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【特集】「飼い主が自ら命を…」一生一緒にいたくても、様々な理由で起きる『ペットの飼育崩壊』飼い主と動物、両方の“命”に寄り添う現場に密着「高齢者もペットも両方とも見守る」

2024年2月10日 12:00
【特集】「飼い主が自ら命を…」一生一緒にいたくても、様々な理由で起きる『ペットの飼育崩壊』飼い主と動物、両方の“命”に寄り添う現場に密着「高齢者もペットも両方とも見守る」
「かわいい」だけでは飼えない命

 ペットは、大切な家族の一員。しかし今、飼い主の高齢化・急病などで世話ができなくなったり、コロナ禍などの社会的事情で飼い主を失ったりして、行き場を失う動物が増えています。飼い主と動物、その“両方”を救おうとする活動を追いました。

“最後の犬”と決めて飼うも思いがけず入院…退院後もペットのために施設の入所を拒否「できるだけ最後まで見てあげたい」

 ボランティアスタッフが訪問したのは、坂本昌子さん(77)の自宅です。

(坂本昌子さん)
「まだ働いているときだったので、ペットショップで買ったんです。絶えず犬がいる生活だったので、この子がもう最後の犬かなと思って」

 愛犬・風太くんを最後の犬と決めて飼い始め、8年が過ぎたところですが…。

(坂本さん)
「道で倒れて救急で運ばれて、2か月ほど入院したんです。そのときから、ずっと保護の方にお世話になっていまして」

 坂本さんが緊急入院したとき、福祉関係者からの連絡を受けてスタッフが急行。風太くんを一時的に預かって、保護しました。それから2か月後、坂本さんの体調が回復し、退院が決まったときのこと―。

(坂本さん)
「退院するときに、施設に入りますか?と言われたんですけど、もうちょっと犬と暮らしたいから断りました。まだ風太は8歳だから、私より長生きするかもわからないけど、できるだけ最後まで見てあげたいと思って。この子がいるから毎日、朝に起きて晩に寝てという生活ができているので。独りぼっちだったら、だらだらしていると思います」

 体は不自由でも、風太くんと一緒に暮らしたい―。今は一人で散歩ができるようリハビリに励んでいて、週に1回、ボランティアスタッフが「散歩代行」や「ペット用品の買い出し」などを支援しています。

 ペットを飼育する高齢者を支援しているのは、兵庫・尼崎市で野良猫やペットの保護活動をしているNPO法人『C.O.N』です。野良猫の不妊去勢手術をする“地域猫”活動や、譲渡会などを続けてきました。3年ほど前から「飼い主が高齢化して世話ができなくなった」という相談が増え、動物が路頭に迷わないよう、飼い主への支援を始めました。

(『C.O.N』理事長・三田一三さん)
「高齢者も、長生きするのには“安らぎ”というかペットが必要ですが、病気になったりして入院しないといけないという場合に、引き受けてくれる所がないと。そういう高齢者もペットも両方とも見守って、面倒を見られるような場所があればということで、そこからスタートしました」

『シニア飼い主の支援』『一時預かりボランティア』“小さな命”を守るための様々な対策も、活動すればするほど保護される猫は増加する実情「もう限界を超えている」

 この日、ボランティアスタッフが訪れたのは、一人暮らしの女性(84)の自宅。一緒に暮らすのは野良猫だった親子、母猫・ミーちゃんと娘・ミーコちゃんです。

(女性)
「朝起きたら、この白黒(ミーちゃん)がベランダで、子どもを6匹産んでいました。自分の年齢をみたら飼えないのはわかっていたから、いくらかわいくても、飼う予定はなかったんです」

 2017年、自宅のベランダで、野良猫だったミーが6匹の子猫を産みました。動物愛護センターに保護を求めたものの殺処分になると聞き、『C.O.N』に相談。その後、4匹の子猫は里親が見つかりましたが、残された2匹は、住み慣れたこの場所で飼うと決めました。

 『C.O.N』のスタッフは週に1回、トイレの掃除や餌の買い出し、猫の爪切りなどもサポートします。部屋には、「ペットの緊急連絡先」として『C.O.N』の連絡先が書かれたステッカーが貼られていました。

(女性)
「もしも入院するようなことがあったら、『ここに必ず電話するんやで。そのときになったら、家の鍵を預かってでも餌をやりに行くから』と言ってくれて、ちょっと安心かなと思っています」

 3年前から始まった『高齢者とペットの安心プロジェクト』ですが、活動資金は「ふるさと納税」で尼崎市に寄付された寄付金だけが頼りです。限りある資金の中で、高齢な飼い主とペットの暮らしを支えることは、簡単ではありません。

