×

侵攻5か月の裏で進む「ロシア化」(1) 市民が語る、ベールに包まれた支配の実態

2022年7月23日 19:22
侵攻5か月の裏で進む「ロシア化」(1) 市民が語る、ベールに包まれた支配の実態
スーパーには多くの商品が並ぶ

ロシアによるウクライナ侵攻開始から5か月。今も激しい戦闘が続く一方、東部や南部ではロシアによる「併合」に向けた動きも始まっている。ロシア軍が占領した町にいまも暮らす市民の声を取材すると、驚くべきスピードで進む現地の「ロシア化」の実態が見えてきた。

■「ロシア製」並ぶスーパー “ルーブル支払い”も

取材に応じてくれたのは、3月にロシア軍に占領され、現在ウクライナ軍が奪還を目指す南部の主要都市・ヘルソンにいまもとどまるコンスタンチンさん(44)。ロシアによる侵攻以降、YouTubeでヘルソン市内の様子を発信してきた。撮影した映像をみると、スーパーマーケットには多くの商品が並び、広場では家族やカップルで過ごす人々の穏やかな姿も確認できる。


発信を続けるコンスタンチンさんに話を聞いた。

  ◇

――ヘルソンの状況を教えてください。

2月24日に空港あたりで爆弾の音が聞こえ、煙が見えたことから戦争が始まったのだとわかりました。数日間にわたり(ヘルソン市近郊の)アントノフ橋周辺での戦闘が続いていましたが、3月になるとロシア軍が市内に入ってきました。

その後しばらくは、すべての店が閉まっていましたが、いまは店も営業しています。クリミア半島を通る輸送ルートが確立され、ロシアから多くの商品が運ばれてきています。

逆にウクライナ製のものは少なくなっていて、商品の交代が行われています。スーパーマーケットでは、(ウクライナ通貨の)フリブナと(ロシア通貨の)ルーブルが両方使えるようになっています。ただ、ルーブルは市民にはまだ出回っていないです。最近では、ロシア系の銀行も市内にできました。

また、ロシアが年金受給者に対してルーブルで年金の提供を始めています。申請のために多くの人が行列を作っています。このまま続くと、だんだんルーブルがヘルソンの市場に入ってくると思います。

――生活の中で困っていることは?

インターネットの接続は問題があります。5月までは、ウクライナの携帯電話サービスをみんな使っていました。しかし、5月末か6月初旬にウクライナの携帯通信が切断されました。そして、ロシアの通信会社の携帯電話とインターネットのパッケージが売られるようになりました。ほかに方法がないので、いまはそれを使っています。

ロシアの通信会社のため、大半のウクライナのニュースサイトなどはブロックされ、代わりにウクライナでブロックされていたロシアのニュースが読めるようになりました。

VPN接続すれば、自由に読みたいニュースを読んだり、YouTubeにアクセスしたりできますが、VPNが使えないと外の情報にアクセスできません。

■“ウクライナの英雄”ポスターは破られ…「親ウクライナ」住民は市外へ

コンスタンチンさんが5月に撮影した動画に映っていたのは、ポスターを破る男性の姿。ポスターは、ウクライナの民主化運動で死亡した人々を「英雄の100人」として称える内容のものだという。

破っていたのは、「ヘルソン市民で親ロシア派」と名乗る人々。カメラの前で、民主化運動について「ナチスの痕跡」「これは私たちの歴史ではない」と切り捨てた。

コンスタンチンさんは、ロシア軍の占領下で、多くの「親ウクライナ」住民は市外に脱出したと話す。

――ロシアに反発する市民はいますか?

当初は、抵抗する市民もいました。大人数のデモも行われましたが、主催者は逮捕され、その後、多くの人がヘルソン市を離れていきました。特に、ウクライナを強く支持する人たちの多くが避難しました。

今も、夜にバーなどで座っていると、ウクライナの歌を歌ったり、ウクライナを支持したりしている人もみかけます。ただ、デモなどの行動を起こせば、ロシア側から何らかの対応をされるかもしれません。

■両サイドに“嘘”…そのまま伝えたい

――なぜヘルソン市内の映像を発信し続けているのですか?

みんなに、実際に何が起きているのか知ってほしいからです。ヘルソンについて報じられていることは、現実とは違うことも多くあります。ロシア側もウクライナ側も、どちらも嘘をついていると思います。

ロシアは、支援物資の配給を行ったり、年金をルーブルで給付したりしている様子を積極的に報じています。しかし、実際には長い行列ができていて、なかなか受け取ることができません。また、ルーブルも、まだほとんど一般の人たちには出回っていません。

一方、ウクライナも「ヘルソンが危ない場所だ」と、住民に恐怖を与えようとしています。私自身も、ロシアのSIMカードが販売されている様子をYouTubeで配信したところ、ウクライナのサイトで「ロシアの協力者」として扱われてしまいました。

私はただ、街を歩きながら、見たものをそのまま配信しています。そうすることで、見た人が何が起きているのか、知ることができると思うのです。

――今後、ヘルソンの街はどうなると思いますか?

「ロシア化」の試みが今後どうなるかわかりませんし、ウクライナがヘルソンを奪還しようとすれば、多くのものが破壊されるでしょう。ロシアもウクライナも、政治家たちが政治的なスローガンを使って、どちらかを支持させようとしていますが、私はこれに参加しないようにしています。

私は、生まれ育ったヘルソンという場所が好きで、できるだけ家族でこの場所で暮らしたいと思っています。ただ、平和に暮らせることだけを望んでいます。

  • 日テレNEWS NNN
  • 国際
  • 侵攻5か月の裏で進む「ロシア化」(1) 市民が語る、ベールに包まれた支配の実態