、どういうことですか、もう少し詳しく聞かせていただけますか」

電話をかけてきたのは関東に住む30代の女性です。

家庭問題に悩んで自らを責め、命を絶つことをほのめかしました。

(相談員)「離婚はされているんですか?これからね。養育費をあなたが払うことになっているんですね。あなたはあなたとして辛いんですね」

この電話は1時間に及びました。

長いものでは3時間を超えることも珍しくないといいます。

(相談員)「辛くて苦しくて、そこから逃げたい、消えたいになっていく。途中は涙、涙で沈黙も長かったんですけど、その中でいろいろなことを考えられたんじゃないかなと思います。最後の“頑張ります”という言葉を聞けて、聞かせていただいてありがとうございますというかね、そんな気持ちになりました」

専門家は、電話で人と会話することの効果を力説します。

(札幌医科大学 医学部神経精神医学講座 河西千秋主任教授)「自殺を食い止めているのは、つながっている感なんです。電話を通してじゃないと伝わらないものがお互いにある、苦しんでいる人も自分で状況を伝える、助けたいとか話を聞きたい人の思いも電話を通してじゃないと伝わらない、そこは非常に大きいです」

たった1本の電話でも命を救えることがある。

杉本さんが嬉しそうに見せてくれたのは、事務局に届いた手紙。

「昔助けていただいたものです。去年、学校を無事卒業することができました。いまも死にたくなったり生きたくて仕方なくなったり、気分の上下はありますが、頑張って生きています。楽しさを日常に見いだしていきたいです」

(杉本明事務局長)「こんなふうに便りを出してくれるのは、力があると思います。電話の声に、私は一番大事なところがある。それは人が持つあたたかさ、誰かとつながっているよ、ひとりじゃないよ、それが一番伝わるのが声じゃないかなと思います」

存続の危機…命の大切さを伝え続ける

開設から45年。

北海道いのちの電話はいま、大きな危機にさらされています。

(杉本明事務局長)「相談員の平均年齢が68歳~69歳なので、どうしたって自然減というのがある、どんどん減る分、相談員をしっかりと補っていかないと、今後の継続・存続が危ぶまれる状況」

北海道いのちの電話の相談員は、平均年齢が68歳と高齢化が進んでいて、実稼働できる相談員の数は年々減少しています。

今の相談員は180人ほどですが、仕事や病気などの事情でシフトに入れるのは7割ほどだと言います。

全てのブースが埋まらない時間帯もあり、年間30万件の着信に対し、電話を受けられるのはわずか5パーセントです。

この日、杉本さんの姿は札幌市内の高校にありました。

若い世代にアピールしたいと、2022年から続けている「こころのライブ授業」です。

札幌のロックバンド「ナイトdeライト」が希望の歌をー

自殺の問題、そして命の大切さを杉本さんが講演します。

高校生に明るく伝えるのが持ち味です。

(杉本明事務局長)「お願いがあります。自分を大切にしてほしい。同じようにほかの人も大切にしてほしいと思います。きっとそうすると自分も、大切にされると考えています。人には生きる力がある、解決する力がある。自分だけで抱えることを避けてください。誰かに話をしてください。もし相談を持ち掛けられたら聞いてほしい」

(高校生)「悩んだら誰かに相談して、自分で抱え込まないようにしようと思いました」

(高校生)「時間をかけて何があったかを聞いて、相談にのってあげられるようになりたい」

(高校生)「自分ひとりで抱え込まずに周りに相談したり、周りの人が悩みを持っていたら、自分が聞いてあげて寄り添ってあげられる立場になりたい」

杉本さんが思ういのちの電話の原点。

それは「生きる力を信じる」ことです。

(杉本明事務局長)「可能性はみんなに平等にある。何かしら悩みや辛いことがあって心が沈んでいても、誰かと人とかかわれば元気になれる、元気になる姿に感動します」

人のあたたかさを伝え、受け止め続けるいのちの電話は、いまこの時も助けを求める人たちとつながっています。

北海道いのちの電話・相談用ダイヤル(011-231-4343)