 『C.O.N』のスタッフ・藤村貴代美さんは、施設で収容できない猫たちを、自宅でも保護しています。

(『C.O.N』スタッフ・藤村貴代美さん)
「私がお世話するなかで、7匹が限界かなと思っていて。7匹の中で里親を探したり、この10年ぐらいは、それぐらいをずっと回っていた感じです」

 現在は、2匹の保護猫と暮らしています。もるさんちゃんは13年前、近所の蕎麦屋さんの残飯を漁っていると聞き、捕獲器を仕掛けて保護しました。

(藤村さん)
「野良猫が赤ちゃんを産んでしまって、またその地域で子猫が増えて。親猫・子猫という状況が広がっているので、受け入れる量としては、もう限界を超えているんです」

 活動すればするほど、保護される猫は増える…ジレンマの中、里親を探すまでの間、保護施設にいる高齢の猫を一時的に預かってもらう『預かりボランティア』という取り組みも始めました。

 松本敏さん(76)と妻・絹江さん(72)は、10年ほど前まで猫を飼っていましたが、その後は年齢を考えて、ペットは諦めていました。そんなとき『預かりボランティア』を知り、飼い主のいない高齢の猫を預かり始めました。

(松本絹江さん)
「預かって、なかなか里親さんが見つからず、もう2年やね」
(松本敏さん)
「3年目です」
(絹江さん)
「いろんな猫を預かっているけど、こんなに長いのは初めて。飼いたいけど、もう無理やもんね」
(松本さん)
「こっちが年寄りですからね」

 ペットとして飼うことはできなくても、ボランティアを通じて喜びを得られます。さらに、里親が見つからなくても、高齢の猫を看取ってもらえる可能性も広がります。

飼い主が自ら命を絶ち、居場所を失った1匹の猫 次は「絶対に幸せになるように」譲渡会に参加したが…『保護猫施設』の厳しい現状も

 尼崎市内にある保護猫施設『ふみふみ』には、約80匹の猫が保護されています。『C.O.N』とも連携を組んでいますが、多頭数の猫を保護するのは、簡単なことではありません。

(『保護猫ふみふみ』代表・西尾美香さん)
「医療費だけで、年間400万~500万円かかります。電気代とか入れて、800万円ぐらいはいくのかなと。里親さんの寄付とか皆様の寄付とかで、何とか…」

 もともと西尾さんは会社員として働いていましたが、年間200件以上の相談を受け、活動に専念するため会社を辞めました。今は貯金を切り崩し、バイトをしながら保護施設を運営しています。

 コロナ禍もあり、飼い主のさまざまな事情によって、行き場を失う猫は増えているといいます。

(西尾さん)
「この子の飼い主だった方は、自ら命を絶ってしまいました。うちには、不動産会社のほうからご連絡があって、保護に行きました。玄関に入って、まず1枚の紙がありました。そこには、『猫がいます。だから、ドアはすぐに閉めてください』『2人がかりで、ネットで捕まえてください』ということが書かれていました。今から亡くなろうとしている方が、もっと恨みつらみってあったと思うんですけど、そのことだけが書かれていて…」

 飼い主が亡くなり、2022年11月に保護された11歳の猫。施設では愛美(あいみ)と名付け、譲渡会に参加して、里親を探すことに決めました。

(西尾さん)
「この子を次に渡すときには、絶対に幸せになるようにしてほしいし、飼育放棄が絶対にないように見つけるつもりです。新しい家族のもとで最後まで…それをきっと飼い主の方も望んでいたと思います」

 譲渡会の当日。会場には、尼崎市・伊丹市・宝塚市にある4つの保護団体から、26匹の猫が参加しました。そこには、愛美ちゃんの姿も。

(愛美の保護に同行・竹下雅子さん)
「薄暗い部屋で、半月間いました。一人ぼっちで」
(譲渡会に参加した家族)
「前の飼い主さんは、自殺されたんですか?」
(竹下さん)
「はい。最期の手紙が、本当に猫のことしか書いていなくて。どうか保護してあげてください、と」
(譲渡会に参加した家族)
「そうかー…」

 愛美に興味を示す家族もいましたが、猫の11歳は人間でいうと60歳ほど。子猫に人気が集中するのも、また現実です。

(竹下さん)
「まだ愛美ちゃんにお声はかかっていないですけど、この子自身が穏やかに過ごせるというのが、最終目標なので。こういう所で、そういうふうに保護された子がいるんだよ、ということを知ってもらうだけでも良いのかなと思っています」

 高齢化や様々な事情が招く、ペットの飼育崩壊―それは、孤立を深める人々の暮らしの“今”を表しているのかもしれません。

(「かんさい情報ネットten.」2023年10月16日放送)